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運命物語  作者: 運乃
1章「運命の始まりは灯火から」
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4話:案内

「ここが遊び場。遊んだりお菓子食べたりぼーっとしててもいい場所。何してようと勝手だから皆大体ここにいるか自分の部屋にいるかね」

「他の部屋は違うのか?」

「同じなのは各自の部屋だけ。後は風呂場とか台所だからできないかな。まぁそこで過ごしたいなら別に誰も文句は言わないだろうけど」


 未来の説明に少年が唸るように頷いた。さっきから説明が大雑把過ぎてよくわからないのだ。


「未来お姉ちゃん」


 呼びかけられた未来が中にいる三人を手招きした。正吾と未来の前に三人が集まると、未来は優奈に指先を向けた。


「この子は優奈。今中学二年生で私の次に年長。分かんないことあったらできれば優奈に聞いて」

「またそうやってお姉ちゃん私に押し付ける」


 優奈の言葉を聞き流して未来は自己紹介を促した。説教されると逃げるのも未来の悪い所だった。


「これからよろしくお願いします。眞井優奈(さないゆな)です」

「よろしく。俺は和井正吾。えっと」

「私と同じ年だから」


 未来の一言で三人が声をあげた。


「やったね。皆お兄ちゃんだよ」


 はしゃぐ三人を放って未来は紹介を続ける。


「こっちがユウくん、こっちがマキちゃん。二人とも同い年で七歳。今年小学校に入ったばかり」

「正吾お兄ちゃんよろしくね」

「お兄ちゃんどこのお部屋?」

「もう決まってるの?」

「ユウくん達のとこ空いてるからそこでいいって」


 四人の会話に正吾が置き去りにされる。

 そのことに気付いて未来がユウくんとマキちゃんの二人に手をかざした。


「また後で。あと部屋に行ってくるだけだから、すぐに戻ってくるから話すならその時にね」


 未来の言葉に満足してないと言わんばかりの二人が軽く頬を膨らませた。


「僕も行く」

「私もー」

「ダーメって。お姉ちゃん具合悪いんだから。未来お姉ちゃん私代わるよ?」

「いい。二人のこと見てて」


 そうして正吾と未来が遊び場から廊下に出て自室の方へと向かう。

 正吾が今の話を聞いて未来に尋ねた。具合が悪そうには見えなかったからだ。


「具合悪いのか?」


 心配そうな表情で聞く正吾に未来があっさりと答える。


「心配ない。ちょっと頭痛がするだけだから」


 本当にあっさりと答えた未来に正吾が聞き直した。


「風邪なのか?」

「じゃないみたい。片頭痛かなんかだと思うけど。そのうち治るから心配しなくてもいいから。よくあるのよね。嫌な予感のする時って」


 未来の意外な言葉に正吾が関心を示した声を出した。


「へぇ。じゃあ頭に感知器でもついてんじゃないのか?」

「だとしたら取り外したい。予感がするたびに痛くなられても困るし」


 未来の笑みに正吾もようやく肩の力が抜けた気がした。玄関から先、二人で歩いて説明や会話をしても未来は一度も笑っていなかったのだ。それが遊び場での会話で微笑を見せ、今初めて二人の会話で笑ったのだった。

 正吾がよかったと安堵の表情を浮かべた。


 その直後、未来が立ち止り正吾も倣って足を止めた。

 何かと未来を見た正吾は、目にした顔が前を睨んでいることに気付いた。それも怒っているのが分かるほどに眉を寄せて。

 正吾が前に目をやると、部屋の扉が点々と並ぶそこに、スーツ姿にコートを羽織った三十代ぐらいの男が歩いて向かってきていた。それに気づき、そして明らかに少女がその男を睨みつけているのがわかり不思議な顔を浮かべた。

 その横の未来が怒気を声に表して男へ放った。


「何か用でもあるの?」


 男が二人の前に立つ。すると、未来が更に嫌な顔を男に向けた。

 そんな未来へと男が苦笑する。


「いや、ちょっと立ち寄っただけだよ」

「いつも何の用があるの。変態」

「変態って失礼だなぁ」

「いつも顔見せる人なんていないから。誰か攫う子でも探しに来てるのかなって思って」


 未来に対して男もしかめっ面をした。半ば犯罪者扱いされているのは遺憾に感じ、憤りすら感じられた。


「そんな犯罪じみたことするわけないだろう」

「じゃあ、何の用よ?」

「だから、元気にしてるかなって。それよりその子新しく入ってきたのかな?」


 男に言われて未来が隣へと目を移した。

 途端に正吾がその口から出た言葉に驚かされる。


「……あと優奈に聞いて。私出てくから」

「え、出てくって?」


 聞き返した正吾に対して未来がクルリと反対を向きながら言った。


「出かけるってこと。じゃあね」

「ちょっ、」


 言いかける正吾の事を無視して未来が進む。男と正吾とは反対の方向へと。


「おい、具合悪いんじゃないのか」

「治った!」


 怒鳴るような声をあげて未来が二人の前から早足で去っていった。

 残された二人はそれをぽかんと呆れて見送る形になった。

 夏場の天気みたく晴天から豪雨に様変わりした少女に正吾は呆れていた。会ってからまだ三十分ぐらい。それだけの時間でここまで喜怒を見せる少女は初めてだった。

 呆然として佇む正吾に笑いを込めた声が後ろから聞こえた。


「嫌われてるんだよなぁ」


 苦笑しながら頭を掻き、見たまんまに困ったような男の方へ正吾は振り返った。

 見た目は完全に三十代を超えたオッサン。だが、どことなく若いようにも見える。三十代手前と言っても可笑しくはなかった。剃り残したような顎鬚が似合っていなければ。

 複雑な気持ちで男を見ていた正吾に男は興味津々な目を向けた。


「君は今日からここに?」


 頷き名前を名乗った正吾に男はあっと一声上げた。


「忘れてたよ。俺の名前未来ちゃんから聞いた?」


 首を横にした正吾にならと男が言った。


「俺、七五三」

「七五三?」


 聞き返す正吾に男は自慢でもするかのような口調で喋る。


「珍しい名前だろ。全部数字で、七に五に三でなごみって読むんだよ」


 七五三という男に正吾はへぇと関心のある声を出した。


「三十三年間同じ苗字にあったことがないのが自慢なんだよな」


 そう言った七五三という男の歳がここでわかり頷いた。

 三十三歳。正吾はその見た目に妥当だなと思った。四十なら若いと思ったが、三十ならそれぐらいかとしか思わなかった。

 正吾が歳を聞いて興味を失くした瞬間、再び男に惹きつけられた。


「それより君さ火事のことでいい話聞きたいと思わないかい?」


 その言葉に正吾は目を見開いた。いい話と言ったこの男が何か知っている。自分の家族を奪ったあの火事のことを。

 正吾の顔が微妙に変化したのを感じてか、男が微笑を湛えた眼差しで正吾の目を見た。


「もしかして、君事件の?」

「はい……何か知ってるんですか。犯人の事とか」


 正吾が聞くその姿勢に男は一度宙へ目を逸らした。まるで、突っかかるかのような聞き方だったからだ。


「聞いた話だけだけど、それでもいいなら話すよ」


 それでいいと頷いた正吾に男も首を縦に軽く振った。


「それじゃ自室で話そう。そっちのほうが君もいいだろ?」

「その方がいいですけど、まだ場所がどこだか。ユウって子の部屋なのは聞いたんですけど」

「ユウくんの所か。分かった」


 男が続けて正吾に着いてくるように言った。男に従って正吾が後をついて行く。そして一人で納得した男に正吾は問いかけた。

 施設内に詳しいことが気にかかったのだ。


「ここにはずっと来てるんですか?」

「まぁね。知り合いが昔ここで世話になってからずっと来てるよ。その知り合いはもう死んだけど、彼がここにきていろいろ援助してやってほしいって、最後に言われてね。俺もここの事はほっとけないと思って、それ以来かな」


 それから部屋に着くまで二人が少しばかり話した。男がサラリーマンであることや、本人が悲しむほどに結婚できないことなど。ほとんどが男の話だったが。

 

 そうして目的の部屋にたどり着き二人が中に入った。

 部屋の中に入ると真正面に窓があり、その脇には机が二つ置かれていた。そして壁際にはベッドが二つあった。二段ベッドと一段のみのベッドの二種類だ。

 それなりに片付いている部屋の中に正吾が入り、改めて今日からここで暮らすことを感じた。朝はここで起きて全員で食事をして、その後でそれぞれが自分の時間を過ごす。学校に行ったり遊びに行ったり。そうして自分たちの部屋に戻り眠る。そんな生活がしばらく続くのだ。


「ドア閉めて。話すからさ。荷物は適当に置いといていいと思うよ」


 言われて正吾は我に返った。正吾が入口近くにバッグを置き言われた通りドアを閉めた。

 男が窓の左、入口から見て左側の勉強机の椅子に腰をおろした。正吾はどこに座ったらいいか分からないまま、とりあえず一段ベッドに座った。


「俺が知ってることだけは話すからさ。君が求めてる物じゃないことかもしれないけど」

 正吾はそれでもいいと首を縦に振った。

 男は胸ポケットに手を伸ばし、煙草を取り出そうとして止めた。子供部屋はもちろん禁煙だからだ。空の手椅子の背凭れにかけて男は正吾の方を見ながら言った。


「俺が知ってるのはさ、犯人像と今日火事があるってことなんだよね」


 驚きの声を漏らす正吾に男は冷静な口調で続ける。


「誰も知らないけど、犯人はどうも中学生らしいんだ」

「中学……」

「ああ。連続放火の犯人は中学生。だから君の家族を奪った犯人も同一だと思うよ。他の小火は知らないけど」


 正吾はガックリと肩を落とし、握り拳を爪の跡が残るほどに作った。


「最初は遊び半分だったんだろうけど、スリルとか楽しさを求めた結果大火事になったってとこじゃないか。今のは俺の予想だけど」


 そんなと声を震わせた正吾に男は黙りこんだ。俯く正吾の顔が怒りで染まっているのが見えたからだった。

 正吾がバッと顔を上げた。怒鳴る声が飛ぶ。

「そんなものの為に、俺の家族は死んだのかよ!」

 

 怒りを露にする正吾とは正反対に落ち着いた口調で正吾に言葉を返す。


「俺は犯人の動機なんて知らないよ。知りたかったら今日確かめたらいいんじゃないかな」

「どういうことだよ」


 冷めない怒りをぶつけてくる正吾に男は答えた。


「今日の夜に放火するって話を聞いたんだよ。場所までは分からないけど確実だ。俺のことを信じるなら今日の夜街を歩いてみたらいい。本当に確実だから」


 信じられないような事を言う男。それに正吾は目線を自分の足元に戻した。

 今日の夜火事がある。そんな予感がするのではなくそれを人から聞いたという男を正吾は信じられなかった。信じられるはずがなかった。


「どうしたいかは君が決めるとして、俺からの情報はこれだけだ。後は何も知らないからさ」


 そう言うと男は椅子から立ち上がった。正吾は一瞬見ただけですぐに視線を戻した。

 下を向く正吾に男は一言付け足した。


「分かってるとは思うけど、捕まえるのはいい。でも復讐してやろうとか同じ目にあわせてやるって思うのは間違いだよ」


 正吾の肩を軽く叩き男は部屋を出て行った。

 男が出て行った後も正吾はそこから動きもせず、自分の足元に目を向けていた。

 火事の話が本当なのかどうかと、男の言葉により信用と不信の間に揺らされながら。


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