リクの報告
この話は本編からは多少ずれています
言うなれば、Part5,5です
第5話でリクが1分ほど出かけているシーンがありましたが、そこを描きました。
それではどうぞ
転移装置を起動し、座標を指定する。
一瞬のまばゆい光に目を閉じれば、着いたのは見慣れた白い空間だった。
清潔感のあるこの空間は、歴史観察研究所。
通称、歴研である。
その転移室に帰ってきたリクを一人の人物が出迎える。
「特例だなんて考えられないわ…。」
出迎えたというよりは、居合わせたと言った方が適切であろう態度を見せる彼女の名は、ナツミ・アマギ。
胸元に「天城」という研究所用の名札をつけた彼女は、先日リクの耳を破壊した張本人である。
リクの同期で、小中の同級生、所謂幼馴染だ。
高校で離れたものの、大学で再開。
就職先も同じという謎の引きを見せる人物だ。
「しゃあねえだろ?研究対象であるカラムに初っ端から会っちまったんだから。」
「元より、過去への干渉禁止は大原則だったはずでしょう⁉︎」
「そう叫ぶな。誰かがこの先通ることになった道を、俺があえて切り開いていってるんだから。」
「かっこよく言ってるけど、要するに重大なミスを隠蔽したいだけでしょ?」
「隠蔽してるわけじゃないぞお?予想外の出来事を逆手にとって次なる研究に繋げようって魂胆だ。」
「所長になんて言われるのやらね…。」
「その所長に命じられたのさ。」
「はあ…。なんでこんな奴が…。」
「ま、そういうことだから報告してきまーす。」
「ああ、ちょっと!」
ナツミの横をすり抜けて、自分の研究室に研究所用の服を取りに行く。
内心ではリクは非常に緊張していた。
誰も行わなかった歴史干渉。
やってはいけなかった。
それをやってしまった。
厳重な処分が言い渡されても仕方がないはずだ。
それにも関わらず、所長はそれを咎めず、寧ろさらなる研究課題を与えてきた。
「過去に干渉し、未来への影響を調べろ。」
どんな危険があるかわからない。
どんな事態が起きてもおかしくない。
そんなことをしろと告げられた。
動揺しないほうがおかしい。
カラムに実際に会ったことで、舞い上がっていた。
だが後々考えれば、この任を与えられなくても、すでに取り返しのつかないぐらい干渉していたはずだ。
自分の軽率さが非常に恐ろしい。
着替えてから、所長室に行く。
所長室前のパネルが、所長の在室を告げていた。
「失礼します。」
やや上ずった声を隠すように入る。
「大役を与えてしまったな。すまない。」
低く、それでも部屋に響く声で労ったのは、ショウタロウ・ミヤウチ。所長だ。
リクは陰でみやっちと呼んでいる。
「いえ、本来ならば取り返しのつかないミスになっていたところ。所長の機転と配慮のおかげです。」
「いつかは、誰かが通らねばならない未開拓の道。それを君に通らせることになってしまったこと。それについて、私は謝罪するべきだろう?」
「やめてくださいよ。自分にとっては非常に楽しい挑戦ですから。そんな機会を与えてくださったことに感謝しています。」
「それなら良かったのだが。」
内心では、心臓が口から飛び出そうなリク。
しかし、声を震わせず、笑顔を崩さないのは、対外時空活動で緊張と長く戦った成果である。
「で、今のところはどうなんだ?」
「こちらに。」
手元の資料をショウタロウに渡す。
「今更だが、いつまで紙媒体を使う気なのだ?」
「紙がなくなるまでですかね?こっちの方が落ち着くんですよ。」
「まあ、魔鉱石系統の不具合にもダメージが無いのは有難いが。だが物理的なファイルが必要になるのだよ。売っているところも少なくなっているだろう?」
「でも、強制はなさらないのでしょう?」
「そうだが…。」
「ならこのまま使います。」
ため息を一つついて、ショウタロウは読み始める。
一通り流し読みした後、顔を上げて、再びリクに問う。
「今のところはレールの上か。」
「そうですね。変化はありません。ですが、気になる点がありまして。」
「なんだ?」
「歴史というものは大きな事しか描かれません。逆に、大きくなればそれは歴史に残ります。今のままでいけば、自分の名前が自分の歴史の教科書に載ることになりかねません。それは気持ちが悪いのです。」
それを聞いたショウタロウは、一瞬驚愕の表情を浮かべたがすぐに吹き出した。
あまり笑わないショウタロウの笑い声にリクは唖然としてしまう。
「研究者なのだから、自分の名を残すことは光栄に思うべきだぞ。それにそういった影響を全て調査するのが君の任務のはずだ。気にしていたら、この先やっていけんだろう。」
「はあ…。」
「はあ…じゃないだろう。覚悟と自覚、そして誇りを持てと言っているんだ。任務を与えたのは、適任だとも思ったからだ。もっと自分を誇れ。いいな?」
「はい。」
「では引き続き現地に赴き、調査を続けろ。」
「はい。それでは行ってきます。」
立ち去ろうとするリクにショウタロウが声をかける。
「次の報告はもっと遅くしてくれ。連続で来られると疲れる。」
所長室から出て、再び自分の研究室に戻る。
最低限の消耗品だけを持って、転移室に足を運ぶ。
「次は、何時になるの?」
ナツミの声に、廊下でふと足を止める。
少し心配そうな声。
長い間会えないような表情だ。
「そうだなあ…一時間後に設定しておくよ。」
ムードも何もあったもんじゃないリク。
ナツミはため息を吐く。
「バカじゃないの…?そういう時は、『必ず帰ってくるから』みたいなことを言うもんでしょ?」
「お前にその台詞を言って、なんか利益になるか?」
「そうだけど…私だって、一応女よ?」
「その前に、めんどくせえ幼馴染だ。俺から見れば、同性と変わらん。」
「何よそれ。」
「つまり、お前に向ける気はない!」
「はあ…わたしの近くにはまともな男がいないのかしら…。」
「類は友を呼ぶって言うんだよなぁ〜。」
「私がまともじゃないって言いたいの?」
「さあねえ…ま、楽しんでくるわ。」
「ちゃんと仕事しなさいよ。」
「へいへい。」
転移先の時間は、こちらに出てきた1分後。
カラムたちを待たせるわけにはいかない。
「さあ、彼の後押しに行きますか。」
リクの笑顔は明るいものだった。
いかがでしたでしょうか
幼馴染、ナツミ・アマギ。
それから所長のショウタロウ・ミヤウチ。
ちょっとだけ出てましたが、今回ちゃんと登場ですね
別に描く必要も無かったのですが。
突然ですが、次回、そして次次回と投稿が無い可能性が有ります。
この先のスケジュールと要相談なのですが、正直きついものがあります。
その点はご了承ください。
それではまた次回お会いしましょう。
さようなら。
失礼いたします