シーズン1 第3話 魔樹の森と歌う頭蓋骨
【森の境界線】
メルセシア西部、ミルグナの森。
黒樹の根が地を這い、空を覆う枝が昼でも光を遮るこの森は、「生きた森」として恐れられていた。
進めば進むほど、音が消える――そう噂されている。
「……静かだ。風も鳥も、音すらも」
カタリは黒いフードを深くかぶり、腰の杖に手を添えて森の縁を歩いていた。
数日前、風竜の尾根で遭遇した「謎の騎手」が残した雷の痕跡。その導線を辿って、彼はこの森へとやってきた。
持っていた雷のコアが、森の中に入った途端、わずかに脈動を始めた。
「やはり、ここにも“繋がり”があるってことか」
森の奥、封印の碑文が隠されている気配。
それを求めて歩を進めるカタリに、風のような歌声が届いた。
「おーい、そこの旅人さんよ……耳、あるかい?」
「いいえ」
声は軽やかで、音楽のように響いた。
振り返ると、そこには――喋る頭蓋骨が、苔の上に転がっていた。
【頭蓋骨:森の案内人“マハロ”】
「死んでだいぶ経つけど、オレ、耳が恋しくてねえ……声、届いてる?」
「仕方ない、届いてる。ついでに驚きも届いてるよ」
「ほっほ、冷静だなあ。オマエさん、ちょっと変わってるね」
「まあ、ゾンビではあるからな」
森に埋もれていた頭蓋骨は、苔とキノコに覆われていたが、意識ははっきりしていた。
かつてこの森の案内人だったらしく、封印の碑文についても断片的な記憶を持っていた。
「たしかになあ……“雷”と“風”と来たら、次は“森”なんだろ? 森ってのは“命の記録庫”だからな。封印の名残は、森のどこかに眠ってるさ」
「その“どこか”ってのを教えてくれれば、助かる」
「歌っていい?」
「やめろ」
「……冗談冗談」
「順番から言って次はオレが歌う番だろ。ふざけているのか」
「なんだコイツ」
マハロによれば、森の奥にある“囁きの樹”が、かつて封印の鍵の一部を保管していたという。
***
【森の探索と異常な歌】
カタリとマハロ(袋に入れて携行)は、森の奥へ進む。
「蒸れてきたんだけど」とぶつくさ言うマハロに、「骨が蒸れるのか……?それはただの水漏れだ。オレのキャンティーンは蓋の締りが悪くてよく溢れるんだ」「なんで水漏れする水筒と一緒の袋に入れているんだ」と(マハロが)ツッコミながら。
途中、異常な“歌声”に引き寄せられ、カタリは幻覚に囚われる。
草が語りかけ、枝が誘う。「帰ってこい」と。
その声に、かつての仲間――ラナ・ゴールド・ラッシュの姿が見える。
「カタリ……本当に、行くの? 私のそばにいないの?」
しかし、それは森が見せる幻影だった。
黒檀の杖を地に突き、雷の火花で自らの意識を焼くように刺激する。
「“本物”のラッシュは、そんなセリフ、言わない。……あ、だが、待ってくれ。甘えん坊なラッシュはそれはそれでアリだな。……うん、すまないが、さっきのラッシュをもう一回ーーーー」
幻想を突き破り、「くそぅ!」森の支配を抜けると――目の前には巨大な樹木、囁きの樹がそびえ立っていた。
***
【封印碑文:記録庫のパズル】
囁きの樹の根元には、封印の碑文。
だが、それはただの石ではなく、植物の文様をかたどった“パズル”のような構造をしていた。
カタリは黒檀の杖を抜き、“鷹の目”で周囲の構造を精査。
石板の割れ目に、雷コアをはめる。
碑文が震え、木の内部から低いうなりが響いた。
やがて、封印が一部解除され、碑文が歌うように“文字”を浮かび上がらせる。
「『風と雷は、命を震わせ、森の言葉を忘れさせる』……詩か?」
マハロがぼそり。
「オレも昔、そんなのを覚えてたような気がする。“三つの碑文が重なるとき、記憶が生まれ直す”ってな」
カタリはその言葉を手帳に記すと、ふと背後を振り返る。
空気が逆流するような、ぞわりとした感覚。
風が、止まっていた。
そして、森が――“息を吸った”音がした。
***
【魔樹“ハルシオン”との交戦】
突如、囁きの樹が、“形を変えて”動き出す。
枝が蛇のようにうねり、雷の干渉で意識を目覚めさせた“魔樹ハルシオン”が現れる。
カタリは黒檀の杖をスピア形態に変形。
枝の動きを読み、“鷹の目”と“鳥の翼”で風を裂きながら宙を駆ける。
そこから“嘴”+カードスローで連撃。
魔樹の中枢を穿ち、雷の火花を放つことで中枢の腐敗核を焼き尽くす。
森は再び静けさを取り戻す。
そして、魔樹の心臓部から、一枚の風にたなびく繊維の巻物が現れた。
それは――第三の碑文“記憶の布”だった。
***
【歌う頭蓋骨と料理】
戦いの後、カタリは森の外れでテントを張り、料理を始める。
材料は、魔樹の実と、近くで見つけた“甘苦根”。
料理名:「森の焦がしスープ」
魔樹の実を炙り、香ばしさと甘みを引き出す。
苦味ある根菜でバランスを取り、風味を雷で引き締める。
味は濃厚で、深い森の静けさを思わせる。
料理を終え、焚き火が細く燃える森の夜。
カタリは湯気を上げるスープを一口すすり、マハロの頭蓋骨を鍋のそばに置いた。
「どうだ、骨。香りだけでも味わうがいい」
「へへ……香りってのは、記憶に似てるな。……じゃあ、ひとつ、歌ってもいいかい?」
「ああ、順番だからな」
頭蓋骨から流れる声は、どこか風のようで、焚き火のパチパチとした音と一緒に、森に溶けていった。
♪旅は一匙、記憶はひとつ
森に残るは 名もなき火種
風に揺られて 誰かが笑う
今日のごはんに 世界がある♪
「……骨だけなのに、やけにいい声だな」
「おうとも。声だけで生きてるからな」
焚き火がパチ、と音を立て、森に光が広がった。
スープの香りが、夜風に乗って静かに流れていく。
そしてカタリは、肩の荷をひとつ下ろすように、目を細めた。
「何で喋れるんだ……」