シーズン2 第2話 雪の宴と三つ首の給仕獣
【招かれざる雪の客】
ペルセリアの吹雪は絶えず、白に白が重なり、遠近の境すらも消えていく。
そんな中、カタリの足は確かな一歩を刻んでいた。
彼の懐には、一枚の氷札が仕舞われている。
『白き雪にて来たりし者よ、
汝の腹が空ならば、招かれよ。
ただし、食事は一皿。客は一人。』
「“ただし”の使い方にクセがあるな。面白そうだ」
雪が唐突にやみ、目の前に晩餐の場が現れた。
氷でできた長卓。客席には“雪で成された人形”たち。
中央だけが空いている。カタリのために、明らかに“用意された”椅子。
彼は眉一つ動かさず、それに座った。
***
【ノルヴァ・ティーター登場】
音もなく登場したのは――三つの顔を持つ給仕獣。
一つは笑う老執事
一つは無言の女
一つは泣く子供
名はノルヴァ・ティーター。
ペルセリアに仕えし“宴の再演者”。かつての食卓を永遠に再現する者。
「お客様、本日は“記憶仕立てのラグー”をお持ちいたしました。どうぞ、お召し上がりください」
カタリの目が、鍋の奥をじっと見つめる。
「この香り……“調理の熱”じゃなく、“記憶の火”か。混ぜ物が過ぎる。カレーじゃないんだから」
***
【料理の正体と精神干渉】
ラグーは見た目こそ美しい煮込みだったが、香りには“記憶を曇らせる何か”が含まれていた。
カタリが湯気に近づいた瞬間、意識にノイズが走る。
スープの湯気がゆらぎ、過去の情景が視界にちらつく。
かつてペルセリアに存在した貴族社会。
笑い合う者たち、密談する者たち、泣きながら乾杯する者たち。
だが、すべては霧のように消え、
かわりに――自分自身の過去が皿の中から立ち上がってきた。
“これはただの料理じゃない――記憶に干渉するタイプの食魔術だ”
カタリはすぐに、雷を指先に灯し、自身の思考を強制再起動する。
「“食われる”のは料理の方であって、オレじゃない」
彼はスプーンを置き、静かに呟く。
「……この素材。“発掘”させてもらう」
掌から光の猛禽の爪が浮かび上がり、皿の底に埋もれた“過去”を掴み出す――
「屍肉喰い」
カタリが皿の下へ掌を添える。
そこに微かな、微弱な感情の残骸がある。
記憶の余熱、味の記録、料理の“核”
それらを反応させ、猛禽の爪が皿の底を貫く。
「出てこい。……素材にされた“記憶”の本体」
湯気の奥から引きずり出されたのは、青く結晶化した“記憶封印の核”。
それは、宴に参加した全員の感情を練り込み、保存した魔導料理用の“呪物”だった。
ノルヴァの三つの顔が同時に反応する。
「……君、それを取り出して、どうする?」
「食材の名前がわからない料理は、信用しない主義でね。分解してから考える」
***
【バトル:三つ首の給仕獣と雪の人形たち】
怒りに震えるノルヴァ。
宴の結界が崩れ、雪人形たちが黒いナイフを手に蠢き出す。
「食卓に逆らう客は、客にあらず……!」
カタリはすでに跳び上がっていた。
鳥の翼で吹雪を舞い越え、嘴でノルヴァの“泣く子”の顔を潰す。
さらに屍肉喰いの続撃で、
周囲の雪人形の残骸から“忘れ去られた笑い声”の記憶を抽出、逆流させてノルヴァに叩きつける。
「宴の責任を果たせなかったなら、次に出すべきは、“謝罪の皿”だ」
最後に雷のカードスローで結界を破壊。
ノルヴァの姿は霧散し、宴の幻も消え去った。
***
【再構築された料理:雪原のミルクスープ・ノルヴァ風】
カタリは雪原に残された空鍋を再利用。
あの核から感じた“笑い”の余韻を思い出しながら、改めて自らの手で一皿を仕上げる。
凍香根のバター炒め
雪の湧き水を雷で温めた即席ブロス
保存乳と乾燥茸のスープ仕立て
仕上げに、記憶核の一滴から生まれた“微笑のスパイス”を一振り
料理名:
「雪原のミルクスープ・ノルヴァ風」
「これが……料理ってやつだ」
皿は一つ。客も一人。
でも、これはもう“誰かのため”の一皿だった。
「……あの三つ首、次に会ったらどの口で謝るか聞いてみたいな」
【エピローグ:吹雪の中へ】
結界が消え、吹雪が戻る。
カタリは鍋の香りを背に受けながら、次の一歩を踏み出す。
残った“記憶封印の核”の微片は、乾いた空気の中で音もなく砕けていった。
「次は……冷たい料理でも探してみるか」