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18/43

2−5 魔女が現れた!光は興奮した!

「美味い!」

「へぇえ」


 光が煎れた茶を一口含み、二人は感嘆の声を上げた。

 その反応にほっとした光は二人の前に腰を下ろす。モールや屋敷の人間、例のぐだぐだトリオは気に入ってくれたが、高貴な女性に対して煎れるのは初めてだった。

 はふう、と息を吐いてから相当緊張していたことに気付く。


「全く別物のようで、風味はちゃんと残っている。ふうん…」


 天使はカップに残った液体をじっと観察し、ぺろりと唇を舐めた。その仕種が妙に艶を含んでおりどきりとさせられる。


「君、どこの産まれ?」


 この国ではないんでしょ、と確信を持って言われて先程とは違う種類の胸の鼓動を感じた。


 天使と女騎士には、知り合いであるモールを頼って田舎から出てきたとしか説明していないのに。


「えっと…発音とかおかしいですか?」

「ううん。言葉に違和感は感じないね。ただ、お茶が苦いからってココを入れたりする国民は居ないから」

「戦中は滋養強壮で飲んだりするがな。まず、一般的には出回らない」

「そんなに高価なものなのかぁ…」

「いいや。この城では割と簡単に手に入るよ」


 首を振った天使が一冊の古びた書籍を取り出した。それを光に押しやる。


「ギイは魔女が呪いに使うもの。魔女のしもべや神の遣い。それが世間一般の認識。ギイやココを手に出来るのは高貴な人だけってこと」


 (ギイ)を引くきらびやかな衣装を纏った女性の絵。それがどうやら魔女らしく、ほおおと声を上げた光は身を乗り出した。黒一色を身に纏った鷲鼻の老婆、という魔女像とは全く違う。図書館で魔女を描いた絵本を何冊か読んだが、確かにお姫様か、と突っ込みたくなるドレスを着ていた。

 どこか神々しささえ感じるその絵に光は興奮した。


「図書館でもこんな本見ませんでしたよ」


 うわぁすげぇ、と日本語で呟く光に、天使はふふんと胸を張った。

 あ、成長途中の残念な胸は、自分と変わらない。むしろ、自分が勝ったかも知れない。


「代々、魔女に伝わるものだからね」

「へぇえ。通りで…って?」


 その希少性に納得し、そうして、気付く。今の言葉を反芻してぱくぱくと口を開閉する。


 天使を指して唇を震わせた。


「魔女?」

「そ」


 軽く頷いた天使は指をぱちんと鳴らした。途端、彼女の華奢な指先に生まれる橙の炎。


「自然と精霊の力を借りれる、本物の魔女」

「うぉおおおお!?」


 光が上げた悲鳴に二人はびくりと身体を震わせ、帰宅したばかりのモールと、その供で出ていた執事頭は顔を見合わせて息を吐いた。


 我が家の問題児がまた何かやらかしておるぞ、と。




 悲鳴が聞こえてきた客間に向かいながらモールは嘆息した。宰相からの呼び出しに応えてきたのだが、そこには王太子と補佐官も同席しており、商家の出であるモールにはいたたまれない空気であった。だが、呼び出しの内容は心躍るものである。

 魔女が戻ってくる。


 客間の扉を二度叩いてそれを開いた。


「何を騒いでいるんだ」

「せ、先生!先生!!」


 ひどく興奮した光に落ち着きなさいとこぼし、そこに見慣れぬ姿を二つ発見する。


「お邪魔しております」

「ドナウ公爵殿…」


 数年前、十代という若さで爵位を継いだ美しい女騎士とは何度か顔を合わせたがその程度だ。屋敷に押しかけられる覚えはない。

 何の御用でしょうかと開いた口を、モールはむぐりと閉じてすぐに悲鳴じみた声を上げた。


「ローズ先生?!」


 モールがあまりに口を開くものだから、顎が外れたのではないかと光は不安げに彼を見遣った。

 全く言葉の通じない不信窮まりない自分が現れた時にも動じていなかったらしいモールが、これほど驚愕する理由は天使が炎を操っているからではない。天使を知り合いと間違えていると見れば分かる。


「あー違う違う」


 天使は首を振ってから炎を消した。小作りな顔をゆっくりと傾けて唇を尖らせる。


「ローズは母親」

「では!あなたが先生の力を継いだ魔女か!」

「そう。あなたは母の御弟子さん?そんな話し聞いたことないけど」

「弟子というよりは勝手に付いて回っていたというか…」


 モールは気まずそうに頬を掻いた。


「ストーカー?」

「なにそれ」

「ああ、いえすみません気にしないでください」


 話の腰を折ってすみませんでした、と光が頭を下げると、何故だか麗人がにこりと笑んでいる。

 万人を魅了する笑みだ。何故こんな美人があの冷血補佐官の婚約者なのだろう。やはり弱みを握られていたり、政略結婚だったりするのか。

 そもそも、何かの間違いではないだろうか。


「君は素直で可愛いね」

「うはぁっ!」


 胸を押さえて身を縮めた光は、呪術のように声を紡いだ。

 自分の身を、心を護るため。


「そんな趣味じゃない…そんな…わたしはノーマル…わたしはノーマル…」


 初恋を女性に奪われるだなんて、あってはならない。



 ありえないから!

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