剣の鍛錬と甘い報酬
レオンの隠れ家での生活は、エリスが加わったことで、確かに賑やかになった。だが、それだけではない。エリスは元来、剣の道を極めることに心血を注いできた剣士だ。レオンの傍らで、その力を目の当たりにするたび、彼女の鍛錬への意欲はかえって燃え上がった。
「レオン様、今日の鍛錬、ご指導をお願いいたします!」
朝食後、エリスはすでに道着に着替え、腰に携えた長剣を抜き放ち、庭でレオンを待っていた。昨夜の甘い時間は、彼女の肉体と精神に新たな活力を与えたようだった。その瞳には、以前にも増して強い光が宿っている。
「俺は剣の専門家じゃないぞ」
レオンは寝転がっていたハンモックから身を起こしながら答える。確かにレオンは圧倒的な戦闘能力を持つが、それは「美食の極致」による身体能力の向上と、魔物使役、そして自己再生能力によるものだ。剣術のような流派や型を学ぶ必要はなかった。
「それでも、あなたの動きには『理』があります。先日、ロックウルフを仕留めた際の、あの最小限の動きで最大の結果を出す術。あれは、剣技に通ずるものがあるはず!」
エリスは熱心に語る。彼女の目には、レオンの全ての動きが、高みを目指すための「手本」として映っているようだった。
「ふむ……まあ、いいか」
レオンは考える。エリスが強くなれば、彼女が厄介事を持ち込む頻度も減るだろうし、何より、彼女が鍛錬に励む姿は、レオン自身の快楽の一つにもなり得る。
「俺の動きは、あくまで『効率』を求めた結果だ。それを剣にどう活かすかは、お前が考えることだな」
レオンはそう言いながら、庭の開けた場所へと移動した。エリスはすぐに構えを取り、真剣な眼差しでレオンを見据える。
レオンは一切の武器を持たず、ただゆっくりと歩き、エリスの剣の間合いに入った。エリスは一瞬の隙も見逃さず、閃光のような斬撃を放つ。だが、レオンはまるで最初からそこにいないかのように、ふわりと体を捌き、斬撃を躱す。
「速い……!」
エリスが驚く。レオンの動きは、ただ速いだけでなく、エリスの剣の軌道を完全に読み切り、最も効率の良い回避経路を選んでいる。まるで、斬撃が生まれる前に、その結末を知っているかのようだ。
レオンはエリスの斬撃を避けながら、時折、彼女の剣の腕や体勢、呼吸の乱れを指摘していく。その言葉は簡潔で、しかし的確だった。
「無駄が多い。斬りたいのは、そこか?」
「呼吸が乱れたぞ。その隙に、いくらでも反撃できる」
「お前の剣は、まだお前の本能から解き放たれていない」
最初は理解に苦しんでいたエリスだが、レオンの言葉と、その圧倒的な動きを目の当たりにするうちに、次第に何かを掴んでいく。彼女の剣は、やがて無駄を削ぎ落とし、より洗練されたものへと変化していった。
午前中いっぱいの鍛錬を終える頃には、エリスはへとへとになっていた。額からは汗が流れ落ち、道着は土埃にまみれている。しかし、その表情は達成感と、確かな手応えに満ちていた。
「はぁ……はぁ……ありがとうございます、レオン様……! これほど充実した鍛錬は初めてです!」
「頑張ったな。ご褒美だ」
レオンは微笑むと、無限収納からキンキンに冷えた果実水を取り出した。森で採れた珍しい果実を絞って作った、とろけるような甘さと爽やかな酸味が特徴の逸品だ。
「っ……! これは……!」
エリスは喉の渇きを潤すように、一気にそれを飲み干した。全身に染み渡るような冷たさと、舌の上で踊る豊かな風味に、彼女の疲労はたちまち癒やされていく。
「最高でございます、レオン様……!」
満足げに目を閉じるエリスの姿に、レオンは口元を緩めた。彼女が喜ぶ顔を見るのも、悪くない。
夜、レオンはエリスを連れて再び温泉へと向かった。昼間の鍛錬で凝り固まった体を、源泉かけ流しの湯が優しく包み込む。
「今日の鍛錬で、随分と力がついただろう?」
レオンが尋ねると、エリスは恥ずかしそうに頷いた。
「はい……レオン様の御指導がなければ、これほど早くは。私の剣が、まるで新たな段階へと進んだような感覚です」
湯気の中で、エリスの白い肌が艶めかしく輝いている。昼間の鍛錬で強靭さを増した肉体は、以前よりも一層、レオンの目を惹きつけるものになっていた。
「お前が強くなれば、俺も楽になる。それに、色々と助けられることも増えるだろうからな」
レオンは、言葉少なに、しかし優しくエリスの髪を撫でた。その指先が、彼女のうなじを滑り、背筋に心地よい戦慄が走る。
「レオン様……」
エリスは振り返り、その瞳でレオンを見つめる。昼間の鍛錬で得た肉体の充実感と、温泉の熱が、再び彼女の理性を甘く蕩けさせていく。言葉は必要ない。ただ、互いの熱を感じ合うように、二人の身体は自然と引き寄せられた。