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月の少女   作者: 高見 リョウ
デートDV
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少女のこだま

 その少女は駿太郎と目が合うと深々と頭を下げた。駿太郎は、あまりの少女の謙虚さに驚いたのか、小さくおじぎをするにとどまった。少女は、頭を上げるとにこりと自然な笑顔で微笑んだ。目と目が合った時、駿太郎はその瞳の輝きに吸い込まれそうになった。少女は不思議な力を秘めているようだった。

「おはよう!光ちゃん」

駿太郎の後ろで桃子が明るい声でその少女に話した。

「おはよう!ももちゃん」

少女も明るく幼い声で、桃子に応答した。

「高井くん・・高井くん!」

駿太郎が不思議な感覚に包まれていると、桃子が駿太郎の名前を呼んだ。

「あ・・・アァごめん」

駿太郎は、一気に正気に戻った。

桃子は、駿太郎の様子を確認すると少女の紹介を始めた。

「紹介するね。経済学部、経済学科の月島光ちゃん。同じ学年ね」

「月島光・・・」

桃子の紹介を反復しながら、駿太郎は言った。

「つきしまひかる、21さいよろしくおねがいします」

月島光という少女は、これまた明るく幼い声で自分の紹介を行った。この時も駿太郎は少女の笑顔に引き込まれそうであった。

駿太郎は、なんとか正気を取り戻し、自分の自己紹介を始めた。

「高井駿太郎。20さい!八月で21人文学部、心理学科。よろしくお願いします」

駿太郎は少し緊張した面持ちで言うと、「しゅんたろう!」と光が口にした。そして光は満面の笑みで、「よろしく」ともう一度言った。これにはさすがの駿太郎もノックアウトされ、固まってしまった。

 しばらくの沈黙の中、光の部屋からモーツァルトの『フィガロの結婚』が聞こえた。光が好きな音楽なのか。

「高井くん・・高井!」

桃子がいつもと違う図太い声で駿太郎を呼んだ。駿太郎が振り向くと、「とりあえず、部屋の中に入りましょう」と桃子が言った。

「わかった・・・」

駿太郎はにやけがおでうなずいた。


 さすがにいきなり初対面の女の子な部屋というのはまずいので、駿太郎の部屋で話すことにした。

「汚いわねぇ」

入って早々桃子がその一言を口にした。

 確かに駿太郎の部屋は散らかっていた。駿太郎は片付けをするという事がとんと苦手な人間だ。というより、散らかっていた方がなんとなく落ち着く。駿太郎は半年に二回くらいのペースで部屋の片付けを行うが、その後で大事な書類や勉強道具をどこにしまったかが分からなくなる。

「きたないわねー」

光が桃子の口まねをするように言った。

「悪かったなぁ、きたなくて...」

駿太郎は少しイラっとして、ぶっきらぼうにその一言を吐き捨てた。

 部屋の真ん中に置いてある四角いテーブルに、駿太郎が座ると、その向かい合わせに、桃子と光が隣同士で座った。光は始めて入る場所だからだろうか、周りをキョロキョロと見渡している。桃子も辺りを見渡し、「今度お礼に掃除でもしてあげますか」などと言っている。

駿太郎は、キョロキョロしている光に話しかけることにした。

「光ちゃんは、地元はどこ?」

駿太郎の一言に、光が反応して笑顔になると、駿太郎の目をまじまじと見て答えた。

「じもとはどこ!」

駿太郎は、光の一言に一瞬不意をつかれたが、落ち着いてゆっくりと答えた。

「俺の地元はね、北九州市、じゃあ光ちゃんは?」とゆっくりゆっくりと話すと、光は満面の笑みで、「きたきゅうしゅうし、ひかるは!」と答えた。駿太郎は少し困惑気味である。それを見ていた桃子はクスッと笑い駿太郎に向けて言った。

「光ちゃんね、話し相手が言ったことを反復するくせがあるのよ」

桃子はとても優しい口調だった。

「そうなんだ・・・」駿太郎の心は少しほっこりしていた。

「光ちゃんの地元は寒いところなんだよね!」

桃子が明るい声で光に話しかけると、光は「ねぇー!」と桃子の目を見て、満面の笑みで答えた。


しばらくして、桃子が帰る時間になったので、光をアパートに残し、駿太郎が桃子を途中まで送ることにした。駿太郎と桃子は花びらが散った桜の木が植えてある川沿いを二人で歩く。春時の昼過ぎはかなり暑く、福岡市

ここ何年か春らしい春を感じていない。

「寒いところてどこだろう?北海道かな?」

駿太郎は、気になってたまらない疑問を桃子にぶつけた。

「わからない・・寒いところとしか言わないの」

「そうなんだ・・・」

駿太郎の疑問は、長い時間付き合わないといけないことになった。

「自分の言ったことを反復されてさ、なんか知らんけど、気持ちよかった・・・」

駿太郎の一言に桃子が顔を上げて反応した。

「そうなんよ!あの子不思議な力をもっとるような気がするんよね」

「不思議な力?」

「私助けられたし」

「助けられた?」

駿太郎には、新たな疑問が芽生えた。

次回、光の力が明らかに?

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