会敵遭遇①
世田谷区世田谷地域の住宅街の一角。響き渡るパトカーのサイレンと銃声。砂糖に群がる蟻のようにぞくぞくと集結する特殊急襲部隊《SAT》。銃声を聞き付けた市民の通報によりあっという間に大騒動に発展。
今や住宅地は戦場と化していた。中心にいるのは黒いボディーアーマーにコートを着た大男。
「済まない!聞き取れなかった!もう一度言ってくれ!」
雨あられと降り注ぐ銃弾の驟雨の中でキメイラは声を張り上げる。特殊部隊による一斉射撃に晒されながらも彼はインカムから聞こえる筈の声に耳を欹てる。しかし耳を塞いでも聞き取る事が出来なかった。眉を顰めて周囲を睨みつける。
道を塞ぐ装甲車。物陰から瞬くマズルフラッシュ。銃撃から身を守るために展開した分厚い氷の盾。それに埋まった夥しい数の銃弾。
「警告も無く発砲したあげくこれか。日本の警官も粗暴になったものだ」
目を伏せると足元には木っ端微塵に粉砕された蜘蛛だったものが視界に入る。
「赦せ…」
目を閉じ呟くとキメイラはその場で一度足を踏み鳴らす。刹那、世界が一変した。騒々しかった銃声は止み、静寂に包まれる。あらゆるものが凍て付いた銀世界でただ一人だけキメイラだけが佇む。
「済まなかった、アラクネ。何だった?」
「何だった?じゃない!あんた今何してんの?パーティでもしてた?」
「警官に追われている」
「んなこと言われなくても分かってるわよ。邪魔するならぶっ飛ばせば良いじゃない」
「私が今いる場所は住宅地だ。作戦に関係ない一般市民を巻き込む可能性がある。そんな場所で簡単に能力を使うほど私はクレイジーではない」
「あんたバカじゃないの?撃たれても周りのこと気にして何もしないとか。信じらんない。そっちのがクレイジーよ。一般市民?そこでドンパチ始めたのは向こうなんでしょ?気にせずぶっ殺しなさいよ。あんたこんな事、年下のあたしに言われて恥ずかしくないわけ?」
「そうだな…」
キメイラはどこか物悲しげに言って白い息を吐く。
「もう良いわ。こんな事、時間の無駄よ。それよりも早くお姫様を見つけないと。あちこち蜘蛛を使って探してるけど見つかんないの。どうしてだと思う?」
「この辺りは彼女が発砲したお陰でお祭り騒ぎだ。警官、民間人、入り乱れている。糸を使ったセンサーにも穴が出来ているのだろう」
「それはそうかもしれないけど、でもだからって、見えもしないセンサーを掻い潜るなんて可能なの?」
「或いは下水道か屋根の上を移動しているか。私は屋根の上を跳んで移動している方を推すが…」
「バカ言わないで。真面目に考えてよ。あたし達みたいなミュータントならともかく普通の女の子が屋根の上を跳び回れる筈ないでしょ」
「うむ…」
キメイラは呻いて視線を上げる。
「とにかく、あたしは蜘蛛の巣を完成させる。そうすれば巣の範囲ならどこに隠れようと見つけられる。あんたはその近くを隈なく探して。そう遠くに行けると思えないし、案外その辺に隠れてるかも」
「了解した」
キメイラは一飛びで屋根まで跳躍してその場を後にする。その衝撃で氷像と化していた人々が車が建物が崩れ去った。