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運命物語  作者: 運乃
1章「運命の始まりは灯火から」
12/22

11話:事件の終日

 キッチンと居間の二部屋を一つにした施設の居間。食堂に当たる場所だ。その真ん中にはテーブル二つを合わせた、大きなテーブルが置かれている。元キッチン側の部屋は変わらずシンクやコンロ、冷蔵庫も置かれている。そして居間側の奥にはテレビが置かれている。32インチの地デジ対応のテレビだ。

 そのテレビ画面を未来は険しい表情で見つめた。


「速報です。棚橋市を中心に火事を起こしていた少年が、警察署内の取り調べ中に死亡したとの報道です。えー速報です」

「死んだ?」

「生きてたろ。あいつ、なんで」


 未来(みらい)が隣を横目で見て、居間の冷蔵庫に手を伸ばした。乾いた室内に、走ってきたせいで喉が渇いていた。季節ではないけど麦茶が入っている。それを取り出してコップに二つ注ぎながら、未来は言った。


「何か飲んだのかも。毒物には詳しくないけど、青酸系の何かとかよくあるでしょ。私たちに追い詰められてあの状況だったから、捕まるのが怖くてそうしたんじゃない。にしても、八方塞がりで考えたのが死ぬことだったなんて、ホント、ふざけてる…………!」


 気付いて未来は後ろを向いた。

 テレビ画面から聞こえてくる放火魔についての報道を見ながら、少年は体を震わせていたのだ。何も言わず、動こうともせず、テーブルの横に立ち画面を見つめている。何かを訴えるかのようにじっと、子供のように画面だけを見つめていた。

 

未来が冷蔵庫に麦茶を仕舞い、コップを口に当てて飲み干した。飲み終えたコップを置いて、未来は少年の横を通った。少年は動かない。

 未来がその顔を見てテレビ画面、床へと目線をさげた。リモコンを手に取り未来はテレビの電源を切った。


「麦茶置いてあるからよかったら飲んで待ってて。逸見呼んでくるから」


 未来がそう言って居間から出て、廊下を左に曲がった。

 少年は死んでいなかった。確かに生きていたのだ。あの男が来るまでは確かに生きていたのだ。正吾(しょうご)を刺そうとして。

 未来が疑問を持ちながら事務室に向かって歩き、廊下にいた人物に顔を顰めた。コート姿に無精髭。いい歳をしたオジサンも似つかわしい男が歩いていたのだ。遊び場に向かって。

 七五三(なごみ)が未来と対面する。


「二人とも無事だったかい」

「見ればわかるでしょ」


 未来が無愛想に答える。この男がどうしても嫌いなのだ。

 目の前に立って未来が矛盾する疑問を七五三に尋ねる。


「なんであんたあそこに来たの」

「凄い形相で走っていく、和井君をみたからだよ。それで追いかけたら君たちに向かって少年がナイフを向けてたから、ピンチかなっと思ってさ」


 未来が男の目を見る。にこやかに笑っている目だ。はたから見たら悲しいような深刻な目に見えるが、この張りつめた空気の中で未来には笑っているように見えた。

 それを不気味に思う未来に七五三が聞き返す。


「ところで、なんで未来ちゃん達はあそこにいたんだ?」

「遺族が、家族が犯人追っちゃ悪いの?」

「悪いとは言わないけど、そういえば彼大丈夫かな。家族全員亡くなっちゃったんだろ。ホント可愛そうだよな。犯人も死んじゃってさ。彼大丈夫だったかい」


 途端に未来の手が七五三のネクタイを掴んだ。


「言葉を謹んで! それ以上何か言ったら私があんたを……」


 怒鳴り声に未来の気迫が込められる。七五三のネクタイを手元に寄せて、鬼すら睨み殺すような目を未来は向けた。その顔に七五三は思わず引いた。


「ご、ごめん。不謹慎だった。悪かったって」

 

 未来が呆れて手を放す。

 首元を直す男と未来がすれ違う。ぽつりと呟いて。


「皆に今のこと言ったら、許さないから。あと彼に近づかないで」

「わかったよ」


 怒気を露わにする未来の背を七五三は見送った。七五三がここに来てから今までの間で初めてみる形相だった。

 去っていく未来の後姿を七五三は見つめる。ニヤリと怪しげな笑みを浮かべて。


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