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2−7 王太子が現れた!光は秘密を知った!

 この国は王太子に似てのんびりしているらしい。上に立つ人間がああだと国民性もそうなるのか。光は一人頷いた。

 朝食の時間はとっくに終わったはずだが、辺りの人影は少ない。日本なら通勤ラッシュも過ぎた時間だ。もう暫く歩くと商店が見えてくるが、貴族の屋敷が並ぶこの辺りはまだひっそりとしている。

 慌ただしく通り過ぎるのは配達員や屋敷の使用人たちで、高貴な人というのは朝が遅いらしい。


 贅沢な御身分だこと、とごちた光は腕組みをして考え込んだ。目的の店が開くまで後少し。

 せっかく早起きして出て来た自分の目的が果たされない。どうしたものか。


「お前は何をしているのだ」

「ひぎゃ!」


 背後から掛けられた声に光は悲鳴を上げた。


「なんて声を出す」

「いやだって!全然気付かなかった!どうしてでん?!」

「ライ」


 殿下と呼ぼうとした口をごつごつとした手で塞がれると、男はそう呼べと強く言い付けた。反抗する理由もない。

 光が素直に頷くと、王太子はゆっくりと手を離した。


「何故、こんな所に」

「それはこちらの台詞だ。お前は城から出て何をしている」

「先生のおつかいですよ。それよりで…ライ?は何をしてるんですか」


 厭味を込めて、呼べと言った名を疑問気味に言う。それに気付きながらも王太子はにやりと笑んだ。


「お前が屋敷から出るのが見えたからな。ウォークの屋敷とは違う方向に歩いていくから何処に行くかと思ったのだ」

「な、なんで?」

「モールの屋敷は俺の部屋から見える」

「視力凄いですね…」


 ストーカーか、という言葉は何となく飲み込む。お前なぞ誰が付け回すか、と例の冷血補佐官なら良いかねないが、この男ではどうだろうか。

 とりあえず、面倒なことは考えないことにした。


「少しは自分の立場を弁えろ」

「え?」

「お前になにかあれば、また面倒な嫁選びが待っているんだ」

「その作業は続けるべきだと主張します」

「俺の嫁御はおかしなことを言うのだな。我が国は側室は認めておらんぞ」

「だ・れ・が!おまえの嫁だ!」

「お前以外に誰がいるんだ?」


 ぬおおお、と呻き声を上げて頭を抱えた。こういう奴なんて言うんだっけ。暖簾に腕押し?馬の耳に念仏?いや、念仏は意味が変わってくるのか?

 そんな疑問を一人ぐるぐると巡らせている少女を見下ろし、王太子はくつくつと肩を揺らした。この少女の反応は本当に面白い。


「あ」


 唐突に顔を上げた少女は、魔女に会いましたよ、と声を潜めた。


「ほぉ」

「すんごい美少女ですよね。本人は無理だって言ってたけど、ああいう子こそ王妃に相応しいと思うんですよ」

「あの人に王妃は無理だな」

「ま…ディラも言ってたけど」

「……ああ見えてあの人は俺より年上だ」

「…え?」

「今度二十一になるそうだ」


 こちらの世界は時の流れが違ったかと首を傾げたが、一日は二十六時間と長めで一年は三百三十三日。

 元の世界とはほとんど差がないはずだ。


「う、うそだ!わたしより年下だとばかり」

「俺も今だに半信半疑だ」


 あれが自分の兄弟だというのは疑わないが、年上とは認めたくない。

 嘘だぁ、と呟き続ける少女の耳元で、ついでだとばかりに秘密を一つ打ち明けた。


「あれは腹違いの姉でな。王妃にはなれない」


 呆然と見上げる少女の頭をくしゃりとやって、王位を奪ってくれたら俺も楽なのだがな、と冗談にならない冗談を零す。

 少女がほうけていたのは一瞬で、直ぐに険しい表情を作ると唇を尖らせた。


「冷血補佐官殿に怒られますよ」

「だろうな」

「ついでにわたしも厭味言われるんでしょ…」


 あーやだやだ。ねちねちと厭味を言う男の姿が簡単に思い浮かぶ。目の前の男はそれを飄々と受け流すのだろうが、光にはそう簡単な事ではない。

 あの、人の神経を逆なでする技術は中々のものだ。無駄な美貌の次くらいに。


「嫌!離しなさいよ!」

「まあまあ落ち着いて」

「気持ち悪いのよっ!手を離しなさいっ」


 男女の縺れる会話に二人は顔を見合わせた。閑静な空気を震わせるそれはまだ続いている。


「何事でしょう」

「面倒には関わりたくないのだがな」


 ぼりぼりと頭を掻いて、気怠そうに言いながらも声のした方へと歩き出す。光もその後を追いながら会話を聞き取ろうと耳をすませた。


「あたしは貴方の妾になる訳じゃないわ!」

「な、なにを言ってるんだ」

「貴方の屋敷に入った娘がどうなるかなんて、子供だって知ってるわ」


 気位の高そうな甲高い声。張りがあってよく通る。対称的におどおどとした男の声は小さく掠れていた。


「私の申し出を断れば、家がどうなるか。分かっていないようだね?」

「悪代官か…」


 最低、という呟きと共に隣に居る男を見上げる。

 この場合、彼が助けに入れば白い髭の老人になるのだろうか。桜吹雪の御奉行か、暴れん坊の将軍様、というのもありか。



 この時、彼女の頭には時代劇の名場面ばかりが展開されていた。隣にいる王太子は本物の王子様であって将軍やお奉行ではない。

 残念ながら光の思考には、一般女子が思い浮かべるはずの白馬の王子様という像は微かにも現れなかった。

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