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美食の魔王と満ち足りた日々  作者: 次元美食家
三大欲求と隠れ家生活
19/43

聖なる実と癒しのスープ

隠れ家中に広がる芳醇な香りに、リリアの小さな鼻がひくひく動いた。不安げだった彼女の表情は、いつの間にか期待と空腹に変わっていた。レオンは、サラマンダーの肉を細かく刻んだものと、森で採れた新鮮なハーブを、煮え立つ鍋へと投入する。そして、最後に無限収納から取り出した、透き通るような白い塊――聖なる実をゆっくりと鍋の中に沈めた。

「えっ……! その実は……!」

リリアが思わず声を上げた。彼女が大事に持っていた聖なる実とは比べ物にならないほど大きく、そして澄んだ輝きを放つその実に、彼女の目は釘付けになった。

「ああ。お前が持っていたものと同じ『聖なる実』だ。俺も最近、ちょっとしたツテで手に入れてな」

レオンは、地下に捕らえたローブの男たちが、その「実験」とやらで集めていたものの中から、特に高品質な聖なる実をいくつか発見していたのだ。彼らが火を起こしたことを思えば、このくらいは当然の「税」のようなものだろう。

聖なる実が鍋の熱でゆっくりと溶け出すと、スープの色が淡い虹色に輝き始めた。そこから放たれるのは、力強い肉の旨味と、ハーブの爽やかさに加えて、これまで嗅いだことのない、清らかで甘い、生命そのもののような香りだった。

「これは……すごい香りです……! お母さんに、嗅がせてあげたい……」

リリアは、その香りに我を忘れ、小さく息を漏らした。彼女の獣人の血が、本能的にこのスープの持つ力を感じ取っているのだろう。

エリスもまた、レオンの隣でその調理工程を静かに見守っていた。彼女の目には、レオンの料理がもたらす奇跡が、すでに何度も焼き付いている。

「これで完成だ。『聖なる実と炎獄の肉片、癒やしのスープ』」

レオンはそう言って、出来上がったスープを器に盛り付けた。透き通った琥珀色のスープの中には、細かく刻まれたサラマンダーの肉と、まるで宝石のように輝く聖なる実の欠片が浮かんでいる。

レオンは、まず一口、自分でスープを味わった。

「フム……。やはり、最高だな」

温かいスープが喉を通り過ぎると、体の奥底からじんわりと温かさが広がる。そして、体中に力が満ちていくのを感じた。肉の旨味と、聖なる実の清らかな甘みが、完璧なハーモニーを奏でている。これは、ただ美味しいだけではない。生命力を根源から活性化させるような、奇跡の味だった。

「さあ、リリア。これを飲めば、お前の母親もきっと元気になる」

レオンは、温かいスープをリリアの前に差し出した。リリアは震える手でそれを受け取ると、恐る恐る、しかし期待に満ちた瞳でスープを見つめた。そして、小さく息を吸い込むと、一口。

「……っ!」

リリアの小さな体が、ビクッと震えた。彼女の瞳が大きく見開かれ、そこから大粒の涙が溢れ出した。

「お、美味しい……! こんなに、美味しいものは、生まれて初めてです……!」

リリアは、涙と鼻水を流しながら、むさぼるようにスープを飲み始めた。その一口一口が、彼女の小さな体に染み渡り、内側から温かい光が灯るような感覚だった。

「体が……温かい……力が、湧いてきます……!」

スープを飲み干したリリアの顔には、生気が戻っていた。傷ついていた頬の擦り傷が薄くなり、疲れ果てていた表情にも、明るい色が戻ってきた。

「これで、お前の母親の病気も治るだろう。その聖なる実が持つ力は、俺の料理によって最大限に引き出される。お前の母親の病気は、相当重いようだから、このスープをいくつか飲ませてやる必要があるだろうがな」

レオンの言葉に、リリアは信じられないものを見るかのように、しかし確かな希望を宿した瞳でレオンを見つめた。

「ほ、本当ですか……! これで、お母さんが助かるんですか!?」

「ああ。ただし、約束は守ってもらうぞ。お前は、これから俺の元で、俺の三大欲求を満たすための手伝いをしろ。この隠れ家には、お前が必要だ」

レオンは、そう言ってリリアの頭を優しく撫でた。彼の言葉は、まるで魔法のようにリリアの心に響いた。

「はい! はい! わたくし、レオン様のために、何でもします! お母さんを助けてくださるなら、どんなことでも!」

リリアは、目に涙をいっぱいためて、レオンの手に自身の頬を擦り寄せた。その小さな体からは、感謝と、レオンへの絶対的な信頼が溢れ出していた。

エリスもまた、その光景を温かい目で見つめていた。レオンの傍らにいることで、どれほど心が満たされるかを知っている彼女にとって、リリアの気持ちは痛いほど理解できた。

こうして、レオンの隠れ家には、また一人、新たな家族が増えることになった。リリアは、レオンの圧倒的な力と、彼の料理がもたらす奇跡に完全に魅了され、彼の三大欲求を満たすための、新たな「協力者」となったのだった。彼女の母親を救うための旅は、レオンという異質な存在と共に、まだ始まったばかりだ。

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