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32/43

3ー8 三人寄って悪巧み(女子版)

いよいよ、明日に夜会を控えた光は仕上がってきたドレスに袖を通していた。

鎖骨まで開いた胸元はコルセットで押し上げられ、ささやかな膨らみと谷間が覗く。流石は玄人。

胸元から裾へと濃淡が濃くなっていく形は美しく、若い娘向きとは言えないが達観したような雰囲気を持つ光には良く似合っていた。

ぎゅっと絞られた腰の下からふわりと膨らんだスカート。レースにはきらきらと光る宝石らしい石がびっちりと縫い付けられており、掛かった値段は考えたくない。王太子か公爵が出したのだろうが、相当な無駄遣いだ。


仕立てた職人は公爵家所縁の令嬢を褒めちっぎったが、光は憮然とした表情を変えることはなかった。


「ドレスに着られてる」

「そんな事はありませんわ、とてもお似合いですお姉さま」


心酔する光に心からの賛辞を送ったのだが彼女はにこりともしない。

ここは男性に誉めてもらうの一番だが、今日は王太子に呼ばれ公爵は不在。居たとしても素直に褒めるとは思えないが。


「ミレのドレスは?もう用意してあるよね?」

「え?わたくしは招待されておりませんわ。こちらでお姉さまの着替えをお手伝いをさせて頂きます」

「はぁ?!何言ってるの!わたしの横に居てよ!絶対とちるってば!」

「そう申されましても…」


光の我が儘にミレは眉を寄せた。

ここに居るだけ奇跡のようだというのに、公爵家主催の夜会など参加出来るはずがない。


「でも、お父様は参加するでしょ?ミレを同伴してくれないの?」

「そのようなこと、わたくし聞いておりませんわ。お父様は公爵様とは親しくありませんし」

「最初の日から何度かここにいらっしゃってたよ?招待客名簿にも書いてあったし」


まあ、と驚いた後にミレは首を傾げた。

そう言えば最近、やけに豪奢なドレスを仕立てて貰った。ちょっと早いが姉の式のためかと思っていたが明日のためだったのかも知れない。


「最近お父様もお忙しいようでお顔を見ていませんわ。本当に招待されているのならお願いしてみます」

「絶対よ!絶対!!」

「分かりました」


希に垣間見える幼いところが光の愛らしさだと思う。ミレはにこりと笑んだ。









明日の打ち合わせにと公爵邸を訪れたリリィーラとディラを迎えたのは、むっつりと唇を曲げた光であった。

貴婦人ならばどんな場面でも笑顔を絶やさないものだが、この少女に常識は通用しない。自身の思うがままに行動する。

だが、何度か顔を会わせた少女はいつもにこやかで、女騎士と魔女に好意を抱いているのが明らであったというのに。

常とは違う光の様子に二人は顔を見合わせて首を捻った。


「随分と機嫌が悪いが…どうしたんだい?」

「どうもしません!今日も麗しいですねお二人とも!!」

「ありがとう」


にっこりと柔かく笑んだ女騎士に光はそれまでとは表情を一変させた。


あの日から公爵の顔を見る度に不機嫌を露にしていたが、彼は微かにも気にした風はなくそれが光の機嫌を更に下降させた。

たった一口のアルコールだったが、本当に記憶がないらしい。

正気であったら流石の公爵も途中で止めていただろう。性格が悪いのは間違いないがそこまで腐った人間ではない。


「君の淹れた茶を飲むのを楽しみに来たんだ」

「はい、これ土産ね」


相変わらず可憐な魔女に中性的な美貌の女騎士。揃えば某女性歌劇団の頂点に立つ男役と娘役も真っ青な豪奢さだ。

長椅子に座り自分が淹れた茶を楽しむ二人の姿を眺める。


「眼福だなぁ」

「何が?」

「この荒んだ屋敷において、お二人は正に癒しです」

「君自身もこのお茶も春の陽射しのようだよ」


何の詰まりもなくするりと零れた誉め言葉に光はうっとりとするどころか困ったように眉を寄せた。これが他の人間からの言葉ならば光もはいはいと流せたが、この女騎士はこれを本気で言っているのだから性質が悪い。

そこらの男など裸足で逃げ出す美貌と心根の美しい女騎士。こんな人が居たら男なんて現実必要ない。


「わたしリリィーラさんのお嫁に行きたいです」

「お嬢ちゃん、同性の婚姻は認められないよ」

「すまないね」

「や、謝らないで下さい。本気ではありませんよ」


魔女と女騎士の返答に光は肩を竦めた。


「ウォークとはこの時間に約束していたのだけど、相変わらず執務室に籠ってるのかい?」

「え?公爵なら王太子に呼ばれてお昼前に出て行かれましたよ」


てっきり光のお茶を飲みにきてくれたのだと思っていたのだが、公爵に会いにきたらしい。

ちょっとがっかり。


「あいつめ…私との約束を忘れているな」

「だから来なくて良いって言ったじゃないか」


どかりと足を組んでついでとばかりに腕も組む。魔女の女性らしからぬ態度に女騎士はその膝を叩いた。


「年頃の娘がそのような態度をとるなと!何度言えば分かるのだ!!」

「煩いなあ!子供を産む前からそんな姑みたいで大丈夫な訳?!コルト公爵に愛想つかされても知らないからね!」

「結構だ!元々あれと結婚するつもりはない!」

「あんた跡継ぎでしょ。そんな勝手が許される訳ないだろ」

「親戚から養子を貰うつもりだ!」

「公爵家が?!」

「まぁまぁまぁ落ち着いて」


興奮して言い合う二人の間に入った光がこっそりと嘆息した。

見目良い美女二人は痴話喧嘩のようにこういう言い合いを繰り返す。

お互い抜群の美貌を大したものとは思っておらず、女としての喜びより個としての喜びを求めているようだが、お互いにはそれを認めない。家庭に入って子供を産めというのがお互いの主張だ。

かなり間違っていると光は思う。

魔女はこの城に囲われ、モールの研究に興味を示し彼の屋敷に出入りしている。このままモールと同じく宮廷魔術師として居着くつもりだろうか。

女騎士は王の近衛として職を全うしたいらしい。

そんな二人は光にとって憧れのような存在だ。二人のように自分に正直に生きたい。


「お二人はドレス用意してるんですよね?」


どんなです?どんなです?とあからさまに話題を代えた。

年下の少女に気を使われた事に恥じた二人は小さく笑うと表情を変えた。


「ディラのドレス姿は圧巻だぞ!当日を楽しみにしていてくれ」

「わわわ!それは楽しみですね!!」

「おれは出たくない…」


普段は着飾るどころか簡素で機能的な服しか着らず、化粧一つしていない魔女が着飾ったらどれほどに美しいか。これはもう嫌なダンスも忘れるほど楽しみで仕方ない。


「ディラ様はどなたのご同伴なんです?」

「モールに着いてきてもらうつもりだけど」


年長者どころか王太子相手でも敬意ある態度を取っているのを見たことがない。傍若無人にもほどがある。

そういえばと魔女は顔をしかめた。


「君は王太子が同伴だろ?このままだと、婚約者として披露されちゃうぞ。それで良いのか?」

「そうだ!私も殿下とウォークの暴挙には心を痛めていたのだ!私からも話をしたのだがな、二人とも聞く耳を持たん」

「実はお二人に相談があるのです」


すっ、と表情を変えた光に二人は小さく喉を鳴らした。

魔女は面白そうに笑っている。


「何を企んでいる?」

「いやですわそんな、悪代官みたいな台詞」

「あくだいかん??」

「あー悪党ですね、悪党」

「何でも良いよ。あいつらの思う通りになるのは、おれも我慢ならない」

「協力して下さるんですね?」


三人は顔を見合わせてにたりと笑んだ。

正に悪代官だ、と光は声を上げて笑うところであった。

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