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絶望と希望

最強のメイド長のお話です。

今思えば、私はなんでこの世界に生まれたのだろうか?かつて魔王が現れこの世界は危機にさらされた。あちこちに魔物が現れ全ての人間はただ、死を待つしかなかった。そんな時、勇者が現れこの世界を救った。その勇者は飛び抜けた剣術と魔法と呼ばれる当時は勇者にしか扱えなかった力を使い魔物の集団を一掃し、魔王さえ倒して見せた。しかし勇者は全ての魔物を封じる儀式を妨害し、魔物は世界に解き放たれた。それにより勇者は裏切りの勇者として、歴史に名を刻むことになった。そして人々は魔物と対抗するために勇者の魔法を解析し、自分たちのものにした。そしてその力の強大さ故に魔物に脅かされる世界で権力を巡る争いを起こしていった。それがこのクソみたいな世界。

 広大な荒野を彷徨いながら、私はそんなことを考えていた。振り返ってみれば私の人生には碌なことがなかった。生まれた時から私には魔力がなかった。この世界で魔法が使えない人間に価値はない私はすぐに実の親に奴隷として売られた。私はアルス王国の男爵家に戦争奴隷として二束三文で買われた。それからは男爵家の命令のままにあちこちの戦場に立った。その度に私は執念でなんとか生き抜いた。いつか奴隷の身分から脱却できると信じて。そして私は成人する16歳まで生き抜くことができた。だが、今度こそはどうすることもできなかった。私は戦場の最前線で囮として置き去りされた。最前線で一人で生き残ることは不可能だ。私の目からは少し涙がこぼれた。どれだけ頑張っても結局奴隷は奴隷でしかなかったのだ。私は失意の中で頭なく彷徨い歩いた。

 どれだけ歩いたのだろうか、もうよくわからないそんな時、不意に私に話しかけてくるものがいた。

「そこのお前、敵軍の奴隷兵だな。」

振り返るとそこには豪華な装飾が施された鎧をつけた馬に乗った明らかに貴族であろう男が立っていた。

「そうだけど、それがどうした?」

「そうか、ごめんけど殺すよ。」

男はそういうと素早く魔法を展開した。そして容赦なく魔法を放った。全てを切り裂く風の刃が私に向かってける。きっと私はすぐに体を真っ二つにされて死ぬのだろう。そう思うと私の中から沸々と怒りの感情が湧き上がってきた。なぜ私が殺されなければならないのだろう?別に私はただ生きたかっただけ。そう思った時に私はこの悪魔のような力を使うことに決めた。

バチンッ!

「!?」

男がとても驚いた表情をする。それもそのはず私が少し手を振っただけで男のはなった風の刃が霧散したのだ。男は想定外の出来事だったが、すぐに体制を立て直し剣を抜いて臨戦体制をとった。そのまま男は先ほどの風の刃をさらに3つ放ってきた。

「バカな!」

しかし私が少し手を振るだけで全て霧散していく。男は驚きながらもすぐに遠距離魔法は通じないと理解し、馬の鎧や自分の剣に付与魔法をかけ始めた。しかし、本来、遠距離魔法使いと戦う時は魔法を放つ前に近づくのが基本だから私は男が魔法を唱えている隙に一気に飛んで距離を詰めた。その速度は並の人間に認識できるものではない。男は急に私が目の前に現れたことで付与魔法の構築が途切れた。私は容赦なく拳を男に叩きつけようとした。しかし、男の乗っていた馬が急に二本足で立ちヒヒーンと威嚇した。主人を守るために自分が拳を受け止めるつもりらしい。しかし、その程度で受け止められるほど私の拳は軽くはない。私は馬の鎧ごと拳を叩きつけた。

ドゴーン!

「ヒヒーン!」

私の拳を受け止めた馬は男ごと一気に後方に吹き飛んだ。馬は五メートルほど吹き飛んで泡を吹いて気絶した。馬が身につけている鎧は殴られた部分が歪んでいた。

「お前は・・・何者だ。」

馬から振り落とされて倒れていた男が私に話しかけてきた。私は無言で歩き出す。男はそれに反応して高速で魔法を放ってくる。さっきの魔法とは比べ物にならない威力と種類の魔法が飛んでくる。先ほどの風の刃だけでなく足元から巻き上がる竜巻の檻に凄まじい威力を誇る突風、しかしそのことごとくが私が手を振るだけで霧散してしまう。だが、男も魔法を放ちながら剣に魔法を付与していたらしく剣を構えると一気に上へと跳んだ。すると、男が剣を振り下ろすと同時に凄まじい威力の竜巻が剣から伸びてきた。あの攻撃を受ければ体が粉微塵になってしまうだろう。私はその攻撃に対して身体を捻り思いっきり拳を突き上げた。すると竜巻は霧散し凄まじい拳圧によって生み出された暴風が男を吹き飛ばした。男はまた魔法を放とうとするが私は一気に距離を詰め男の首に手刀を突きつけた。私が少し手を動かせば男の首をへし折ることができる。男は、自らの負けを理解し、口を開いた。

「殺せ、私にお前を倒すことはできない、降参だ。」

そういうと、男は剣から手を地面に置き両手を上げた。そして、ただ私に殺されるのを待っている。しかし、私は手を下ろし背を向けて歩き出した。その光景に男はとても驚いて声を上げた。

「なぜ私を殺さない?私を殺して戻ればお前は英雄と称賛されるであろうに。」

そういう男に向かって私は離し始めた。

「私は死にたくなかったから戦っただけ、別にあなたを殺す気なんてないですよ。それに、あなたを殺して、たとえここから生きて帰れたとしても私が英雄と称賛されることはありません。奴隷はどこまでいっても奴隷でしかないんですから。」

私がそう言ったその瞬間だった。

「ウッ!」

私は激しい頭痛に襲われた。男が何か言っている気がするが今は何も聞こえない。しかし、いきなり私の頭の中に直接語りかけるような声が聞こえた。

(やっと・・・と、どいた)

謎の声がそう言った瞬間、私の意識は闇に落ちた。

 一体何が起こっている。私はマルク王国の伯爵家であるクラリス家当主レオン・クラリスという。私の家は代々国に使える騎士の家系であった。私は当主となり始めて兵を率いる大将としてこの戦場に来た。我が軍は圧倒的な力で敵軍を追い込んでいった。私自らも戦場に立ち戦っていた。そこでボロボロの衣服を見にまとった敵軍の奴隷兵を見つけて戦った。その結果はなんと惨敗だった。彼女は私の魔法をことごとく打ち破りその圧倒的な破壊力で私の愛馬のハーフを吹き飛ばし、私をも倒してしまった。そのくせ彼女には私を殺す気がないという、彼女の言っていることは私からしてみれば全く意味のわからないことだった。しかし、そんな彼女がいきなり頭を抱えて苦しみ出したと思ったらいきなり彼女の体からドス黒いオーラのようなものが吹き出した。よく見ると彼女の美しい水色の髪は光を全て飲み込むほどの黒というよりは闇のような色に変色した。彼女はその姿でゆっくりと歩き始めた。

「やっと・・・と、どいた」

彼女はか細い声でそんなことを呟いていた。私は直感した。彼女がこのまま我が軍と戦えば確実に壊滅すると察した。それに、彼女の目は恨み言をいいならも、どこか寂しそうだった。きっと私には理解できないような辛い経験を多くしてきたのだろう。そして、私は立ち上がり、彼女のまとうオーラの中へ突っ込んでいった。その時の私は彼女を救わなければならないという感情よりも彼女が欲しいという感情に支配されていたように感じる。

 私は今どうなっているのだろう。謎の声がしたと思ったらいつの間にか真っ暗な空間に私はいた。その空間は今までもそしてこれからも一切の救いのない私の人生を表しているように感じられて、とにかく居心地が悪い。私はこの場に座り込んで、このまま何も考えずに塞ぎ込んでしまおうと思った。私がそう思った瞬間目の前に一筋の光があることに気がついた。私は必死にその光に手を伸ばした。そしてその光を掴んだ。気付けば元いた場所に立っていた。そして誰かに腕を掴まれていることに気づいた。私の腕を掴んでいたのはなんとあの男だった。私が訳が分からず困惑していると男が口を開いた。

「君を奴隷の身分から解放し我がクラリス家のメイドとして雇い入れたい!」

男がそう入った瞬間、私の体から出ていた黒いもやが全て吹き飛んだ。今まで気づかなかったが髪も黒に変色していたようで髪の色も元に戻った。そんなことよりも、きっと私はこの男を疑うべきなのだろう。しかし、私の中で理屈よりも感情が勝ってしまい、私は承諾してしまった。

「はいっ!喜んで、ご主人様!」

今までは碌な人生ではなかったけれどもしかしたらこの人の元なら幸せになれるかもしれない。そう思うと私の目からは涙がこぼれていた。

読んでいただきありがとうございました。

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