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日常の転機

 自然豊かでありながら、人々の営みもそれに負けることはない。

 そんな理想的な形が、ここアクロアイト王国であった。

 しかしそれは、自然に太刀打ちできるほどの力を人間が持ってないことの表れでもある。

 自然というものの中には、気候や地形も当然ながら含まれるが、生物だって含まれる。

 人には抗えない、大きな力を持った生物たちが人の生活圏の外には生息しているわけだ。

 だが、少しずつ、人々も力をつけていった。

 それは魔法の存在である。

 古代の人間は、神の力を借りて、他の生物には持ち得ない武器を作り上げていった。

 己を守るため、敵を葬るために。

 神の力、魔法を使える人間は限られてくる。

 特に、より強大な魔法を使おうとすれば己の肉体、もしくは精神を犠牲にする可能性もあるのだ。

 そして、人々は魔法に変わる力を欲した。

 辿り着いた答えは技術という力であった。

 銅剣を鉄剣に、投石を弓に、木柵を石壁に。

 魔法の力は健在ながらも、技術が大きく発展し始めた、王国歴582年。

 時の流れが、大きく変わる事件が起きる。



 高価そうな服を着た人影が林の中を歩く。

 その裾が汚れてしまいそうなことに声を荒くする人間もつけず、彼は一人で歩いていた。

 この国に住む、12歳の少年が着るものにしては、眩しすぎる純白の服。

 だが、彼の名をカラム・ビスカス・ルーと知れば、この国の人間ならば誰もが納得するだろう。


 大貴族の家系に生まれた人間である彼の名を、知らない人間はいない。

 財力の秀でたラウルス・ビスカス・ヌァダを父に持ち、

 国内で一二を争う美貌をもつエレタリア・ビスカス・ディアンを母に持つ。

 所有する土地は、このアクロアイト王国で一番広い。

 そして、王国内にある6箇所の主要都市の内2つを抑えている。

 小国としてやっていけるほどの財力と土地を持つ一大貴族の長男がカラムなのである。


 そんな彼が林で何をしているのか。

 なんら難しい理由はない。

 ただ単純に抜け出してきただけである。


 重苦しい貴族社会の中で生きるのは容易なことではない。

 ましてや、大貴族の嫡男という人物に向けられる重圧は、とても12歳の少年には耐えられないものである。

 だからこそ、日頃の息の詰まるようなストレスを、こうして解消しているのである。


「ん?」

 ふと、カラムの足が止まる。

 視線の先には、小さな小屋があった。

 見た目は普通の小屋だが、カラムには引っかかるものがあった。


 一週間ほど前も同じようにこの辺りを通っている。

 しかしその時にはこのような小屋は見なかった。

 たったそんな期間で建物が建つだろうか。

 一週間で、小さいながらもしっかりとした小屋を建てるのは至難の技だ。

 魔法を使えば不可能ではないのかもしれないが。


 このような林に小屋を建てる事自体も不思議である。

 ここは、街から少し外れた場所。

 人が住むには、少々不便なところだ。


 考えられる可能性として、暗殺者などの仮住まいが挙げられるが…


 カラムは少し慎重になりながら小屋に近づく。

 足音を極力殺しながら、小屋の窓に寄る。

 自分が白い服を着て来ていることを後悔した。


 窓から中を覗こうとする。が、

「見えない…」

 反射して全く見えないのだ。

 むしろ、自分の姿は綺麗に写っている。

 鏡のようにクッキリと。

 これは窓ではなく、鏡なのではないか?

 そんなことをカラムが考えた瞬間。


 小屋の扉が開く音がした。

 反射的に、カラムは身を潜める。

 ゆっくりと近づいてくる一人分の足音。

 金属の類を身につけているような音はしないが、それでも油断はできない。

 もし本当に暗殺業に長けた人間ならば、そうした物音は絶対にたてないからだ。

 護身術はとある使用人にある程度教えてもらった。

 一瞬でも隙を突けばいい。

 カラムがそう考えた瞬間。

 相手が目の前に現れた。


 出てきたのは、白い服を着た青年である。

 しかし、カラムの白い服は上下に分かれているのに対し、その青年の着ている白い服は、上着が膝下まで覆っていた。

 後にこれが、白衣と呼ばれるものであることを知るのだが、カラムはまだ知らない。

 青年は手を額に当て、小さく呟いた。

「やっちまった…。」


 未だに緊張状態を保つカラム。

 その姿を見て、青年は両手を頭の後ろに回しながら、

「えっと、貴方に対して危害を加えるつもりはありません…って言えばわかってもらえるか?」

 と言った。

 カラムはゆっくりと立ち上がる。

 警戒は解いていないが、先ほどよりは力を抜いている。

「ここで何をしている?」

 父親の言い方を借り、威厳を持たせようとする。

 しかし、若々しいカラムには少々無理があったようだ。

 相手が間の抜けた顔をしている。

 それもそのはず。

 父親のような太い声ではなく、声変わりもしていない少年の声では空虚な可愛さが残るだけだからだ。

 カラムは俯きたくなる思いに駆られた。


 だが、青年の顔は先ほどの腑抜けた表情から一転して、笑顔を見せた。

「カラム・ビスカス・ルー公!」

 不意な大声にカラムは驚き、言葉が一瞬でてこなかった。

「…確かにそうだが、何か?」

「お会いできて光栄です!」

 青年の表情は歓喜に満ち溢れていた

「さあ、こんな所で立ち話もなんですから、中へどうぞ!」


 青年に背中を押されそうになるが、少し身をそらす。

「名前もまだ聞いてない。そんな人間の家に入るほど無警戒でもないんでね。」

「これは!失礼いたしました。」


 片膝をたてて座り、左手を腰に、右手を胸に。

 青年がとった姿勢は敬礼である。

 何者かもわからないような人間も、王国民として最低限の礼儀は心得ているらしい。

 カラムは内心ホッとした。


「私は、リク・シマザキと言います。リクと呼んでいただければ、幸いです。」

 その名はカラムに違和感を与えた。

「リク・シマザキ…信仰は無いのか?」

「ございません。」


 普通、王国でつけられる名前は「名・姓・神」となる。

 そして、神の名前は、自分が恩恵を受けたいと思うものを選ぶのだった。

 選び方は、単純である。

 赤子が歩けるようになれば、修道院に連れて行く。

 修道院には、7体の神の像が各方面に配置された部屋が必ずある。

 その七神像の間に連れて行き、何れかの像に歩くまで待つ。

 像に触れる、または近づいたものを選んだとみなし、名前の最後につけるわけだ。


 カラムの場合、光の神、ルーを選んだ。

 技術や医療、発明などに秀でた神である。

 それに合う恩恵が得られると言われる。


 しかし、このリクという男にはその神の名が付いていない。

 それはすなわち、自分が無信仰であることを表す。

 この国において、そういった宗教観を持つのは、亜人種に少数いる程度だ。


「私が住んでいる地域…というか時代では神を本気で信じている人はごく少数です。」

「時代…?今、時代といったか?」

 目の前にいる、リクという男の言っていることが意味不明である。

 先ほどから、何を素っ頓狂なことを言っているのだと。

 そんな怒りにも似た不明瞭な感情を覚える。


 しかし、そのリクという青年は非常に楽しそうだった。

 そして、こんなことまで言い始めたのだった。

「私は、この国よりはるか東方の地域の未来から来ました。」


 いきなり現れた得体の知れない人間が、遠くの地方ならばまだわかるとしても、未来から来ましたと言って信じる者が居るだろうか。

 時を渡る魔法は、その負荷から王国屈指の魔法使いでもその身は持たないと言われる。

 そんな魔法をこんな人間が使えるわけがない。

「バカにしているのか…?」

  誰だってふざけていると思う。

 信じろという方が無茶である。


「それを証明したいので、中に入っていただきたいのです。」

 あくまでも本気で。

 青年はそんな雰囲気を醸し出している。


 しかし、信用もできない人間のことを信じるというのは難しい。

 未だに相手の力量が未知数であるため、迂闊に敵陣に飛び込みたくないのだ。

 貴族社会とはそういうところだから。


 だが、興味もある。

 この人間が言っていることが本当だったら、自分は何か特別な経験ができるかもしれない。

 そんな期待も感じてしまう。


 自分の魂と未知なる世界。

 その二つを秤にかけた時、より重いのは…


「いいだろう…あまり時間はないがな。」

 未知なる世界への興味、好奇心だった。


初めまして。

高砂団子と申します。

初めての投稿でしたので、正直てんやわんやでしたw

なんとか、一区切り付いてやっと投稿できる状態になったので、ここに置かせていただきました。

次回はいつになるかわかりませんがよろしくお願いします。

それでは失礼いたします。

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