会敵遭遇②
「いた」
玉川通りを北上中の軽装甲機動車内で目を閉じて座席に深く座る啄木鳥司狼は小さく呟いた。玉の汗を流す青白い顔。瞼の裏で眼球が忙しなく動く様はまるで悪夢に魘されているよう。
「どこだ?」
運転する飯豊マリアが尋ねる。僅かの間を置いて司狼は答えた。
「…世田谷地域」
「了解」
マリアはぐっと車のスピードを上げる。が、司狼は手を上げてそれを制する。
「飯豊さん」
「何だ?」
「急がなくても良いです。奴ら、何か…しているみたいです」
「何が見える?」
「これは…蜘蛛の巣?を編んでいるか。4匹の蜘蛛が世田谷地域を中心にして大きい蜘蛛の巣を作っている」
「それに捕まるのはまずいな」
「そうですね。でも、暴れる訳でもなく何でこんな事を…」
「蜘蛛の巣なら獲物を捕まえる為じゃないのか?」
「獲物?ですか。人でも食べのか?」
司狼の言葉に車内が一瞬静かになった。
「嫌な事を言うな」
「済みません」
「何か他に見えるものはないか?」
「う~ん……あぁ~?」
暫く黙っていた司狼は唐突に妙な声を上げる。
「今度は何だ?」
「SATの装甲車とパトカーです。ん~?げっ!おいおいマジか」
「どうした?」
「警察の特殊部隊と新手のミュータントが街中で戦ってる。今日は警察も軍も待機してもらってる筈なのに…」
「は?」
マリアは低い不機嫌そうな声を上げる。ぐぐっとハンドルがくぐもった音を立てた。司狼はレギオンが伝える映像に失笑する。
「派手にヤってるな。蛮勇は愚行だぜSAT。助けに行きますか?飯豊さん」
「いや、大佐から連絡はない。我々の任務は蜘蛛の捕獲だ。作戦にない行動を取るべきではない」
「了解。あ~あ。これ絶対、どこかから見てるだろうな大佐。あの人言う事聞かないモブに厳しいから」
「司狼、パーティの見物も良いが蜘蛛の動向はどうなっている?」
「変わらず編み物に精を出してますよ。あれだけ近くでドンパチしていても無関心って事はグルなのか?」
「可能性は高いだろうな。出来れば戦闘は避けたかったが…」
「俺は望む所ですけどね」
言葉こそ穏やかではあったが司狼が纏う気配は険呑極まりなく焼け付くような熱気を孕んでいた。
「…現場に到着するまで警戒を続けてくれ」
「了解……。と、何だあれ?」
「また何か見つけたのか?」
訝しげにマリアは問う。司狼は半ば茫然と言った。
「屋根の上に女子高生がいる…」