会敵遭遇③
世田谷地域と玉川地域の境にある民家の屋根の上。体育座りをする如月蘭の姿があった。
「ジャージを持って来るんだったわ。これでは下から見えられてしまう」
ぶつくさ愚痴をこぼしつつ濡れ羽色の長い髪をゴムでまとめてポニーテールにする。
「さて、これからどうしようかしら…」
眠たげに蘭は空を見上げる。彼女の視線の先には微かに赤い光がある。逃げ惑う人々に紛れ塀をよじ登り屋根を伝い逃げている最中に発見したものだった。さすがに小さく夜空にぼやけて肉眼でははっきりしない。だから気になって仕様がない。
「このまま逃げ切る自信はあるのだけど…」
ぐるりと周囲を見回す。銃声は遠く、蜘蛛も屋根の上を跳び回って何かをしているが彼女に気付く気配はない。
「どうしてもっと視力か知能を良くしなかったのかしら?あの子たちが高性能だったら私はもうとっくに捕まっていたのに…」
不思議そうにせっせと働く蜘蛛を見遣る。
「鬼ごっこも飽きてしまったわ。家に帰って待とうかしら。多分、私の家の場所も調べている筈よね。でも、捕まって酷い事をされるのは嫌だな…」
如月蘭は考える。自分にとって最も利益をもたらすために必要な一手を。自由を脅かされずに済む方法を。
「うん。決めた。そうしよう」