お盆旅行 【月夜譚No.416】
掲載日:2026/08/23
お土産に匂い袋を買った。淡い桃色を基調に白の花が散ったデザインは可愛らしく、一目惚れしたのだ。
帰宅してから早速取り出して、目の前に掲げる。仄かな香りは甘く、彼女はそれを嗅ぎながら友人との旅の思い出を振り返った。
久し振りの友人との旅行はそれは楽しく、観光先は勿論、新幹線の中でも話題が尽きなかった。ここ数年会えていなかった時間を埋めるように、沢山話した。
お盆休み中ということもあって、どこもかしこも混んでいたが、友人と一緒にいればそんなことは些末だ。終始笑顔の絶えない旅行だった。
ノックの音がして返事をすると、部屋に母親が入ってくる。母はアイスコーヒーのグラスをテーブルに置いて、にっこりと笑った。
「旅行、楽しかった?」
「うん! 久し振りだったからね。うんと羽を伸ばしてきたよ」
「一人で旅行なんて心配だったけど、楽しめたなら良かったわ」
匂い袋の香りが鼻の奥につんと刺さる。
数年前の夏の盛り。事故の報せを聞いた時の血の気が引いた感覚は、今も生々しく残っている。
匂い袋の匂いは、あの日の線香のものに似ている。
スマートフォンのフォルダにある旅行の写真には、隣の空間を不自然に空けた彼女の笑顔が写っていた。




