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閑話:ダンスの裏で

1 女三人悪巧みー会話編



「で?あいつらが喚き出したらどうする?」


ミレが王太子を想っている、王太子がミレに対する評価は悪くない。

そこまで聞いた二人は、王太子の婚約者としてミレを推す事に協力すると頷いてくれたが、人前でミレが婚約者だと公言した程度であの二人が大人しく引き下がるとは思えなかった。


「まずは先生に犠牲になってもらいます」

「先生って、モール?」

「はい。王太子の横に居るわたしを見て、会場は騒然としますよね。王太子はまず公爵に祝いの挨拶に行くはずです。それまでリリィーラ様は公爵から離れないで下さいね」

「ああ、ダンスが始まるまでは、私たちを引き離してまで話そうとする者も居ないだろう」

「魔女様はそれまでにミレを捕獲していて欲しいんです。王太子が公爵への祝いの言葉を伝えた後に、ミレとこちらに合流してください」

「そこでミレを婚約者として紹介する?」

「はい。あの場でわたしと面識があるのは先生くらいです。先生にミレを紹介する体で、婚約者だと声を高々に周囲に伝えます」

「あいつらの顔が楽しみだな」

「はい」


魔女と光がくつくつと肩を揺らして笑い合うのをリリィーラは肩を竦めて眺めていた。

城の奥で狸じじいどもがやりそうな絵面。若い娘がやるものでは決してないが、この二人だとやたら似合う。


「冗談を言うな、相手はお前だ、などと言い、抵抗を見せた場合、わたしは先生の愛人だと公言します」


その言葉にリリィーラは茶を吹き出し、魔女は一瞬の間を置いて腹を抱えて笑い転げた。


「先生は勿論反論するでしょうが、若い娘が涙ながらに「わたしは先生をお慕いしています!ですが、先生はわたしを孫娘としか見て下さらない。それどころか、わたしを嫁に出そうとする。わたしを不憫に思ったお優しい王太子殿下が婚約者としての立場を貸してくださったのです!」と訴えれば誰も悪役にはなりません」

「それ!最高だ!カリィ!」

「そ、それでは君が…その、君の趣味が疑われるのではないのか」


思わず声をひそめて言うリリィーラの肩を何度も叩き、未だ収まらない笑いを堪えようともしない。


「王太子と結婚するくらいなら、じいさん趣味だと思われてる方がマシだよなぁ!」

「ディラ!」

「そうです!王太子と結婚するくらいなら、先生と結婚する方がなんぼもマシです!!」

「カ、カリィ」


あたふたとするリリィーラの姿がまた笑いを誘い、翌日激しい筋肉痛が待ち受けていようとも光と魔女は笑いを止めなかった。









2 男三人悪巧みー失敗編



「で?結局、ミレ嬢と婚約するの?」


護衛として屋敷入り口で監視をしていたマクが、夜会でのやり取りを知りうるわけもなく。

今日はこのまま公爵家に泊まると言う王太子に付いて行けば、通い慣れた執務室。値の張る酒瓶にグラスが用意されており、このままここで会合か、とマクは肩を落とした。

やっと執務から解放されると思ったのに。

酒でも呑まねばやってられん、と公爵が粗っぽくグラスに酒を注ぎ、夜会での一件を聞いたマクは腹を抱えて大笑いした挙げ句、そのまま長椅子から落下した。


「お前の笑い上戸はどうにかならんか」


執務中に横で笑いを堪えられると努めて神妙にしているこちらまで笑いそうになるわ、と王太子は嘆息した。

一頻り笑い転げたマクはようやっと体制を整える。


「やーだって!その場に居たかったなぁ!!」

「あの魔女どもめ」

「あれらを敵に回したのは間違いだったな…リリィーラ嬢だけなら何とかなるが、姉上には勝てる気がせん」

「魔女様いいねぇ!嫁に欲しいよ」

「やらん」

「早いな…それまあ置いといて。で?婚約するの?」

「そうだな…本人にも懇願された」

「あのお嬢ちゃんなら、我も強いし、妬み嫉みにも強そうだよな。周りに良いように扱われたりもしないだろう。お前の横に立って支えるにはちと小さいが、教育しがいはありそうだよな」


あの娘たちが揃って会話しているのは可愛らしい。貴族の娘たちとは程遠く、どこか自分達に近いものがあった。

それを自分だけでなく王太子も、この冷ややかなばかりの公爵も、好ましく思っている。

ミレにカリィほどの度胸と頭脳はないが、その分人を惹き付ける魅力を持っている。あの人の良い伯爵ならば娘を政治に利用してやろうなんて野心もないだろう。その伯爵の周囲には気を配らねばならないか。

王太子が女としてのカリィに執着していたのならば問題だったが、彼はカリィという人間を気に入って執着していた。

人としての情があるのなら王太子はカリィを大事にするだろう。そう思っていたのだが。


「元を正せば、あの娘を余所に盗られぬようにという縁組みだったというのに」

「そっか!カリィが他の貴族連中に目を付けられたり、他国に連れてかれたりしないようにっていうのがあったの忘れてた」

「お前は…」

「あれはあの娘を見捨てはせんだろう。おれが娘を下手に扱えば、魔女どもが揃って牙を剥くだろうがな」


己の言葉に王太子は項垂れた。

全く。

自分の思い通りになど動かせそうにない、どうにも面倒な人間たちを飼わねばならんらしい。

面倒な。


三人は一気に酒を煽った。








3 父親の苦悩



何がどうなっている。

どういうことなんだ。


周囲で喚く人々の声など入ってこない。それはこちらが言いたい。

王太子に身を寄せて踊る娘を呆然と見ていたが、そっと袖を引かれたジジェス伯爵ははっとしてそちらを見遣った。

眉を寄せ怪訝にこちらを見上げるのは一番上の娘であった。何故この場にという疑問よりも、その顔を見てどこかほっとする。


「失礼致します」


それだけ言うのがやっとで、娘に手を引かれるままに喧騒から逃げ出した。

人を掻き分け庭に出るなり娘は声を上げる。


「どういう事ですのお父様!ミレが殿下と婚約するだなんて、わたくし聞いておりませんわ!!」

「それは私も聞きたいよ」

「お父様もご存知ないですって?!何の冗談ですの…」

「冗談であってくれたら良いんだけどな」


がくりと項垂れる父を見下ろしながら娘は室内へと視線をやった。

人の隙間から見えた妹は、頬を染めて王太子を見上げている。あの癇癪持ちの幼い妹が恋する乙女の眼差しで。


「あの子が幸せになれるならわたくしは口を挟みません」

「あれが王妃になる器か…無理に決まっている」

「あら、あの子はわたくしたちの誰よりも負けん気が強くて、誰よりも努力する子ですわ。素晴らしい淑女になりましてよ」


そうだと良いのだがな、と父親は項垂れたまま声を落とした。









4 保護者の苦悩



光の言葉と表情に、モールは血の気を無くした。


やってしまった!

城下での一件と、助けた娘にダンスを教えられているというのは聞いていたが、その娘を自分の替え玉として利用するとは!



王太子の妃、行く行くは王妃になる立場などくそくらえ!と口汚く喚いていた光が、このまま大人しくしているとは思っていなかったが他人を犠牲にするとは。


神よ、私の育て方が間違っていたのでしょうか。



モールはその場に跪かんばかりで神に助言を求めたが、気紛れにあの娘を落とした神が、そのような問いに答えてくれるわけがなかった。

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