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3ー4 ダンスはお預け

話は少しだけ遡ります。

光とミレが去った室内で行われていた会話。


お預けどころか、ダンス練習も始まっていません。

騒がしい娘たちが出て行くと、公爵と父親は同時に溜め息を吐き出した。


「騒がしい娘で申し訳ございません」

「いや、うちのアレも、礼儀を知らぬ娘で」

「お互いに苦労しますね」


苦笑いを落とす。微かに浮かんだ皺に、ジジェスが自分の父親ほどの年齢なのだと実感した。

柔らかい物腰に年齢を重ねた事で落ち着いたように見える美貌は人好きするものだ。王太子とあの娘たちが起こした騒ぎでジジェス家を調べる事となったが、領地の民にも慕われているようで彼らには暗い点は見つからなかった。

だが、末の娘以上に突拍子ないのがジジェス夫人。王宮でも話題となった伯爵夫人がジジェス夫人と同一であったことに、公爵はどこか納得していた。

なるほどな娘である。


「こういう物言いをするものではないと思いますが、奥方も風変わりな方のようですね」


公爵の言葉に僅かに眉を寄せたジジェスは、そのまま肩を竦めて首を振った。


「全てお調べかと思いますが、あれはまあ、型に嵌まらないというか嵌められないといいますか…」


暫く視線をさ迷わせた後にジジェスは口を開いた。唐突に突き付けられた冷えた空気に公爵も目を細める。


「本日は、もう一つお話がございます。お時間を頂戴しても宜しいでしょうか」

「ええ」


公爵が頷くしか出来ないような空気の中、ジジェスは覚悟を決めたように頷いてから茶で喉を潤す。たっぷりの間を置いて口を開いた。


「妻の名義で商会を興しているのはご存知でしょうが、その全てを取り仕切っておりますのも妻だというのも」

「ええ、眉唾ものの噂だと思っておりましたが、まさか交渉や買い付けまでご自身でとは思いもしませんでした」

「あれの母親が商家の出ということもあり、将来何があっても良いようにと仕事を教え込まれたらしいのですが、まさか我が家の縁をそれに使う事になるとは…」


深々と落ちた息にはその深さと同じほどの切なさがある。


ジジェス伯爵家は、末の娘が五つを越えた年に商会を興した。出資ならばどこにでもある話だが、伯爵夫人を責任者とした商会などこの国では聞いたことがない。

すらりとした華のある容姿に加え夫人はとても社交的で、貴族同士の縁は当然のものとして屋敷に出入りする商人たちにも顔が広い。奥様方にご紹介したい商品を私自身でお譲りしたいの!と熱く説得されれば伯爵は首を縦に振るしかなかった。

ジジェス夫人が望んだ通り、当初扱う品は衣服類や貴金属など贅沢品が主だったが、それが何時しかワインやそれに合う食品、果ては貴族御用達の品で市民にも手が届くものを市民向けに売り出したりと、今では其処らの商会以上に手広く扱っている。

商会本部が自宅より立派だというのは周知の事実で、ジジェス伯爵としての収入よりもジジェス商会としての収入が多いというのは、流石の伯爵も頭が痛かった。


「商会の仕事に、私はほぼ口出しも援助もしておりません。稀に、性質の悪いお相手にあなたの名前とお立場を利用させて頂きました、と言われるくらなものです」


事後報告というのがなんとも、だ。

公爵はその小気味良い夫人にかの娘たちを重ねくつりと笑んだ。


「なかなかに」

「その妻から珍しく相談を受けましたのが昨日のことです。娘たちが殿下にお助け頂いたと話したところ、何とかして殿下にお会いできないかと」


公爵にすら縁も持たない自分にそんな事が許されるはずがないと、温厚な伯爵も声を荒らげた。

古くから続く伯爵家にも王からの寵愛を受けていた時期があったらしいが、それも何代も前の話。国同士が荒れていた頃に腕の立つ跡取り息子が手柄を挙げ、王族に近い姫君を妻として得たとか。現在のジジェス家にとってはお伽噺だ。


「何故に奥方はそのような無茶を申し上げたのです」

「公爵は、銀山に纏わる話をご存知ですか」


唐突な問いに公爵は目を見開いた。表情が乏しいと言われる彼が見せたそれにジジェスは満足行ったようにゆっくりと頷く。


「妻は、彼らから奇妙な注文を受け、そうして困り果てております」

「彼らが山を降りたと言うのか」


その問いにジジェスは首を横に振った。上の娘より年下の公爵は、これまで柔らかい態度でこちらに接していた。

身分は比べるまでもなく公爵が上で、だが、彼の態度は年長者としてのジジェスを立てるべく柔らかい。その態度を一変させたことがジジェスに重く乗し掛かる。

それほどに重い、国の中枢に関わってしまった。


「妻に接触してきたのは彼らの息子でした。肝心な事は言わず、これこれこのような品物なのですが、貴族である貴女ならば扱うこともあるのではないでしょうか、と。だが、彼らが求めるような物は見たこともない。一体どのような用途なのか、誰が使うのだと妻が問うたところ、息子はぽろりとやはりこの世界では手に入らぬかと申したそうです」


公爵は頭を抱えた。外と接触を取るなとは言わぬが、余計な事を話すなと怒鳴りつけてやりたい。


「その意味を問うと、自分の父親たちはこの国の人間ではなかったからそのような言い回しをしたと説明し、これは他言無用だが、亡命をしたのだと。妻もそれ以上の深い話は身の危険を感じたようで詳しく聞かなかったらしいのですが、私は父親たちというのが国境を渡ってきたのだと解釈しました」

「まあ、そのようなものだ」


異世界から渡ってきたと言ったところでそう簡単に信じられるものではない。 国が隠した亡命者だと納得するならそれでいい。ジジェスにとっては大差はないはずだ。


「その息子が言うには…これを手に入れないと我が国が危ないのだと」

「ジジェス伯爵、よくぞここまでいらっしゃった。礼を言う」


申し訳ないが、至急殿下にお会い頂こう。


公爵の言葉に悲鳴を上げなかったジジェスを、妻は後に褒め称えた。

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