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月の少女   作者: 高見 リョウ
ミスコンのドラマ
25/34

香織の不安と香織の決意

 ミスコンの本番まであと一週間となった10月26日の土曜日、駿太郎と桃子と光、そして香織は、ミスコン本番で香織が着る着物を合わせに、駿太郎の地元である北九州に来ていた。なんせこの北九州の小倉という繁華街には、女の子の晴れ着で有名な店があるということであった。その店は小倉の繁華街からちょっと離れたところにあり、着いてその店を眺めてみると、とても有名とは思えない質素な店であった。

「本当にこの店は、晴れ着の有名店なの?」

店の外観は今にも壊れそうで、それを見た桃子は不安そうだ。

「とにかく入ってみましょう!」

「入りましょう」

駿太郎の言葉に香織が反応し、とりあえず店内に入ってみることにした。


 店の中は、あの外観とは違い豪華な晴れ着が並び、芸能人のサインが壁に多く飾られてある壮大なものとなっていた。

「うわ…」

店に入るまで心配そうだった桃子は、それを見てただ驚愕しているだけだった。

「着物高いんじゃない?」

しかし、桃子の不安は続いているようだ。

「すいませーん!」

「はいはい」

駿太郎が店の店員を大きな声で呼ぶと、店の奥から年老いた一人の女性の老人が姿を現した。その老人はつえを持って歩きながら、駿太郎たちのもとへ近づいてきた。

「あんたたちが、大学のミスコンのための衣装を作ってほしいと言っとる者かね?」

「はい…こちらの方なのですが」

駿太郎はそう言うと、香織の方をゆっくりと指差した。

老人は指さされた香織の方へ近づくと、ゆっくりと香織の顔から下まで、全体を眺めだした。香織はそれが嫌なのだろうか、不快な顔をしている。

老人は香織の体の全体を見終わると、ゆっくりと息をつき、老人の横に置いてあった椅子に腰かけた。

「見事だ」

「えっ?」

香織は老人の言葉に少し戸惑った様子であった。

「あんたの潜在能力だ」

「潜在能力?」

「そう…。ただあとは自信。それを身に着けるためにミスコンに出るのだろ?」

老人は女性だというのに、えらく男勝りの話し方で、香織を問い詰めていた。

「そうです」

香織も老人の眼を見てそう答えた。香織は近頃、人の眼を見て話せるようになってきたばかりであるが、この老人に対するまなざしはひとしお鋭いものであった。

「よかろう!値段は1万円にしておこう!」

「安い‼」

桃子はこの店に置いてある着物を見て、値段は高いと踏んでいたが、老人の1万円という発言に驚きを隠せなかった。

「普通は5万じゃ!私ももう長くはない。楽しませてくれ!それが4万の代わりじゃ」


 次の日、駿太郎たちは晴れ着が安く手に入りそうなことを彰彦に話していた。それを聴いた彰彦も驚いていた。

「いい人が世の中には居るものだ!」

彰彦節は今日も健在で、香織を笑顔にしていたのは間違いない。

 そして、今日は香織が初めて本番さながらのメイクをする日であり、ミスコンで香織のメイクアシスタントをしてくれることになっていた、秋原恵美が駿太郎のアパートに来ていた。

「うわー!早くメイクしたいわ」

香織の顔を拝見するなり、恵美はわくわくした様子でそんなことばかり言っていた。駿太郎たちはメイクを得意としている人がやってくれるのだから、30分くらいはかかるだろうと思っていたのだが、恵美による香織へのメイクは、10分程度で終わった。

「はい終了!」

「もう終わり?」

「高井君、三嶋さんは、顔立ちがいいし、毛穴も目立たないから、あまりメイクしなくてもいいのよ。ほら」

「うわ―可愛い!」

桃子がそう言った通り、メイクをした後の香織は、世界で一番かわいいのではないかと思うほどの可愛さであった。

「ほら、三嶋さん。鏡で見てみて」

恵美はすぐさま香織に鏡を差し出したが、香織はそれを拒否した。

「ひょっとして、嫌なの自分の顔見るの」

駿太郎の問いかけに、香織は下をいったん見た後、小さくうなずいて答えた。

「化粧は、一年ほど前から、自分からは見ていません。メイクも感覚でしていましたから」

「みたくない」

それを聴いた光は、香織の近くによって香織に呟いた。それはおそらく光が、香織の気持ちをくみ取ったものであろう

「でも一回でいいから見てみたら、落ち着くかも」

桃子も自分が持っていた鏡を香織に差し出すが、香織はそれを受取ろうとはしなかった。

「ならそれでいい。ミスコンで、みんなが認めたらいい話だ」

彰彦が香織に近くで言うと、香織は彰彦の眼を見て大きくうなずいた。

「それでいい!」

光が彰彦の言葉に反復すると、恵美と桃子は鏡を香織から引き、小さくうなずいた。

駿太郎はずっと思いつめた顔をしていた。


 駿太郎は、ミスコン本番の週となった月曜日は不安の中にいた。その不安は本当に香織をミスコンに出してもいいのかというものであった。授業中も上の空でそのことばかり考えていた。

「高井駿太郎!後で着なさい」

午後の駿太郎がとっている授業で、講義をしていた戸賀はその駿太郎を呼び出した。


 駿太郎は戸賀の研究室に行くと、開口一番で駿太郎が今、抱えている不安について尋ねられた。

「思いつめた顔をして何を考えているの?」

「三嶋香織は、自分で自分の顔を見ることが怖いらしいです。そんな彼女をミスコンに出してもいいのでしょうか?」

それを聴いた戸賀は眉間にしわを寄せて、二枚組になっている紙を取り出した。

「これね…、日本語のスピーチで言うことを三嶋さんが書いたものよ」

「三嶋さんが…」

「あなたにアドバイスをもらって、あなたがやりたいことを、三嶋さんの言葉で書いたもの」

それを戸賀は駿太郎の目の前に置いた。

その紙に書いてある文字の分量を見せられ、駿太郎は言葉を失った。

「彼女は本気よ。言い出したあなたも覚悟決めなさい」

駿太郎は、真剣な戸賀の言葉にゆっくりとうなずいた。


「月島さんのことが私心配」

「光…?」

戸賀は急に声色を変え、話題を光へとシフトさせた。

「どうしたのですか?」

駿太郎はいきなりの光についての話題に、あっけにとられた様子だった。

「あの子最近、反復をあまりしなくなったの。笑顔ばっかりだったのに、思いつめた顔してるし」

駿太郎は最近の光の表情や行動を思い出していた。そういえば最近、誰かが言ったことに対する反復やあの引き込まれそうな笑顔を見せる回数は少なくなっていた。

「そういえば…、そうですね」

 駿太郎は多くを語れず、その場から立ち去ってしまった。戸賀は駿太郎が研究室を去った後、自分の師匠の写真を眺めていた。もうすぐあの町には初雪がちらつくころではないだろうかと考えていた。

「重造先生…、高井駿太郎にかけさせてください」

戸賀は写真に写る師匠に向かって、そうつぶやいた。


駿太郎が描いた香織のスピーチとは?

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