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月の少女   作者: 高見 リョウ
ミスコンのドラマ
21/34

駿太郎また突っ走る

駿太郎はその顔を確認してから唖然として動けずにいたが、桃子が駿太郎の前に立ち、「あの…お名前を教えていただくと助かります」と女の子の名前を尋ねた。

女の子は、しばらくしどろもどろしていたが、落ち着いて前を向くとゆっくりと口を開いた。

「私、三嶋香織です。三嶋一行の娘です」

「かおり!」

名前を聴いた光は笑顔で反復している。

桃子は小さくうなずいて、「病室ご案内いたします」と言った。

「あぁ…こちらです」

駿太郎も桃子に続いて、香織を案内する体制に入った。


 二度目に入った病室は、なんだかさっきより長い感じが駿太郎にはしていた。何しろ、駿太郎たちは、先ほど三嶋さんから娘のことで悩んでいるといった話をされているのだ。そして今、その娘の香織を三嶋さんの所へ案内している。

 その時間は長く、ともに歩いている四人は一人として一言も発さなかった。ただ、桃子が香織に対して道案内する声だけは響いていた。外はすでに薄暗く、それにつられて病棟も少しずつ暗くなっていく。

 ついには、四人とも会話らしい会話は何もなく、三嶋さんがいる治療室についてしまった。香織は、その場所に着くなり三嶋さんに抱き付いて、大粒の涙を流し始めた。

「よかったですね…娘さん心配してくれてたじゃないですか」

医師が三嶋さんにゆっくりと声をかけると、三嶋さんも涙を流しながらうなずいた。


 それを見ていた駿太郎たち三人は、を互いに顔を合わせて、うなずきあい、駐車場へ歩みを進めることにした。しばらく病棟を歩いていると、駿太郎たちの後ろから誰かが駆けてくる音がした。駿太郎が振り向くと、そこには息を少し切らした香織がいた。

「三人が助けてくれたんですよね?ありがとうございました」

光はそれを聴いて少しきょとんとしていたが、笑顔で

「しゅんたろう、ももこ、あきひこ」

と三嶋さんを踏切から救助した三人の名前を出した。

「ここにはいないのですが、もう一人瀬川彰彦とこの高井駿太郎、そして私、小柴桃子が踏切から救助しました」

「そうですか…。ありがとうございました」

香織は笑顔で深々と頭を下げる。

「それから、こちらの月島光さんは、治療室でお父さんのこと励ましていましたよ」

桃子は光がしたこともしっかりと香織に教える。

「ありがとうございました」

「ありがとう!」

香織が光のたいして頭を下げると、光は笑顔で反復した。それからその場は、みんな一斉に笑い出し、笑顔に包まれることとなった。


 駿太郎たち三人は、車で帰る途中、おなかがすいて我慢ができないという話になったので、国道三号線に立ち並ぶレストラン街で食事をすることにした。三人は、しっかりと話し合ったわけではないが、成り行きでハンバーグがおいしい店に入った。

 そこのハンバーグは絶品でとてもおいしいものであった。三人ともろくに会話もせず、そのおいしいハンバーグを黙々と食べた。

駿太郎としてはそれでいいと思っていた。なぜならこの三人の仲であれば、会話がなくとも会話みたいなものが成立しているからだ。それを親友というのかどうなのかについて、駿太郎はよくわからなかった。

 駿太郎は時たま光に対して、「おいしい?」と尋ねていた。

「おいしい!」

光はその駿太郎の質問を反復していた。

駿太郎と光の前に座る桃子は、それを観察して、自然な笑顔を作っていた。


 食事が終わると、三人は駿太郎の車に乗り込み、大学がある町を目指した。先に桃子なアパートの前まで行き、そこで駿太郎は桃子を降ろした。それから駿太郎のアパートの近くにある駐車場に停め、アパートの二階に上り、そこで駿太郎と桃子は別々の部屋に入った。


 日付が変わる頃であった。駿太郎は横の部屋からの物音を認知した。最初は光がトイレかなんかで歩いていて物音がしただけだろうと考えていたが、その音はどんどん強くなっていった。

「光…」

心配になった駿太郎は、急いで隣の部屋の前に行き、ドアをノックして光を呼んだ。

「光‼大丈夫か¡?」

するとドアがゆっくりと開き、中から笑顔の光が姿を現した。

「しゅんたろう!」

光はいつも通りに駿太郎の名前を呼んでいるが、ノースリーブで肩から下がさらけ出されていた左腕には大きな青滋味ができていた。

「光…、もしかして」

駿太郎はその青滋味は、光が自分の腕を部屋の壁に自ら打ち付けてできたものだということが分かった。

 そこで駿太郎には一つの仮説が思い浮かんだ。

駿太郎は中に入ると、光の部屋に置いてあるベットに座り、そっと光の体を自分の体に寄せた。

「今日はそばにいてやるから」

その日の月は、晴れているのに姿を見せず、夜は暗いくらい闇となり、二人を包んだ。


 それから一週間がたった日の午前の授業、駿太郎はある人の横の席に座ろうと思い、その人の姿を探していた。

三嶋香織だ。

彼女と話したいことがあったからだ。

人間には必ず落ち着く場所があり、その場所はなかなか変えることができないということを駿太郎は知っていたので、前の授業で座った、エアコンの風が当たりやすい席を探した。

「いた…」

香織は駿太郎の狙い通り、この前の授業で座っていたエアコンの風が当たりやすい席にいた。駿太郎はその場へ移動すると、香織の横に座った。

 香織は駿太郎が横に座った時、その姿を認めると少し驚いた様子で、大きな目がさらに大きくなるように目を丸くしたが、すぐに笑顔になり、

「この間はどうもありがとうございました」と言った。

駿太郎もそれに従って軽く頭を下げた。

「そういえば、この前もここに座っていましたね」

香織は今、そのことについて気づいたらしいので、「はい」とだけ駿太郎は言った。

「授業後お時間ありますか?」

香織から駿太郎を誘ってきたのは少し意外であった。

「いいですよ」

駿太郎は少しびっくりした表情でうなずいた。

「この前のお礼がしたいので…」

香織は少し笑みを浮かべて粛々と話していた。


 授業後、二人は場所を大学内のカフェに移して話をすることにした。香織がコーヒーをおごってくれるということで、駿太郎は断るのも失礼かと考え、それに甘えることにした。

 注文を待っている時、話を駿太郎が切り出した。

「悩みがあるんでしょ?お父さんが言ってましたよ」

それを聴いた香織は少し下を向いた。

 香織は、駿太郎と話している間、長い前髪を眼の近くまで下げてなかなかまっすぐ駿太郎を見てはくれなかった。

「悩みなんてそんな…たいしたこと」

駿太郎には、香織についても一つの仮説があったので、思い切ってぶつけてみることにした。

「ご飯しっかりと食べてますか?」

香織はその言葉を聴いて、ようやく駿太郎と目を合わせた

「あなたは心理学科でしたよね?分かるのですね…」

香織は少し眉間にしわを寄せて唇きつく結んだ。そしてゆっくりと頭を下げて、

「一年位前から、まともに食事ができません。太っちゃうのが怖くて…」

駿太郎は大きくうなずいて、「怖いんですね」とだけつぶやいた。

「吐いたりとかしますか?」

「いや…ないです」

駿太郎は、一応の質問をぶつけてみた。

「大丈夫です…そんなにまだひどくないですから」

「本当ですか?」

駿太郎は安心させる一言を最後に言った。


 「三嶋香織さんは、身体醜形障害だ」

桃子はいきなりの駿太郎の電話での発言に戸惑っていた。

「戸賀先生にも聴いたから当たってるのは間違いない」

「ね…話が見えない」

桃子は戸惑っていることを駿太郎にしっかりと伝えた。それから駿太郎は香織のことについてしっかりと説明した。

「駿ちゃん、先生に怒られたでしょ」

「うん怒られたよ」

それもそのはずだ。駿太郎は心理学を勉強しているといっても、まだたかが学部生で、心理学者になるためのふもとにも立っていない存在なのだ。それに付け加えまだ何者でもない駿太郎が、こんな話を聴いてやるのは、倫理的におかしな話であった。

「で…助けるんでしょ」

桃子の口調にも少し力が入り始める。

「うん…まだどうにかすれば大丈夫な段階だ!」

「どうするの?」

何か秘策があると考え、桃子は駿太郎に尋ねる。対外、駿太郎は何かの秘策を持っているものであり、それは多くの場面で成功している。桃子は期待していた。

しかし駿太郎の口からは、想定外の言葉が放たれた。

「今から考える」

桃子はその一言に言葉が出なかった。


月島光は、どうしたのかな?

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