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月の少女   作者: 高見 リョウ
デートDV
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駿太郎の思惑

 「二人が友達から見てどういう雰囲気だったのか調べてきて」 

桃子には、駿太郎が何を考えこのような頼みをしてきたのかが分からなかった。ただ頭のいい駿太郎のことだから、何かの考えがあってのことであろう。桃子には、大学のボランティアや授業で知り合った友達に、尋子と陽平の関係を知っている人物が居たので、今度会ったときに二人の雰囲気について聴いてみることにした。たまに駿太郎が何を考えているのかわからない時が桃子にはあった。例えば、大学の授業がグループワークの時に駿太郎と同じグループになると、たまに駿太郎は周りの人たちを無視してひとりでに行動する時がある。自分の言いたいことだけをグループメンバーに伝え、後は一人でちょっと暴走気味だ。やってほしいことだけは一方的に言ってくる。そしてどのような思惑があり、駿太郎がそのようなことを言うのかという理由は言わない。普通なら文句を言われて当然のことである。駿太郎が文句を言われない理由は、それでグループのメンバーがいい成績を出せるからだ。桃子は、そのような駿太郎のやり方に疑問を感じていたが、何も言わなかったし、言えなかった。ついつい桃子たちは、間違えのない駿太郎を頼ってしまうのだ。

 尋子と陽平のことをよく知る、立山大典に桃子が会ったのは、駿太郎から頼みを受けてから、3日経った火曜日の2限目の授業の時であった。桃子と大典は2年生の夏休みの時に、大学が主催するボランティアで知り合い、その後仲良くなった。

桃子は、大輔を見つけるとすぐに大典の隣に座ってきたので、大典も少し驚いた様子だった。

「桃子ちゃん、今日はどうしたのかな?俺の隣なんかに来ちゃって!もしかして俺にフォーリンラブしちゃった?」

大典はこのようにお調子者の奴で、今日は一段とノリノリの様子だった。桃子はそんなことを言われたので、慌てて周りを見渡した。いつも桃子と一緒の席で授業を受けている、2人の友達は桃子が大典の隣にいるのを見てクスクスと笑っていた。桃子には、しなければいけないことがあるので、正気を取り戻して大典に尋ねた。

「聴きたいことがあるの」

「何?桃子ちゃん!」

「虹山尋子と小島陽平の関係っていうか雰囲気…なんだけど」

それを聴いた大典は黒っぽい肌に合う白い歯を出しながらニヤッと笑い、「なんだ桃子ちゃん!小島きゅんのことが気になっているの?」

大典は見事な見当違いなことを言い始めた。

「ち…違います」と桃子は少しイラついた雰囲気で否定し、「私が聴きたいのは、付き合っている虹山尋子と小島陽平の雰囲気」と言った。大典は「お…怒んないでよー」と言いながらすぐに真顔に戻った。

「あの二人お似合いでうまくいくと思ったんだけどね、最近雰囲気おかしくなっちゃてさ」

桃子は、その一言をさらに深く追求しようと考え、「最近…どんなふうに?」と尋ねた。

「まあ…前は、女のほうが強い現代の典型的なカップルだと思ったんだけどさー、今はお互いにお互いのことを怯えてるっていうか」

桃子は、大典の言葉に「最初に暴力をふるったのは、尋子お姉ちゃんなんだから!」という沙耶の言葉を思い出した。そして、大典の言葉でもう一つ気になることがあったので、尋ねた。

「立山君…お互いにお互いのことを怯えるってどういうこと?」

「言葉の通りだよ」

「え…?」

「あの二人は、二人でいるのを怖がってるんだよ。なのに別れない」

最後の大典の顔はとても暗く、怖いものを見ているかのような表情だった。


 桃子は次に二人と高校のクラスメイトで、二人と仲がいいと話していた、尾崎千晴に話を聴くことにした。桃子と千晴は、グループワークの授業で知り合い、同じグループのメンバーとして仲良くなった。その授業は、教師の免許を採るために行われる授業で、子どもが好きという共通点がある二人は意気投合した。

 二人が会ったのは、大典に桃子が話を聴いた日の夕方であった。前の夜に、桃子が「ちはちゃん、明日会えませんか?お話があります」と書いたLINEを千晴に送ると、「いいよ!話って何だろう?じゃあ大学のカフェで!」と返事が返ってきた。

 桃子がカフェに着いたころ、もう千晴はすでに到着していて、ストローを吸いながら、コーヒーを飲んでいた。

「ごめん!遅くなちゃった」と桃子が言うと、「全然大丈夫だよ!」千晴は笑顔で言うのだった。

 店員さんが来たので、桃子は「コーヒーを一つお願いします。アイスで!」と言うと、可愛らしく小柄な店員は、「かしこまりました」と言い笑顔で、注文を伝えに戻っていった。

「話って何?」と千春が聴いてきたので、桃子は意を決して尋ねた。

「虹山尋子と小島陽平のカップルのことなんだけど」

それを聴くと千晴は、一気に笑顔を崩していった。

 桃子は今までの経緯と大典から聴いた話を洗いざらい千晴に話した。それを聴いていた千晴の眼には、光るものがあり、桃子は少し悪いことをしたなという気持ちになった。出されたコーヒーには、まったく手を付けていなかった。

「その通り…あの二人、前は、尋子ちゃんが主導権を握ったような現代風のカップルだった。でも今は、あの二人を見るのが、辛いよ…」

「そうなんだ…」桃子は何と言ってあげたらいいのか分からなくなっていた。

「あの二人を助けて‼」

突然の千晴の一言に桃子は唖然となった。

「あの二人、なかなか別れないというか、別れられないの…助け合ってきた二人だから」

「助け合ってきた?」

「そうなの…でもこのままじゃ、ダメになっちゃう。あの二人を助けて!」

千晴は、大粒の涙を流しながら桃子に懇願した。

「分かった…分かったから」

桃子は、千晴のことも助けたくなっていた。


その晩電話で桃子は、駿太郎に今日の出来事をすべて話した。

「やっぱりな…ありがとう!」

駿太郎の声は少し明るかった。

「やっぱりなってどういうこと?」

桃子の質問の後、駿太郎は大きく深呼吸をして、「トラウマだよ…」とつぶやいた。続けて駿太郎はこう言った。

「今週の土曜日、俺の仮説を実証する。二人と同時に話す。もう話はつけてる」

桃子は、少し心配になりながらも「分かった…」とつぶやいた。

駿太郎は、桃子の不安を感じ取ったのか、「大丈夫!光がいるから」と桃子に投げかけた。駿太郎の声の向こう側から、「だいじょうぶ!ひかるがいるから!」という明るい声が聞こえた。それだけで桃子は少し楽になった。


駿太郎の仮説とは?

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