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2−6 門番が現れた!ただの門番のようだ

 光が魔女と出会う二日前。魔女は腹違いの弟である王太子とその補佐官と対面していた。


 魔女を田舎から連れ出した女騎士は同席していない。彼女は産まれた時から王宮の中枢に居たというのに噂話や陰口などに疎く、二十年前に存在した魔女のことすら知らなかったという。


 そんな女騎士が知っているはずがない。魔女が国王の隠し子だなど。


 真実を知る人間は少ない方がいいと言ったのは、冷酷そうという印象しか受けない無駄に綺麗な男。王太子の補佐官であり、女騎士の婚約者。

 自分の婚約者をあれは嘘も付けない女ですからね、と言い切った男。


 気に入らない。

 魔女は弟である王太子より補佐官に鋭い視線を寄越したが、男はなんの反応も見せなかった。益々気に入らない。



 むっつりと、どこか不服そうに頬を膨らませた彼女は報告通りの美少女で、王太子はふむ、と腕を組んで彼女を上から下まで確認して口を開く。


「全く似ていないな。そもそも成人しているとは思えんのだが」

「失礼だね。これでも二十歳なんだけど?」


 お互いに冷ややかな態度の姉弟。感動の対面とは程遠い。


 先に面会した宰相は、二十年前の魔女が舞い戻ったのではないかと錯覚したと身を震わせていた。あまりに似た容姿だったが、二十年前の魔女は笑顔の絶えない柔らかな人だったらしい。つんとした空気の美少女とはそこが違うとか。


 なるほど、これが父親が愛した魔女か。

 王太子はにやりと笑んで問い掛けた。


「この国を継ぐ気はおありか」


 何の捻りも裏もない直球の質問に魔女は、可憐な容姿に似合わぬ笑みをくつりと浮かべて冗談でしょ、と肩を竦めた。


「国王が認めたとしても、何の証拠もない、素性の知れないおれを王に据える馬鹿がどこに居るの」

「そういう考えを持てる方なら問題ないと俺は思いますけどね」


 顔を見合わせ笑う二人を溜息混じりに眺めていたウォークは、どうしようもない所が似た兄弟だと眉を寄せた。


「それで。父上にはお会い頂けるのか?」

「別にいいけど。会った途端、おれに跡を継がせるとか言い出さない?」

「男系の跡継ぎである俺が居る間は、そんな事は言わんと思いますが」

「あーそっか。うーん」


 魔女は顎に手を当て俯いた。緑掛かった淡い青が揺らめいたと思った瞬間、彼女は勢いよく顔を上げる。


「これから話す事、他言無用にしてくれる?」


 勿論、国王にも。

 そう言った魔女の空気は無意識に二人を頷かせるだけの力があった。

 これ以上の面倒を回避する為にも、彼女が落胤であるとは認めたくなかった。だが、王族の血が流れているのだと納得せざるおえない力にウォークは息を吐く。


 母親の生き写しと言われた容姿の中、人を従わせる力を持った双眸だけは国王によく似ていた。









 城門を護る若い兵士が笑顔で許可証を寄越してきた。愛嬌のある日焼けた顔には同年代の親しみと気安さがある。光も同じように笑み返し、それを受け取ってからありがとうと礼を述べた。


「おつかい?」

「はい。モール先生の研究材料を購入に行きます」


 斜めに掛けた麻袋に許可証をしまい込みながら答えると、気をつけてねと返ってきた。


「いってきます」


 城門を潜り、まんまと鬼教官から逃げ出した光はにんまりと笑んだ。


 その姿を見咎めた男がその後を追ったとも知らずに。








 衝撃の出会いの翌日、城下街にある雑貨店から手紙が届いた。

 モール御用達のその店は、一応は雑貨店と主張しているが日本で(この国であっても)言うところの雑貨店とは随分違う。陳列している商品は一般市民には不要なものばかりで、光は二度訪れたがそのどちらもモール以外の客は見当たらなかった。

 ずらりと並ぶのは分厚い書籍に中身が分からないほど白く曇った硝子ビン。陳列商品のどれが発しているのか、すえた臭いの漂う店内。

 魔術師御用達というよりは魔術師(モール)専門店なのではないかと思ったほどだ。


 店からの手紙に眉を寄せ、唸り声を上げていたモールが腰を上げた。


「先生どうしました?」

「いや、明日頼んでいた本と資料が店に届くらしいのだが、店主がギックリ腰で配達出来んらしくてな」

「受け取りに行けばいいじゃないですか」

「それがなぁ。明日は呼び出しが掛かっているのだよ」


 じゃあ明後日まで待てば良い、という言葉はそっと飲み込んだ。

 ゲームの発売日に店の前でそわそわと待っている子供のようなモールの様子には無駄な言葉だと思ったのである。

 店が開いた瞬間に駆け込んで行く気だ。


「じゃあわたしが行きますよ」

「いや」

「お店の場所もばっちり覚えてますし、大事な物だとちゃんと分かってますよ。

 朝に出れば、先生が帰る前に戻って来れます」


 大事な研究材料と一緒にね。


 この屋敷に仕える人々は御主人様の「大事な物」の区別が付かない。床に放ってある紙の中には重要な閃きが走り書きされていたりするのだが、侍女たちは全く気付かずに処分する。それは一度や二度ではない。

 自業自得でもあるので行き場のない怒りは消化出来ず、御主人様の書斎は清掃禁止となった。本人不在時には立ち入りも禁止されている。


「しかし、カリイは行儀見習いに…」

「一日くらい大丈夫でしょう?先生のおつかいなら、鬼教官も許してくれます」

「うむ…そう、だなぁ」


 こくりと頷くモール。光はこっそりと拳を握った。

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