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美食の魔王と満ち足りた日々  作者: 次元美食家
三大欲求と隠れ家生活
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炎の番人、そして炎の美味

レオンは、炎獄のサラマンダーが吐き出す灼熱の炎をものともせず、悠然とその巨体へと肉薄した。彼の周囲には、目には見えない魔力の膜が展開されており、サラマンダーの猛攻を完全に無効化している。

「フフフ……美味そうだ」

レオンの口元に笑みが浮かぶ。サラマンダーの強大な魔力は、レオンの「美食の極致」にとって、最高のスパイスのように感じられた。

「レオン様、お気をつけください!」

エリスが叫ぶ。サラマンダーはレオンの余裕の態度に激昂したのか、さらに強力な炎を放つと同時に、その巨体を揺らして突進してきた。その蹄が地面を踏みしめるたび、火山帯全体が震えるかのような地響きが轟く。

レオンは、突進してくるサラマンダーに対し、一切の回避行動を取らなかった。ただ、静かにその場に立ち尽くし、右手を軽く構える。その掌からは、極めて高密度に凝縮された魔力が放たれた。それは、単なる魔法攻撃ではない。レオンの膨大な魔力と、これまで食してきた魔物たちの力が融合した、純粋な破壊の力だった。

ドゴオオオオオン!

激しい衝撃音と共に、サラマンダーの巨体が吹き飛ばされた。その硬い鱗はレオンの攻撃によって粉砕され、マグマの淵へと叩きつけられる。サラマンダーは苦悶の咆哮を上げ、全身から炎と血しぶきを上げた。

「くっ……たしかに強い魔物だが、さすがに無防備ではな」

レオンは冷徹に言い放つ。彼は、ただサラマンダーの攻撃を受け止めて反撃しただけではない。サラマンダーの肉を最高の状態で手に入れるため、その生命の根幹を傷つけることなく、内部の魔力循環を破壊する一点集中攻撃を加えたのだ。

サラマンダーは全身から魔力を放出することで最後の抵抗を試みるが、レオンの一撃によって中枢を砕かれたその身体は、もはや本来の力を出すことはできない。その巨大な身体は、ピクリとも動かなくなった。

「よし、これで最高の食材が手に入ったな」

レオンは満足げに頷くと、倒れたサラマンダーに近づく。そして、無限収納から特別な解体ナイフを取り出し、その肉厚な体を素早く解体し始めた。サラマンダーの肉は、灼熱の環境で育っただけあって、その身は引き締まり、赤く輝いている。魔力を多く含んでいるためか、解体するたびに、温かく甘い香りが周囲に漂った。

「これは……炎獄のサラマンダーの肉……! こんなに簡単に……」

エリスは、信じられないものを見るかのように、呆然とレオンの作業を見つめていた。都市を脅かすほどの伝説級の魔物が、こんなにもあっけなく、そして「食材」として扱われていることに、彼女の常識は完全に打ち砕かれた。

レオンが手際よくサラマンダーの肉と、その心臓にある巨大な魔石を無限収納に収める間に、エリスはマグマの淵に咲く灼熱の蜜花に目をやった。サラマンダーが倒れたことで、周囲の熱波が和らぎ、近づくことが可能になっていた。

「レオン様、この花は……」

「ああ、それも最高の食材だ。『灼熱の蜜花』という。だが、素手で触るな。まだ高熱を帯びている」

レオンはそう言って、無限収納から耐熱性の手袋を取り出すと、自ら蜜花を丁寧に摘み取った。花びらはまるで炎のように揺らめき、その中心からはとろりとした琥珀色の蜜が溢れ出ていた。

「この蜜を、サラマンダーの肉にかければ……最高の一品になるだろうな」

レオンの顔には、新たな美食への期待感が満ち溢れていた。

隠れ家に戻ると、すっかり夜になっていた。レオンは休む間もなく、手に入れたばかりの炎獄のサラマンダーの肉と灼熱の蜜花の調理に取りかかった。

「サラマンダーの肉は、この熱で煮込むのが一番だろう」

レオンは隠れ家の地下にある、マグマの熱を利用した特製の炉を使い、大鍋にサラマンダーの肉と、香りの強い根菜、そして少量の蜜花を加えて煮込み始めた。蜜花は熱を加えることで、その甘みと芳醇な香りがより一層引き出される。

湯気が立ち上り、芳醇な香りが隠れ家中に満ちていく。それは、肉の力強い香りと、蜜花の甘い香りが混じり合った、まさに「地獄の美味」とでも呼ぶべきものだった。

「レオン様……この香りは……!」

エリスは、待ちきれないといった様子で、レオンの手元を覗き込んでいる。今日の戦闘の疲労も忘れ、その瞳は期待に満ちていた。

やがて、煮込まれたサラマンダーの肉は、信じられないほど柔らかく、深い赤色に染まっていた。レオンはそれを器に盛り付け、最後に残りの灼熱の蜜花を細かく刻んで散らす。

「さあ、召し上がれ。炎獄のサラマンダーと灼熱の蜜花を使った、**『炎獄の肉煮込み』**だ」

レオンが差し出した皿を受け取ったエリスは、その輝くような見た目と、食欲をそそる香りに息を呑んだ。そして、一口。

「っ……! これは……! 信じられません……!」

エリスの瞳が大きく見開かれる。口に入れた瞬間、肉はとろけるように溶け、凝縮された魔力の旨味が全身に広がる。そして、後から追いかけてくる蜜花の甘みが、その旨味をさらに深く、複雑なものにしていた。まるで、マグマの熱情と、花の優しさが口の中で調和するような感覚だ。

「疲労が、体の奥底から癒やされていくようです……! そして、身体中に、まるで炎が宿ったかのような力が……!」

エリスは、一口食べるごとに、全身でその味と効果を表現した。サラマンダーの肉と蜜花が持つ魔力が、彼女の肉体と精神に直接作用し、今日の激しい戦闘で消耗した魔力と体力を回復させているのだ。

レオンは、エリスの恍惚とした表情を眺めながら、自分もゆっくりと肉を味わった。彼の身体にも、新たな力が満ちていくのを感じる。それは、単なる身体能力の向上だけではない。サラマンダーが持つ炎の特性を、微弱ながらも自身のものにする感覚があった。

「美味い……! これほどの美味を前にすれば、どんな面倒事も、取るに足らんな」

レオンは至福の笑みを浮かべた。最高の食材を手に入れ、それを最高の料理で味わう。これこそが、レオンの求める人生であり、彼の三大欲求を満たす究極の道なのだ。

エリスもまた、レオンの隣で、幸福に満ちた表情で肉を味わっていた。彼女は、レオンという存在が、自分にとって、そしてこの世界にとって、どれほど特別な存在であるかを、改めて深く認識したのだった。

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