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美食の魔王と満ち足りた日々  作者: 次元美食家
三大欲求と隠れ家生活
22/46

聖なる実の恩恵と獣人の食欲

地を這う竜が、猛然とレオンたちに突進してくる。その巨体は、大地を揺るがし、周囲の木々をまるで紙のようにへし折りながら迫ってきた。エリスは剣を構え、リリアを庇うように身構えるが、レオンは微動だにしなかった。その琥珀色の瞳は、荒れ狂う竜ではなく、その肉から放たれる究極の旨味にのみ焦点を定めていた。

「来るか、究極の晩餐よ」

レオンはそう呟くと、わずかに微笑んだ。彼の全身からは、これまで見せたことのないほどの膨大な魔力が溢れ出し、周囲の空気を震わせる。それは、まるで嵐の中心に立つ王者のような、圧倒的な威圧感だった。地を這う竜は、その魔力に本能的な恐怖を覚えたのか、一瞬だけ動きを止めた。しかし、レオンの前に立つ者を排除せんとする本能が勝り、再びその巨体を突き進ませた。

ゴオオオオオオン!

竜の頭部が、レオンの目前まで迫る。しかし、その瞬間、レオンの姿がブレた。彼は、まるで空間をねじ曲げるかのように、竜の目の前で一瞬にして消え失せ、次の瞬間には竜の背後に回り込んでいた。彼の動きは、エリスの動体視力ですら捉えきれないほどの超絶的な速度だった。

「どこを見ている?」

レオンの冷徹な声が、竜の耳元で響いた。竜は驚愕の表情で振り向こうとするが、その巨体はレオンの次の動きに抗うことはできなかった。

レオンの右腕が、まるでしなやかな鞭のように振り抜かれる。その拳には、これまで食してきたあらゆる魔物の力が凝縮され、まるで小さなブラックホールのような重力を伴っていた。それは、地を這う竜の最大の弱点――首と胴体を繋ぐ関節の隙間を的確に狙った、一点集中型の破壊の一撃だった。

ドッゴォォォォォン!

地響きと共に、竜の巨体が大きく跳ね上がった。全身を覆う岩のような鱗が、レオンの攻撃によって粉々に砕け散り、周囲に嵐のように飛び散る。竜は苦悶の咆哮を上げ、その巨大な身体は重力に逆らうかのように、空中を舞い、そのまま遠くの森へと叩きつけられた。木々がまるで根こそぎ引き抜かれたかのように次々と倒れ、地鳴りがしばらく続いた。

「……信じられない」

エリスは呆然と立ち尽くしていた。彼女の剣では、その硬い鱗に傷一つ付けることすら困難なはずの伝説の魔物が、レオンの素手の一撃で、あっけなく沈黙したのだ。その光景は、彼女の剣士としての常識を根底から覆すものだった。リリアは恐怖で震えながらも、レオンの圧倒的な力に、ただただ目を奪われていた。

「よし、これで最高の食材が手に入ったな」

レオンは満足げに呟くと、塵一つ付いていない手で、倒れた竜の方へと歩き出した。彼の表情は、まるで最高の獲物を手に入れた狩人のようだった。

「レオン様、あの竜は……」

「ああ。見た目通り、非常に硬い。しかし、その硬さ故に、身は締まっており、魔力も高密度で凝縮されている。最高の美味となるだろう」

レオンはそう言いながら、無限収納から特別な解体ナイフを取り出した。それは、あらゆる物質を切り裂く**『万物解体オールディスアセンブル』**の特性を持つ、彼専用の道具だった。

ゴブリンたちが、竜の周囲を警戒するように配置される。彼らは、レオンの魔力に怯えるように、しかし忠実にその指示に従っていた。レオンは、地を這う竜の巨体を前に、その肉を最高の状態で手に入れるための「解体ショー」を始めた。

万物解体のナイフが、竜の硬い鱗と肉を、バターを切り裂くかのように滑らかに切り開いていく。通常の解体であれば、数日がかりの作業となるはずだが、レオンの手にかかれば、その効率は桁違いだった。彼は、竜の生命活動を支えていた魔力の流れを読み取り、その肉の最も美味しい部分を正確に切り出していく。

竜の肉は、見た目とは裏腹に、マグマの熱を帯びたかのように赤く輝いていた。切り出すたびに、大地のような力強い香りと、マグマの熱から生まれたような、独特の甘く芳醇な香りが周囲に漂う。それは、まさに「大地の恵み」と呼ぶにふさわしい、生命の香だった。

「すごい……! こんなに大きな魔物が、こんなにも簡単に……」

エリスは、レオンの手際の良さと、その圧倒的な力に魅了されるように、食い入るように見つめていた。リリアは、最初は怯えていたが、レオンの解体作業がまるで芸術のように見え、その香りに興味を惹かれてか、そっと彼の隣に立ち、覗き込んでいた。

レオンは、特に栄養価の高い内臓の一部や、魔石が凝縮された部位を優先的に無限収納に収めていく。地を這う竜は、その巨体ゆえに食料として活用できないとされてきたが、レオンにとっては、その全てが究極の食材だった。

隠れ家に戻ると、すっかり夜になっていた。レオンは休む間もなく、地を這う竜の肉の調理に取りかかった。

「地を這う竜の肉は、この硬さをどう美味く変えるかが鍵だな……」

レオンは熟考した。硬い肉をただ焼いただけでは、その真価は引き出せない。彼は、竜の肉を巨大な塊のまま、隠れ家の地下にあるマグマの熱を利用した特製の炉で、低温でじっくりと時間をかけて蒸し焼きにすることにした。そうすることで、肉の内部まで熱が均一に伝わり、硬い繊維がゆっくりとほぐれ、肉本来の旨味が最大限に引き出されるはずだ。

さらに、レオンは、竜の体内にあったとされる**『地核の香辛料ジオコア・スパイス』**と呼ばれる希少な鉱物を少量取り出し、これを細かく砕いて肉に擦り込んだ。この香辛料は、竜の魔力によって生成されたもので、肉の旨味を飛躍的に高め、独特の風味を加えると言われている。

肉を炉に入れると、レオンは次にソースの準備に取りかかった。ソースのベースとなるのは、リリアが持ってきた『聖なる実』だ。聖なる実は、そのままでも素晴らしい効果を持つが、レオンの魔力で凝縮し、さらに森で採れた甘い果実と酸味のある木の実を混ぜ合わせて煮詰めることで、より複雑で奥深い、奇跡のソースへと昇華される。

香ばしい肉の香りと、甘くフルーティーなソースの香りが隠れ家中に満ちていく。エリスとリリアは、その香りに誘われるように、キッチンの傍らを離れようとしない。

数時間後、炉から取り出された地を這う竜の肉は、まるで宝石のように輝いていた。外側は香ばしく焼き色がつき、ナイフを入れると、中はほんのりとピンク色で、肉汁が豊かに溢れ出す。レオンは、その肉を薄切りにし、特製のソースをたっぷりとかけて盛り付けた。

「さあ、召し上がれ。これが、地を這う竜の肉と聖なる実を使った、**『地脈の恵み、竜肉の至福ロースト』**だ」

レオンが差し出した皿を受け取ったエリスとリリアは、その輝くような見た目と、食欲をそそる香りに息を呑んだ。

エリスは、震える手でフォークを取り、一切れの肉を口に運んだ。その瞬間、彼女の瞳が大きく見開かれる。

「っ……! これは……! 肉が……溶ける……!?」

硬いはずの竜肉は、口に入れた途端、まるで綿菓子のようにとろける。そして、口いっぱいに広がるのは、大地を思わせる力強い旨味と、深遠な甘み。そこに絡みつく聖なる実のソースが、肉の味を何倍にも引き上げ、複雑で奥深いハーモニーを奏でていた。それは、ただ美味しいという言葉では表現しきれない、魂を揺さぶるような味だった。

「体が……熱い……! 力が、湧いてきます……!」

エリスは、肉汁をこぼしながら夢中で食べ続けた。その一口ごとに、彼女の肉体と精神は、かつてないほどの充足感に満たされていく。

リリアもまた、恐る恐る肉を口に運んだ。すると、その小さな瞳が大きく見開かれ、幸福な涙が溢れ出した。

「美味しい……! お母さん、これ、きっと大好き……!」

リリアは、まるで夢を見ているかのような表情で肉を味わった。彼女の純粋な感性が、レオンの料理の真価を最も素直に受け止めていた。

レオンは、二人の様子を満足げに眺めながら、自分もゆっくりと肉を味わった。地を這う竜の肉から得られる魔力は、レオンの身体をさらに強化し、彼の魔力を一段と高める。そして、聖なる実が持つ浄化の力が、彼の魔力に清らかな性質を与えていた。

「フフフ……美味い。これほどの美味を前にすれば、どんな面倒事も、取るに足らんな」

レオンは至福の笑みを浮かべた。彼の三大欲求は、まさにこの夜、至高の喜びをもって満たされた。最高の食材を手に入れ、それを最高の料理で味わう。そして、その喜びを、愛しい女性たちと分かち合う。これこそが、レオンの求める至福であり、彼の人生の全てだった。

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