逃亡少年
「う・・・・・ついにやってきてしまったか・・・・・・、」
俺がこの世で最も大嫌いな行事であり最も大嫌いな相手と何が嬉しくて二人三脚しなくてはいけない日。そう、
”体育祭”
「あーくん、二人三脚、つぎのつぎだねぇーヽ(*´∀`)ノ」
「あ、そ。」
冷たくあしらってみても彼女は何も感じる様子がなく、ヘラヘラと笑いながら体育祭を見ている。
どうしてこんなやつと自分が一緒にいるかなんて考えだしたらキリがないが、少なくとも自分が望んで一緒にいる訳ではない。
「あーくん、二人三脚ってさ、ロマンティックだよね。」
「あ、そ。」
「繋がった足と足、そして密着したカラダ・・・・・エロティックだよね。」
「何を言っているんだお前は!!!!」
とても女子とは思えない発言をしておきながら彼女は口笛を吹きながらあれだよね、あーくんって純粋だよね、などとブツブツつぶやいている。
もう突っ込む気力すら湧かず、ひたすら聞かなかったことにする。
「あーくん。」
「んだよ、消えろ、クズ」
「これは本気。ちゃんと聞いてね。」
「やだ・・・・ってお前が本気とかキモイ、キモイ、キモイ」
「・・・・・あのね・・・・」
彼女は一瞬少しだけシュンとしてから手をもじもじと動かした。
そして、決してこちらに目を合わせようとはしなかった。
「・・・・、ううん、なんでもない。さあさ、このトーワちゃんの華麗なるパフォーマンスをとくとみよーーー!!♫┌(┌^o^)┐」
「・・・・?」
なんだったのだろう。
一瞬のあの寂しそうな顔は。
まるで全てを恐れているような、怖がっているような、ソレ。
なんて考える義理、自分にはない。
元々関わりたくない相手、無視すればいい。
ほら、今だってケロッとしてヘラヘラ笑っているじゃないか。
そうだ、そうだ、そうだ・・・・、
「ん?どうしたにょ?あーくん!!目を見開け!!歯を食いしばれ!!どんどんいくぞ~~~~!!(`・∀・´)」
「・・・・・ああ・・・・」
何も知らない、
知らなかった。それだけで済まされる世界など、どこに存在するのだろう。
でも、自分は、自分は・・・・、
甘い考えだとか、今更後悔したって仕方ないけど、このとき俺は逃げていた。
だからこそ気づかなかった。
彼女が小さく、「あーくんなら・・・・助けてくれる?」と呟いたことに・・・・