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美食の魔王と満ち足りた日々  作者: 次元美食家
三大欲求と隠れ家生活
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穏やかな朝の異変

甘く、満たされた夜が明け、隠れ家には再び穏やかな朝が訪れた。レオンは、腕の中のエリスの柔らかな温もりを感じながら、ゆっくりと目覚める。エリスはまだ深い眠りの中にあり、その寝顔は満ち足りた幸福に彩られていた。

「ん……」

レオンは、エリスの髪をそっと撫で、彼女の額にキスを落とす。至福の余韻に浸りながら、彼はゆっくりとベッドから身を起こした。

朝食の準備を始めようとリビングに向かう途中、レオンはいつもと違う気配に気づいた。かすかに、外から煙の匂いがする。

「まさか……」

レオンはすぐに結界を軽く透過させ、外の様子を窺った。すると、彼の完璧な隠れ家を取り囲む森の、ごく一部から白い煙が立ち上っているのが見えた。

「火事……か?」

この森は、レオンが転移してきて以来、彼の安息の地であり、貴重な食材の宝庫だった。その森が燃えているというのは、レオンにとって由々しき事態だ。食料源が失われるだけでなく、快適な生活空間が脅かされる可能性もある。

レオンはすぐに服に着替え、寝室に戻ってエリスを優しく起こした。

「エリス、起きろ。少し、厄介なことになった」

エリスはまだ眠たげな目でレオンを見上げたが、彼の真剣な表情を見て、すぐに事態を察した。

「レオン様、何か?」

「森の東側で、煙が上がっている。どうやら火事のようだ」

その言葉に、エリスの顔色が変わった。剣聖の末裔である彼女は、この森の重要性を知っている。魔物の生態系、そして人里への影響も考慮すれば、森の火事は看過できない事態だった。

「すぐに向かいましょう! 私が案内いたします!」

エリスは瞬時に身支度を整え、剣を腰に携えた。彼女の行動の早さに、レオンは感心する。昨夜の甘い余韻は、彼女の使命感の前には消え去っていた。

レオンは、使役しているゴブリンたちにも指示を出し、火事の現場へ急行するよう命じた。

「急ぐぞ。燃え広がる前に、手を打つ必要がある」

隠れ家から東へ向かうにつれて、煙の匂いは一層強くなり、やがて焦げ臭い匂いへと変わった。森の木々は、まだ完全に燃え上がってはいなかったが、地面の枯れ葉や下草がくすぶり、白い煙がそこかしこから立ち上っていた。

「これは……放火か?」

エリスが警戒の声を上げる。ただの自然発火にしては、燃え方が不自然だった。特定の場所から広範囲に火がつけられているような形跡が見られる。

「可能性はあるな。どちらにせよ、これ以上燃え広がるのは困る」

レオンは無限収納から巨大な水袋を取り出した。これは、隠れ家の地下にある豊富な水脈から汲み上げたもので、魔力で冷やされており、いつでも大量の水を取り出せるように準備してあった。

「これを、燃えている場所に撒く。エリスは周囲を警戒しろ。もし、火をつけた奴がいるなら、まだ近くにいるかもしれない」

「かしこまりました!」

エリスは剣を構え、周囲の警戒に当たった。レオンは、魔力を込めた水袋の水を、まるで大雨が降るかのように広範囲に撒き散らす。彼の圧倒的な魔力と力によって、数瞬のうちに広範囲の火の勢いが弱まっていく。

だが、その時だった。

「おや、こんな森の奥に、人の気配があるとはねぇ」

突如として、森の茂みから、皮肉めいた声が聞こえてきた。現れたのは、漆黒のローブを纏った数人の男たちだった。彼らは、顔の半分を覆う仮面を着けており、その瞳だけが不気味に光っている。そして、その手には、怪しげな魔力が込められた松明のようなものを持っていた。

「やはり、お前たちが火をつけたのか」

エリスが剣の切っ先を向ける。

「まさか。我々は、とある実験をしていただけですよ。あなた方が邪魔しなければ、平和裏に進んだものを」

ローブの男の一人が、嘲るように笑う。その笑みからは、悪意と、この森を軽んじる傲慢さがにじみ出ていた。彼らが持つ松明からは、まだくすぶる火種が、森の枯れ葉へと向けられている。

レオンの眉間に、僅かに皺が寄った。彼の三大欲求を満たすはずの穏やかな朝は、一変して面倒なトラブルに巻き込まれた。そして、何よりも、彼らの存在が、レオンの安息の地を脅かそうとしている。

「……面白い」

レオンの瞳が、琥珀色から、獲物を狙う獣のような鋭い光を放ち始めた。

「俺の森で、俺の食事を邪魔するとはな。タダで済むと思うなよ」

レオンの周囲に、わずかな魔力の嵐が巻き起こる。ローブの男たちは、その只ならぬ気配に、一瞬だけ動きを止めた。彼らの顔に、初めて焦りの色が浮かんだ。

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