~家族前編~
妄想が小説化したものです。誤字脱字があれば言ってください!感想を書いてもらえると嬉しいです!(泣)
真夜中の繁華街には、溢れかえるような人々。ホテルや居酒屋、たくさんの人工的な光が眩しいくらいに光っている。
酒臭い匂いもあれば、キツイ香水の匂い。
たくさんの人と声と匂いで包まれている。
そのなかを、手慣れたように歩いて行く一人の少女
賑わう繁華街に、正反対な暗い絶望の表情。繁華街に不似合いな難関高校の制服。
彼女の存在をあたかも無いようにすれ違う人たち。
通り過ぎた人達は、彼女の涙の訳を知ることはないだろう。
私はよろめきながら暗い裏路地に入った。小さな物陰があり、その場に座り込む。汚れる事なんてもう、今さら気にしない。
私の心はもっと、もっと。真っ黒に染まってしまったから。運命を恨んでしまうくらい歪んでしまった。
明るく賑わう繁華街にも、その彼女の気持ちが写されたかのように雨が降りしきった。
大きな黒雲は星空を隠し、星の光を吸いとったようにキラキラ輝く雨。
彼女の涙と雨は混ざりあって、白い陶器のような肌を伝った。ポロリと零れる雫は彼女の心に染みていった。
絹のような柔らかい髪は肩に付かないように切り揃えられてる。
平均より身長は小さく幼く見られる端整な顔立ちで、華奢な白い体は誰もが見とれるほどだった。
その小さな体を縮こませて、物陰にスッポリ収まる。
ただ、震えながら助けを求めていた。
彼女の震える物陰から数歩歩くと辿り着く目立たない、少しボロいバーの扉が開かれる。
カランカランと渇いたような鐘の音が響く。
カツコツとヒールの音が次第に近付いてくる。目をぎゅっと瞑り体を強張らせた。
自分の目の前でヒールの音が止まる。
「あんた、なにやってんの?」
突然、投げ掛けられる質問に肩を揺らす。ヒールの音が聞こえたハズなのに、明らかに聞こえたのは低い男性の声だった。
「‥‥‥。」
動揺と恐怖で声にならない。
立って見下ろす、『誰』かはしゃがみこんだ。
近くなるとわかる、キツイ女物の香水。自分とは無縁の物だ。
「‥‥おいで。」
この日、9月1日
私は助けてもらった。
私を助けた恩人は、オカマバーのママさんで気前よく私を保護してくれた。
ママさんの源氏名は『キャサリン』で、本名は『千葉悟』。
艶やかに輝く金色の髪、ガッシリとした筋肉質の引き締まった体に、濃いメイクをとったらワイルド系イケメンなんだろうと思うくらい整った顔立ちだった。
長身の体にマーメイドタイプの真紅のドレスは色んな意味でよく似合っていた。
私を保護したキャサリンはタオルで私を包み込み、ホットミルクを出してくれた。
カウンターに座らせられ、隣に座るキャサリンの目はとても暖かかった。私の震えが止まるまでずっと黙っていてくれた。
落ち着きを取り戻した私はお礼を言った。
「わざわざ、助けていただき‥‥ありがとうございます。」
「良かったわ。ちゃんとお礼を言える子ね。」
予想と反する答えに驚きを隠せない。
「最近の餓鬼は、助けてもらえるのが当たり前って思ってんのが気に食わないのよ。」
この場には合わない陽気にお喋りを続けるキャサリン。
「あ、あの‥‥。」
「名前は?」
「篠崎雪、15歳です。」
私の頭から足先まで一通り眺めて、興味無さそうに足を組み換えた。
「幼い見た目だけど、まぁ可愛いわね」
「はぁ‥‥」
キャサリンは煙草を取りだし、ライターで火を着けた
すぅ‥‥と吸い、ふぅと吐き出される白い煙は慣れないものだった。
「あんたの制服を見る限り、超エリート学校の一条じゃない?」
突然静まり返ったカウンターのすぐ近くにある厨房から、陽気な声が聞こえた。
「いやぁん!私の母校じゃなぁいー」
そこには目立つ赤い髪の毛を豪快に巻き上げたヘアスタイルに、フリルの多いラブリーなワンピース。動くたびに短いワンピースは男らしい立派な足を見せていた。くねくねと動く男性‥‥オカマがいた。
「ちょっと、まだ出るんじゃないの!」
直ぐ様怒鳴り付けるキャサリンに、分が悪そうに口を尖らせる。
彼女の源氏名はマリアさん。元はエリート学校を卒業して医者だったがオカマの道を貫いた。
一条学校はエリートばかり、そんな制服を着た私を不思議に思ったのだろう。
「エリート様が繁華街を彷徨って、どうしたのよ」
その質問にドキリと胸がなる。速くなる心拍数に合わせて冷や汗もじんわりと滲む。
‥‥そう、私は全てを投げ出してきた。今まで積み上げてきた『名誉』も『関係』も『家族』も‥‥
「私は入らない子だから、捨てられました。」
平然と答える彼女の目には光が無かった。
彼女の最低限の情報は、父親の浮気相手の子供で産んだ母は14まで育てたがある日失踪。
父親は身元不明。父親の親戚に預けられたが家族には迫害され、逃げ出してきたと。
その親戚は雪を探すことも何も特にしない。雪は改めて、自分が必要な家族と思われていなかったと実感し心を痛めた。
キャサリンは、話を聞き終わったあと怒りの感情を抑え込み、淡々と話す雪を抱きしめた。
それは恋慕でもなく同情でもない、父親の気持ちで。
影で聴いていたオカマ達が泣きながら私に駆け寄り、皆で私を抱き締めた。暑苦しかったけど、そこには温かい気持ちが伝わった。
「好きなだけ此処にいなさい。私達オカマは、あんたを捨てない。」
抱き締められた雪はそっと抱き返す。
「ありがとう‥‥ありがとうございます。」
私の心のノートに、家族が増えた。
家族編は短いです!次は後編!