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紅蓮の薔薇



その日の午後、リクが自室となったビスカス邸の客室に荷物を置き終えた頃。

ビスカス邸前に大きめの馬車が停まったのを、リクは見た。

窓から確認しただけでも、それなりの貴族のものだとわかる。

「あれが…。」

リクはそう呟くと、エントランスに向かった。



カラムは使用人からの報告を受け、直ぐにエントランスに向かった。

久しぶりに会うことに高揚しないわけではないが、それ以上にこれから訪れるであろう暴風のような未来にすでに疲労感すら覚えていた。

しかし、気はしっかりと持たなければならない。

相手は自分の許嫁である。

無様な、または無礼な行為は絶対にしてはならない。


カラムがそこに着くと、リクがすでに待っていた。

「早いな。」

「色々と情報収集するのが私の本来の目的ですからね。彼女についても調べさせてもらいますよ。後ろから見ていてもよろしいですか?」

「私は構わないが。」

そう伝えるとリクはエントランスの正面から少しずれた位置に立った。

サーシスはカラムの隣に控えている。

その他の上級使用人達もしっかりと揃っている。



扉を開け、カラム達は相手を出迎える。

馬車から降りてきたのは10歳そこそこの少女とその侍女である。

少女は全身を派手な赤の服で着飾り、太陽のような明るい笑顔でカラムの方に走る。

「カーラムー‼︎‼︎」

そのままの勢いで飛びついた。


「うわッ⁉︎」

押し倒されそうになるカラムをサーシスが片手で支える。

遠目から見ると軽く、サッと支えているだけのように見えるが、子供とは言えども二人分の体重とその勢いを片手で受け止めているのだから相当なものだ。

リクの注意は、少女よりもまずサーシスの筋力に向いてしまった。


改めて、少女を見る。

白く美しい肌と対照的に着飾った燃えるような赤。

彼女がピメンタ・ツリパ・オイングス、その人である。



「久しぶりね‼︎元気?」

「今の騎兵の如き突撃で死にかけた。」

「あら、じゃあ救護兵が必要ね。」


年はカラムの一つ下。

ビスカス家同様、広い領地を有するツリパ家の長女である。


カラムの曽祖父の代から、ツリパ家とビスカス家は軍事的にも、経済的にも大きな同盟を結んでいた。

その頃、王国は大きく揺れ、各地で力をつけたものたちが周りを巻き込んで戦乱へと導いていった。

ビスカス家もその一つである。

力をつけた人物は後の世で貴族となっていった。


ビスカス家とツリパ家は同盟を結び、他の勢力を圧倒した。

よって、二つの勢力は互いに大きな領土を獲得したのだ。


今でも、この同盟は続いている。

この約束された結婚は、その影響でもある。

嫁入りという形をとるため、どちらかの家で産まれた女児がもう片方の男児に嫁ぐ訳だ。



「サーシスも元気そうね。」

「はい。ピメンタ様の塗り薬のお陰で腰痛が治りました。」

「本当?それは良かったわ。」

ピメンタは少々誇らしげに言うと、リクに目を移す。

「彼は?」


「リク・シマザキ。私の家庭教師だ。」

「あら?家庭教師なら居たわよね?」

「彼は歴史専門だ。他の科目は教えないらしい。」

「へー。」


ピメンタはその場からいきなり走り出す。

「ちょ、おい‼︎」

カラムは止めようとするが、間に合わなかった。


ピメンタの向かう先はまっすぐリクの方。

そしてリクの目の前に立つと、彼をゆっくりと見回した。

「あなたがリクね。」

「そうですが…何か?」


ピメンタは、こう質問した。

「私とあなたの違いは何?」


リクは腕を組み少々考えた後、答えた。

「一番の違いは性別でしょうね。」


すると

「面白い‼︎初めて聞いたわその答え‼︎」

と、ピメンタはその場で飛び跳ねた。


リクは、はしゃぐピメンタに笑顔を向けながら冷静に考える。

彼女が質問するときに一瞬見せた目。

それは、自然界で圧倒的強者が弱者に向けるような無慈悲なものだった。

あれだけ明るい少女があのような、大人ですらあまり持ち得ぬ目を見せたことを、静かに考えているのだ。


この時期のピメンタのことはあまり歴史に描かれていない。

彼女に注視して記録する者が少なかったのだろう。

よって、このことは自分で調べる必要がありそうだ。


彼女の裏側に迫る。

それはまた別の危険が潜んでいるだろう。



「みーんな、地位とか階級とかそういう事ばっかり言ってつまんないんだもーん。あなた、何者なの?」

「私はカラム様に歴史を教えている家庭教師です。」

「…………何か隠してない?」

またあの目だ。

表情は笑顔を見せているのだが、目が笑っていない。

むしろその目は敵意の塊なのだ。

「まあ、隠していないと言えば嘘になりますねえ。」

もしくは軽蔑の目。

相手を蔑むような凶悪なものだ。


「ふーん。まあいいわ。いつか聞き出すことにしましょう。」

再び、何事もなかったかのような笑顔を見せ、カラムのもとに走っていく。

リクの中で、彼女に対する一つの仮説が出来上がったのと同時だった。




カラムが、客室にいたピメンタに呼ばれたのは夕方の頃だった。

念のためリクを呼び、それから客室に向かった。


リクは部屋の外に待機するといって、中には来なかった。

部屋に入ると、身軽な服に着替えたピメンタがベッドの上に座っていた。

一瞬、妙な方向に考えが及びそうになった自分を頭を振って打ち払うカラム。

「あ、ごめん。着替えたほうがいいかしら?」

「いや、それが楽ならそれでいいぞ。」

「じゃあお言葉に甘えて。」

そのままポスンとベッドに横になるピメンタ。

カラムは机の前の椅子に腰掛ける。


「彼はどういう人なの?」

手を天井に翳しながら、ピメンタは尋ねた。

「どこまで聞いている?」

「うーん…。家庭教師ってことぐらいかしら。」

「じゃあその情報に偽りはない。」

「そうなのかあ。でもなあ…。」

「どうした?」



「カラムは、愚鈍な平民共と一緒にいてほしくないんだよねえ。」

「またそれか?」

「だって、見るからに裏がありそうな人間といる必要ないでしょ?表向きは好青年だけど、裏では何考えてるのか全くわからないわ。あれは金銭を取引する卑しい者の顔と同じ顔よ。」

「そこまで言わなくても…。」

「いや、薄汚いあいつらがとことん嫌いな私にとって、彼はそのうちの少し優性なやつでしかないわ。あまり近づきたくはないんだけど、それでも彼の陰謀がわかるまでは聞き出さなきゃならないの。貴方のためにもね。」

「彼はそんな人間じゃない。」

「あら?どうして?」

「………………。」

「根拠がなきゃ、話にならないわよ。まあいいわ、身体を使ってでも彼の弱みを握ってやるわ。」

「本気か?」

「私が本気じゃなかったことがあった?」



ピメンタ・ツリパ・オイングス。

又の名を首吊り縄のピメンタ。

彼女が当主となったあとに処刑された人数が、今までの比ではないことからこの呼び名がつけられる。

だがこれはまだ先の話。



ピメンタの部屋から出てきたカラムは、重い壁を見た気分になった。

ピメンタも両親とはまた別の大きな壁なのだ。

彼女を説得させねば、彼の道に未来はない。


リクはまだ待っていた。

「遅くなった。」

「ピメンタ様。恐ろしい方ですね。」

「なっ‼︎聞いていたのか⁉︎」

「ええ、あなたのボタンの裏から。」

見ると、謎の黒い小さな道具が付いている。


「盗聴していました。」

「魔法障壁を貫くというのか…。」



あらゆる方面を処理せねばならない彼の心は深く沈んだ。

しかし、リクはいつもの笑顔を取り戻していた。

リク自身は仮説の実証に満足していたのだった。



お世話になっております。

高砂団子です。



美しい花には棘があるといいまして、今回は可愛らしいピメンタ回ですね。

最初はこんなキャラにする予定では無かったのに、眠さと過労の中書いて行った結果、こうなりました。

正直、吃驚です。


さて、次回なのですが、投稿できるか微妙です。

今回も1日遅れてしましたし、次回に至っては投稿自体困難に思われます。

何卒ご容赦くださいますようお願い申し上げます。

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