トーワ式二人三脚
じりじりと照りつける日光と、一歩動いただけでも誰かとぶつかってしまうほどの人ごみ。そして思わず耳を塞いでしまうような歓声。
「あ~、死にたい・・・」
「駄目駄目っ!あーくん、正気に戻ってっ!じゃないと私っ・・・私っ・・・・・あーくんのお墓にお花添えるなんてやだっ!!」
「死んでくれっていってるのか死ぬなっていってるのかはっきりしろよ!!」
相変わらずの超人テンションのトーワと今二人三脚に出場するため列に並んでいるのだが、この蒸し暑い中お若い世間の高校生様たちは体育祭などという男女のお祭り、よもや二人三脚などという異性とくっつくチャンス!な競技のせいでピンクモードらしくまわりから幸せそうな空気が漂ってくる。
オレも優しくてあかるくて誰にでも好かれ美少女でそして大財閥令嬢のお嬢様トーワと組んでいるためほかのやつらにとっては羨ましいこの上ないんだろうがオレとしては妬みの視線もまとわりついてくるトーワも迷惑でしかたない。
「私ね、体育祭って初めてなんだ!!中学のときはいっつも体育祭のときに家の用事入ちゃったし小学校のときは誘拐でもされたら大変だから、ってお父さんが参加させてくれなかったの。だからすっごく楽しみで・・・・・それにね、」
「?」
トーワは一瞬寂しそうな表情をしたあとオレのほうをみてニコリと曇りひとつない顔でしっかりと、迷いを一切含まぬ声で言った。
「あーくんがそばにいて、あーくんと一緒にいれて・・・・・、私は、私は私なんだな、って思えるよ。」
「・・・私は私って・・・当たり前じゃねーか」
「うん。そうだよね。ごめんね、私暑さでおかしくなっちゃったみたい」
「・・・あそ」
冗談冗談、と笑って彼女は立ち上がりオレに手を差し出した。
俺はためらいながらもここで拒否すると後ろのトーワファンたちがうるさそうなので大人しく手を握った。
トーワはぱぁっと笑うと行こう、といって二人三脚のスタート地点まで歩いてゆく。
それについて行きながら、どこか懐かしい、そんな奴とトーワを重ねた。
「似ているだけで、別人だよな」
「ん?何か言った?あーくん」
「いや・・・・、なんでもない」
「?そっか。さてさてっ!このトーワちゃんの恐るべきあーくんとの愛の競技見せてやるんだからっ!」
「見せんでいい」
気づけばいつもどおりの彼女で、どこかはぐらかされているような、はたまた気づいてくれとでも言われているような、そんなモヤモヤした感じを抱えながらもそれを言葉にできる勇気はオレにはなく、黙ってついていく。
全てをさらけ出しているようで、何もさらけ出していない。そんな彼女。
誰にも近づけさせない、だけど近づいて欲しい。
哀しみ悩んでいるようなソレ。
結局ソレに気づいても、オレは何もする気も、してやることもできないけれど。
「隠し事は、やだ」
「え?隠し事って?」
「・・・・・お前に言ったんじゃない」
「ふ~ん、そっか」
不思議そうに首をかしげてからまたルンルン気分にもどりトーワはスタート地点に立つ。
それを追いオレもスタート地点にたち二人の足と足を固定する。
「密着♡」
「黙れ」
気持ち悪い顔でいうトーワにとりあえずハリセンを食らわせてからスタートするため肩を組む。
するとまたトーワがやん♡公共の場でそんなこと・・・っ♡とかいってきたのでもう一度ハリセンで叩く
。
「いちについてー、よーい、スタートッ!!!!」
教師の声とともにパァーンッとスタートを告げる音がなり走り始める。
トーワはスポーツ万能で中学は陸上の50メートルで関東で優勝した選手だ。
勿論、普通の身体能力のオレとはかなりの差が、あり・・・・、
「遅いよ遅いよあーくんっ!!!ぶっちぎれぇえええええええええっ!!!」←全速力
「あぁぁあああああああ」←半分引き摺られてる
地面で思いっきり引きずられてめっちゃ痛いっす。
ザリザリいってますってばっ!
いや、確かにトップで走れてますけどこれは二人三脚というよりも小柄な女子校生が足に標準体型の男子校生くっつけて走ってるだけじゃねーかっ!!
地獄だ、地獄・・・・・、
「やったやったっ!あーくん、一位だよっ!!!」
「よ、よかった・・・・っすね・・・・」
見事一位を飾りぴょんぴょん飛び跳ねながら喜ぶトーワを尻目にオレはもうツッコム気力さえなくげんなりとただただ引き摺られたときにできた傷の処理を始める。
これって二人三脚ですか?そうなんですか?こんなすっげー二人三脚初めて体験しましたよアハハハハハハ。
「とりあえず・・・・とりあえず・・・・、お前ともう二度と二人三脚はしねぇええええええええええええっ!!!!!!!!」
とりあえずそんな虚しい叫び声が校庭に響き渡ったとさ。
~完~
「ってこんな完結あるかぁああああああっ!!!」
~続く~