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月の少女   作者: 高見 リョウ
デートDV
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助けたい気持ち

 金曜日の3限目、駿太郎と桃子は『家族心理学演習』の授業を受けていた。この授業の担当は、戸賀由紀子准教授で駿太郎が所属しているゼミの先生であった。この授業のテーマは家族であるはずなのに、今日の戸賀先生は、恋愛についての話を長々としていた。戸賀先生の授業は人気があり、毎回多くの受講生がいるのだが、その理由の一つは授業がよく脱線し、面白く興味深い話を学生にしてくれるからだ。しかし、その話は学生一人一人のためになる話でもあった。もう一つの理由は、30代前半という若さと、その容姿端麗さかもしれない。男女ともに“もてる女”という雰囲気をまとっていた。

「不安なもの同士、同じ気持ちを共有し、助け合うことで、その「助けたい」と思う感情は、お互い恋愛感情に発展しやすくなります」

駿太郎と桃子も今日の戸賀先生の話には聴き入っていた。

「でも、救いの精神からくる恋愛感情なんて強くてもろいものよ。その強さゆえ、もろさゆえ壊れた時のダメージは大きくなり、立ち直れなくなる。ましてや心理学を専門とした学生が、助けたい助けられたでいちいち恋愛感情を抱いていたら、お仕事にもならない。クライエントにそんな感情は倫理的に抱けないから」

戸賀先生の真剣な表情は、心理専門職を目指す駿太郎たちに向けられた真剣なものだった。

 講義が終わると駿太郎は桃子に呼び止められた。桃子は明日のことについて駿太郎に話があるみたいだった。

「明日…どうするつもりなの?高井君は」

桃子はすでに緊張し、不安な面持ちであった。

「そうだ…君には、俺の仮説を話さないとな」と駿太郎はつぶやき、桃子に駿太郎の仮説を話した。桃子はそれを聴くと、さらに真剣な表情になって。「あの二人を助けたい…」と駿太郎に訴えた。駿太郎も真剣な表情で「あゝ…」と答えるだけであった。授業後の講義室の雑踏の中、駿太郎と桃子は二人が請け負った責任の重大さをかみしめるばかりであった。


 その日の18時過ぎ、駿太郎は大急ぎで夕食の支度をしていた。今日の夕食は光と一緒に食事をしようと考えていた。そして光は18時45分になるといつもコンビニへと夕食を買いに出かけてしまう。だから駿太郎は夕食の準備を大急ぎで行っているのである。光はいつも時間に合わせて毎日同じ計画で行動をしている。光が駿太郎の部屋で夕食を食べる場合は、事前に光には言ってあるのだが、今日はまだそのことについて言ってなかった。駿太郎がアパートに戻ったのは、17時半であったが、その時光はアパートにはいなかった。なぜなら、光は毎日17時15分になると散歩へと出かけてしまうからだ。駿太郎は早く夕食を作るため、本日の夕食のメニューは、ぺペロンチーノとスーパーで買ったポテサラを、コロッケのようにあげる名前が不明な料理に決めた。この料理は、駿太郎の母がよく作っていたものだ。

 18時45分になると隣から扉が開く音がした。偶然駿太郎の耳に届いたので、急いで駿太郎は玄関口へと向かい、ドアを開いた。

「光!」と駿太郎が光を呼び止めると、光は笑顔になり、「しゅんたろう!」と駿太郎の名前を呼んだ。

「俺の部屋でご飯食べよう!」と駿太郎が笑顔で言うと、光も笑顔で「おれのへやでごはんたべよう」というのだった。


 「明日心配だな」と駿太郎は夕食を食べるときに光に向かって不安をはいていた。光も真剣な顔で、「あしたしんぱい」と駿太郎の言葉に反復していた。駿太郎にとってはそれでよかった。光は話している相手の感情に合わせて表情をコロコロと変えていた。普段の満面の笑みからは想像がつかないほどであった。だから話していると“自分の気持ちを真剣に聞いてくれている”という気持ちに駿太郎は陥っていた。

「なんか…大丈夫かな?」と光に尋ねると、光は「しんぱいだね」と駿太郎の気持ちを要約した。桃子が光のことを生まれついてのカウンセラーだと思うことの理由は、おそらく反復だけでなく、気持ちの要約ができるところにあるのだろうと駿太郎は考えていた。

「光…ありがとう、少し安心できた」

「あんしんできた」

駿太郎は、光が最後に見せた笑顔にまた癒されていた。


 土曜日の正午、休日は人も来ない大学の自習室で駿太郎、桃子、光は、虹山尋子と小島陽平のカップルに会った。待ち合わせ時間は11時45分ということにしていたが、時間ピッタリに3人が着いたころ、まだ尋子と陽平の二人は来てなかった。二人を持つ時間、駿太郎と桃子は不安な雰囲気を漂わせていた。光はそんな二人をじっと観察し、時より二人と目が合うと、ニコッと笑い二人を和ませていた。

 15分ほど遅れて、尋子と陽平が自習室に入ってきた。桃子はその時初めて二人でいるのを見たわけであるが、二人はカップルらしく近くを歩くわけでもなく、距離を置いて入ってきたのを見た。その様子から桃子は、立山大典の「お互いにお互いのことを怯えている」という言葉を思い出していた。駿太郎は、二人の様子を見て、自分の仮説が当たっているという確証を得たような気持ちになっていた。

 5人は、自習室の真ん中にある大きなテーブルを使った。桃子と尋子は隣同士に座り、テーブルを挟み、駿太郎、光、陽平の並びで椅子に腰を掛けた。しばらくは不安からか沈黙が続いていたが、確証を得ている駿太郎は、こう切り出した。

「二人の付き合った理由とか聴かせてくれませんか?」

「理由?」駿太郎の突飛よしもない質問に、尋子と陽平はあっけにとられた様子だったが、尋子が話し始めた。

「陽ちゃんを…助けたくて、元気にしたくて、勇気を与えたくて…。陽ちゃんの境遇を知って、陽ちゃんに対して何かしてあげられることがないかと考えてたら、好きになっちゃった」

尋子は、じっと陽平のほうを見つめて話していた。

「ようちゃんをたすけたいとおもったら…すきになった」

光はすぐさま真剣な表情で反復した。尋子の感情は母性本能というものなのだろうか、駿太郎にはよくわからない感情だったが、「陽平さんは…」と陽平の顔を見て駿太郎は尋ねていた。

「尋子が僕をたすけてくれたから…今度は僕が助けたいと思うようになった」

「ひろこをたすけたい…」光は陽平の顔をじっと見つめている。

続いて桃子が切り出した。

「尋子ちゃん…最初は尋子ちゃんが陽平君に暴力をふるっていたって本当?」

その質問はあまりのもストレートすぎた。しかし最初に彼氏からの暴力について相談された桃子にとって、それを本人の聴くことは、とても重要だったのかもしれない。しかし、その質問を遮ったのは、陽平の言葉だった。

「僕が悪いんです!全部僕が…他の女の人と仲良くしてしまったから…」

突然の陽平の告白に桃子はあっけにとられた様子だったが、駿太郎が

「それは、大学でできた友達でしょう!」と大きな声で言った。

しかしその駿太郎の声を尋子が遮る、「疑った私が悪いの…全部話すから…」と涙を流しながら、言った。しばらくの沈黙の後、尋子は話し出した。

 尋子は去年の夏くらいから陽平のことを疑い始めた。それは浮気を陽平がしているということだ。陽平はバイトで一緒に働いていた後輩の女の子によく相談を持ち掛けられて、その相談に乗っていた。夜まで陽平が女の人と電話で話をしているのが気になった尋子の心は、「どうしてあんなに助けてあげたのに…」という怒りの感情が押し上げてきた。実際に主導権を握っていた尋子が、陽平に手を出すのは時間の問題だった。そこから尋子から陽平に対するデートDVが始まった。最初は陽平も絶えていたが、それに我慢ができなくなった。陽平は尋子に手を挙げてしまい、そこから尋子が握っていた主導権は逆転した。

「私が悪いんです…」尋子は終始涙を流して話していた。

「じぶんをわるくおもっている…」と光は尋子の気持ちを要約した。

 駿太郎はその話を聴いて、「分かりました…」とつぶやくと、陽平の顔を見た。駿太郎には、もう一つの仮説があった。そして、「陽平さん、あなた暴力を振られるのとても怖いですよね…」と陽平に尋ねた。

「尋子さんに暴力を振るったのは、「自分を守るため」という無意識の心が出てしまったからだと思うんですよ」と陽平に語り掛けていた。


次回でデートDV の章、終了です!

尋子と陽平の真相が全て明らかになります!

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