秋~悩みの季節
香織は駿太郎と会った日の別れ際に、「桃子さんと光さん、それと瀬川さんにも感謝を言いたい」と言っていたので、駿太郎は香織の連絡先を聴き、それぞれの予定が会う日を調整することにした。後期は学園祭の前ということもあり、サークルに入っている彰彦は予定が合いにくく、桃子も指導している小学生のバレーボールクラブが試合前ということで、なかなか暇な日を聞き出すことはできなかった。
何とか調整しようとしている駿太郎は、光のことが心配でたまらなかった。夜は光がまた自傷行為に及ぶのではないかと不安になり、寝れない日が続いた。本当のことを言うと、駿太郎はもう光を、香織などの心に問題を抱える人物の合わせたくはなかった。だからこれを最後にしようとも考えていた。
「しゅんたろう…」
しかし、その駿太郎の不安を光は感じ取っていた。さすがに光は“生まれついてのカウンセラー”と言われえるほどなので、ずっと一緒にいる駿太郎の不安は分かるものなのであろうか。
「大丈夫だから…」
駿太郎はいつもそう言って、笑ってごまかすしかなかった。
もしかしたら自分が光から離れないといけないのかもしれないと駿太郎が考え出したのは、10月に入ってからであった。駿太郎が桃子と彰彦の日程を調整し、その間、光のことで悩んだ三週間はあっという間に過ぎてしまった。自分が光から離れた方がと考えても、もしそうなったとして、自分のことを「好き」だと言っている光は反対に傷つくのではないだろうか。駿太郎は人生の中でこんなに悩んだことはないと考えていた。
しかし、駿太郎は今までこんなに悩んだことはないと考えると、何か大事なものを忘れているような気がしてならなかった。そして駿太郎は毎晩、悪夢を見るようになってしまった。それは、自分の目の前で少女がトラックに轢かれてしまう光景であった。
「光‼」
なぜか駿太郎は光の名前を叫んでいた。
“ピンポーン…”
悪夢を見ていると駿太郎の部屋のインターホンが押されるようになった。
「しゅんたろう…」
駿太郎がドアを開けると、そこには光がいた。心配そうな顔をした光がいた。
「反対に心配かけちゃった」
駿太郎はそう言うと、いつも光を抱きしめた。
そんな二人を、秋のきれいに輝く月はスポットライトのように照らし出した。
桃子と彰彦の予定が着いたのは、10月一周目の日曜日の夜であり、駿太郎は桃子と光ら四人を連れて、行きつけの安い居酒屋に飲みに行くことにした。
店に着くなり、駿太郎と桃子と彰彦は生ビールをオーダーし、光もライチチューハイをオーダーしたが、香織はウーロン茶をオーダーした。
「お酒ダメなんだ…」
「おいしくて、好きなんだけど…今は怖くて飲めない」
駿太郎はまず楽しく食事をみんなでしたかったので、それ以上追及するのをやめた。
「こわい…」
光は心配そうな顔で反復していたが、駿太郎はそれをかき消すように乾杯の音頭をとった。
それからは彰彦の香織に対する少し馬鹿な自分の筋肉自慢が長々とはじまり、みんな楽しく食事をすることができたが、最後に桃子が切り出してしまった。
「お酒が怖いってどういう意味?」
香織はぐっと引き締まった顔になり、駿太郎やそれまでバカ話をしていた彰彦も真剣な表情に変わった。
「お酒太っちゃうじゃない。私そうじゃなくても不細工らしいし」
そういえば、香織はろくに食べ物にも手を付けていないことが桃子には分かった。
「らしい…」
駿太郎はその言い方に強いインパクトを感じた。
「自分では思ってないんだ…。不細工って」
「思ってる」
駿太郎の言葉に香織は反論するも、その「らしい」という言い回しにインパクトを受けたのは、光もそうだったらしい。
「らしい…」
と真剣な表情で何度も反復した。
「ひょっとして自分ではまだそうは思ってないんでしょ。だってぶっちゃけて言うと可愛いし」
彰彦は少し笑顔でそう香織に話しかけた。
「本当に私より全然かわいいわ!」
桃子も香織を励ますようにつぶやく。
香織は、見る見るうちに笑顔が広がっていった。
「本当に?」
「ほんとうに!」
香織の言葉に光が反応するとその場は、明るい笑いに包まれた。
「でも…励ますために、言ってくれているだけだよね…」
香織はまた暗い表情に戻ってしまった。
その場は、みるみるうちの沈黙してしまった。
「まだ…、自信がないのか」
駿太郎はそういうと次に思いがけない提案をした。
「ならば、学園祭の前夜祭で輝くまでだ!」
駿太郎のその一言にその場にいた全員が顔を上げた。
「前夜祭って…、ミスコン!?」
彰彦は驚いたように叫んだ。
「そうだ!ミスコンに香織が出たら必ず優勝する」
自信満々の駿太郎をよそに、香織は戸惑いを隠せず、息が荒くなっている。
「ダメよ!傷を深めるだけだわ」
それには桃子も反論していたが、駿太郎はバッグに手をやるとひとつの雑誌を取り出した。
「それは、福岡の学生情報誌『ステューデンツ』じゃないか」
駿太郎が取り出した雑誌は、福岡のイケテル学生を紹介する『ステューデンツ』という雑誌であった。
その雑誌の表紙を見て、桃子は目玉が飛び出しそうなほどびっくりしてしまった。
「表紙って…香織ちゃん‼」
「可愛いー‼」
桃子に続いて彰彦も顔を真っ赤にして言葉を発した。
モデルになるのが夢であった香織は、2年前にこの雑誌の表紙に載っていて、インタビューも受けていた。
盛り上がる皆をよそに香織は涙を浮かべていた。握り拳を作り、顔を赤くし、駿太郎が持っている雑誌を取り上げた。
「香織…」
駿太郎は香織のこの次の反応をうかがっているが、香織はなかなか反応しない。それを見ていた駿太郎は次の言葉を言った。
「夢なんでしょ。モデルになるのが。もう一回傷ついたから、傷を治せばまた這い上がれる。傷を埋めるのは、僕たちに任せてください」
あの後、香織から前向きな意見を聴くことはできなかった。駿太郎も桃子も少し落ち着かない心持ちで帰っていたので、帰りはカラオケで歌い晴らして帰ることにした。
駿太郎は光のことを心配していたが、終始笑顔であったので、今日は大丈夫なのかと少しの安堵感を覚えた。
「誰かに言われたんだよ…ブスッて」
駿太郎が桃子にそうつぶやくと、「モデルの宿命かな?」と言って、それ以上その話はしなかった。
カラオケボックスに入って数時間後、駿太郎の携帯に着信が来た。
「あなたたちに私の夢をかけさせてください」
声の正体は、三嶋香織だった。
ミスコンはかわいいだけでは勝てない?




