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煩悶聖女  作者: ういろー


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第4話


案内された部屋は、思っていたよりずっと広かった。重厚な扉、厚い絨毯、大きな窓から王城の庭が見える。


部屋に案内された後、案内役の騎士はすぐに下がっていった。


厄介者とはいえここで暮らせるのは有難い。


壁には淡い色の装飾が施されていて、家具もすべて整えられていた。孤児院とは世界が違う。


私は部屋の中央で立ち止まる。


「すごいな」


思わず呟く。


「エリシアは気に入った?」


「これで震えることは無くなったのは間違いないね」


「そうだね、...ごめんねエリシア。私が無理やり連れてきちゃったから...」


セラフィナは少しだけ俯いた。


泣き虫で、寂しがりで、放っておけない子。


「あんたが泣かずに笑って聖女やってる姿見てみたいなって思ったんだよね。幸せに笑って、恋するのもいい、素敵な旦那さんの隣で笑って、そんでそれを見てみたいって思っちゃった」


なんか母親みたいな言い方だな、もうちょい違う言い方あっただろ、と一人ツッコミを入れる。


「エリシア。私ね、聖女になる。でも聖女になるのはエリシアを守りたいから。エリシアが暮らすこの国を守るの」


「私の存在デカ過ぎない?」


「それ前も言ってた!」


セラフィナは少しだけ頬が膨らんでいる。まるで子供のように、拗ねて、赤くなって。


「私もセラフィナの事好きだよ。だからあんなふうに王子に言わなくたって良いんだよ。イケメンに睨まれても逆に役得というかさ」


「えっ...セラフィナって王子様の事が好きなの?」


「はぁ!?んなわけ。そうじゃなくてさ私の事を思ってあんたが身を削る様な事するなって事よ」


「どうして?」


「.....あんたは私のことを守る守るって言うけどさ、あんたが安全地帯に居ないと私が嫌なんだよ。私には聖女サマの力になれる事なんかひとつも無いのに」


少しだけ言葉が詰まる。


「エリシア、私ね...本当にエリシアが好き」


知ってるよ、と答えようとしたその時だった。


コンコン、と扉が叩かれた。部屋の空気が少しだけ変わる。外から声がした。


「失礼します」


低く落ち着いた声。


入ってきたのは、一人の騎士だった。王子よりも背の高い男、短く整えられた黒髪に灰色の目。鎧がよく似合う体格。


騎士は部屋の中央で片膝をついた。


「聖女様」


落ち着いた声だった。


「お初にお目にかかります」


そして顔を上げる。


「ヴァレリオ・クロードと申します。本日より聖女様の護衛を務めます」


ああ、私は内心で思う。


……攻略対象だ。ゲームの記憶がぼんやり浮かぶ。


ヴァレリオは立ち上がるとその視線が、私に向く。


「そちらの方は」


落ち着いた声。


セラフィナがすぐに言う。


「エリシアです。王子様にも言いましたが私はエリシアが傍にいないと聖女として力を使いません」


私の手を握ったまま続ける。


「失礼しました。不躾に見てしまいました。聖女様の傍にいらっしゃる方であれば、私の力の及ぶ限りお守りいたします」


隣で、セラフィナの手の力が少しだけ緩んだ。ちらっと見ると、セラフィナがヴァレリオを見ている。


少し安心したような顔。


ヴァレリオも少し驚いたように笑った。


「では部屋を出られる際はいつでもお呼びください」


それだけのやり取りだった。


騎士、ヴァレリオ・クロードは静かに退室した。


扉が閉まると部屋はまた静かになった。


王城って疲れるなぁ。まぁセラフィナと共にいるんだからこのくらいで疲れてちゃダメだよなぁ。


「そもそもそんな危険なのかねぇ」


「え?」


セラフィナは原作と違いやたらに安全を気にするが、孤児院の方が余程危険だったのではないかと思う。


「どちらかといえば安全な所にいるんじゃないの?」


どう考えても孤児院より守られている。


私は肩をすくめた。


「孤児院なんて夜中に酔っ払いが入ってくるし、食べ物だって取り合いだったし?」


私は続ける。


「まあ確かに貴族社会は面倒くさいだろうけどさ、命の危険って意味なら、孤児院の方が上じゃない?」


セラフィナは何も言わない。


指が、ぎゅっと服を握る。


孤児院が安全じゃない理由はなんだろう?でも王城でも身の安全を優先した理由も分からない。それなら連れていく理由も無かっただろうに。目の前のセラフィナは私以上に矛盾している...?


「お願いエリシア私から離れないで」


またそれだ。


私は苦笑する。


「そんなに?」


セラフィナは小さく頷いた。


もしかしたらセラフィナは聖女の力で何かを知っているのかもしれない。私の知らない何かを。


だとするなら私にできることはあまりにも少ない。


深くは考えなかった。



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