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4ー1 自由っていいな!

また間が空いてしまってすみません……!

カッケルの鳴き声で目を覚ました光はうんと伸びをした。

猿のようにキーキーと甲高い鳴き声で烏ほどの大きさもあるカッケルは、鳥類とは思えないほど凶悪な見た目と裏腹に穏和で人懐っこい。地球でいえば鳩ほどに平凡で、公園の人馴れたそれのようにすぐに寄ってくる。いつもは煩わしいその声も小鳥のさえずりのようで何とも清々しい気分だ。

薄手のカーテンから差し込む朝日ににまりと笑んだ。


ここ何日も公爵家で寝食していた光は朝日より早く叩き起こされ、朝食より先に国の歴史や国内外王族貴族の肖像画と関係性などを教え込まれていた。寝惚けた頭など、かの鬼教官が許すはずがなく、一瞬でも気を抜いた表情を見せれば頭から冷水を掛けられたこともある。何度舌戦を繰り広げたか。

その後の朝食でも指先一つの作法まで煩く言われ、食べた気などするはずがない。

どれもこれも王妃教育の一環で自分には関係がないと言い張ったが、公爵と侍女長が聞き入れるはずがない。

夜会までの我慢だと堪えてきたが、よくまあ逃げ出さなかったものだ。半分どころかほとんど意地と負けん気だけで乗り越えた。

ミレも鬼教官並みのダンス指導をしてくるしで、夜は悔しさから涙を流すところであった。実際、涙目にもならなかったが。


全てから解放された。

悪夢のような昨夜までとは打って変ったなんという清々しい朝。

最高だ、と光は一人笑った。


「自由だーーーー!!!」


拳を振り上げ有名洋画を再現する。この世界に来て、いいや、人生最高の気分だと言い切れた。


「何事だカリイ?!」

「あ、先生おはようございます」


突然の奇声に驚いたらしいモールが、ノックも無しに扉を開けてみれば、寝間着のままで両腕を突き上げる光の姿があった。


「何を叫んでいたのだ」

「幸せを満喫していました!はい!」

「そうか……出来れば、もう少し静かに満喫してくれ」

「次は大雨の中でやりますから大丈夫です」

「風邪を引かんようにな?」

「ありがとうございます!」


疲れる。

公爵と引き合わせてからの光は年相応の少女らしく感情豊かになったが、それまでは小さな事柄でも全ての方向から観察するような思慮深さを見せていた。深い闇色は今でも人の言動を静かに観察しているようだが、それよりも我を表現しているようだ。


「私は城に上がる日だからな?大人しくしておいてくれるな?」

「やっだなー先生。わたしがいつも問題起こしてるような言い方やめてくださいよぉ」

「うむ……屋敷から出ないようにな」

「心配性だなぁ先生は!」


過保護なんだからーとこちらの背を叩く光を恨みがましく見、そうではないという言葉を内に押し込んだ。








夜会の騒動から三日。

王太子の婚約話は上へ下への大騒ぎで、城内は勿論城下でも大変な騒ぎである。それどころか国中に広がっているだろう。

息子の誕生を祝う夜会だというのに、お開きになる頃にのんびりと現れた前公爵夫妻はその騒ぎに「殿下は男色ではなかったのですね」と不敬にも程がある感想を述べた。

(この国は同性愛を規制していないが、大っぴらに認めてもいない)

てっきり息子と出来上がっているのだと。お飾りの王妃を誰にするか、どこから養子を貰うべきかと陛下と三人で相談していたのですよ、と。

見目は息子にそっくりな、だが中身はのほほんおっとりとした、だが、ずばずばと物を言うのはさすが公爵の母親である年齢不詳の美女にそう言われ、王太子はがっくりと肩を落とした。


もう一人の渦中の人といえば、夜会の日から公爵家に滞在している。

ジジェス家の屋敷は城下にあり、近衛を遣わしても警備に無理がある。ならば警備においても使用人の質も王宮と遜色ない公爵家が預かるのが一番だ。

少女といえば、それまでは光が受けていた王妃教育を夜会の翌日から受けている。頭の出来は光が上だが、ミレには彼女にはない向上心がある。侍女長と執事頭は教えがいあると嬉しそうだった。


「ジジェス家が大変なことになっているらしいな?」


書簡の処理をせっせとしているところに現れた馴染みの二人をウォークはぎろりと睨め付けた。


「殿下、今時分はウァン伯爵の謁見が入っていたと記憶していますが?」

「貧乏伯爵家の娘との婚約を解消して、うちの娘と婚約してくれとかそんな内容の話をいつまでも聞いてられるか」

「殿下は可愛い婚約者に会いに行く、と逃げ出したんだよ」

「婚約したばかりというのにそんな奴等ばかりが来るんだがどういうことだ?」


煩わしいやり取りからやっと解放されたと思っていたのに、と忌々しそうに舌打ちした王太子にマクはけらけらと笑う。


「そりゃあさ、お相手が他国の姫だとか中枢の伯爵家なら納得したかも知れないが、ジジェス家みたいな田舎伯爵の娘が相手ならうちの娘が勝てると勘違いしても仕方ない」

「馬鹿馬鹿しい」


王太子はむっつりと顔を歪ませている。


「ジジェス家には近衛から護衛を着けてはいますが、貴方が彼女を護って差し上げねば、そういう輩は減りませんよ」

「分かっている。だからこうやって頻繁に会いに来ているだろう」

「派手に贈り物でも如何です」

「伯爵から取り上げた領地の一部はどうだ?」

「よろしいかと」


女心など微塵も察することの出来ない二人の会話をくつくつと肩を揺らして聞いていたマクは、自由の身となった少女のことを思い出していた。

今はモールの屋敷で自由を満喫しているだろうが、行動力の塊のような少女が屋敷に籠ってじっとしているとは思えない。

この国の内政に触れた彼女をウォークが放っておく訳がないが、どのようにして繋ぎ止めるつもりか。

そう問えば公爵は秀麗な顔に意地の悪い笑顔をのせた。


「あれがミレ嬢を見捨てるはずがない。自分を慕っているミレ嬢を人身御供にしたという負い目がある」

「そうだな。カリイ嬢は情に深い女だ」

「同性に対してだけというのがどうにもな」


それこそあっちが同性愛者ではないのか、と言う公爵に王太子はうむと腕を組んだ。


「俺を袖にするのもだが、ウォークを前にしても逆上せたりせんしなぁ」

「リリィと魔女殿が美しい美しいと誉めていたな……」

「やはりそっちの気が」

「いやいや!ないだろう。それは普通に憧れてるとかそういう目で見てるだけだろ?」

「「そうか?」」


揃って首を傾げる幼馴染みに嘆息した。

外見では血の繋がりなど全く感じさせないくせに、こういうところはよく似ている。


「好いた男でもいれば、それを駒にするのだがなぁ」

「お前ら、本当に性格悪い」


そうでなければ王族などやってられるか、と二人は声を揃えて答えた。

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