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シーズン1 第2話 飛竜の尾根とトルネード・スープ

【風の音が鳴く山】


 メルセシア北方、フィウス山脈。

 切り立った崖と細く連なる尾根。その頂を吹き抜ける常時の強風は、旅人を拒むように唸り声をあげていた。

 この地は、“飛竜”と呼ばれる空の魔獣たちの古の生息域として知られる。


 山道にぽつりと点在する祠。そのひとつの傍らで、鍋をかき混ぜているのは――例によって、カタリである。


「肉が硬すぎるな……下茹でが足りなかったか」


 鍋を風から守るように岩陰に寄せ、カタリは包帯を巻いた顔を風から隠すようにフードを深くかぶった。

 この標高では、獣の気配よりも風の唸りのほうがずっと濃い。


「なんて日だ……というか、こんなところで調理しようってのが、そもそもの間違いかもしれないな。酔狂なオレがいたものだ」


 彼がいるのは“風竜の尾根”と呼ばれる危険地帯。竜巻すら発生するというこの場所は、命知らずの登山者でも引き返すという。


「――さて、本題に入るか」


 懐から取り出したのは、先日セヴェランの灯台で手に入れた雷のコア。

 その外殻には、カタリの記憶にない、風を模したような紋章が刻まれていた。


「この紋章……雷じゃない。形状からして風属性系か? ってことは……やはり、この山に関係してる可能性は高いな」


 黒檀の杖を腰に戻し、尾根の先を見据える。

 風竜が巣を構えたとされる“風窟”(ふうくつ」)。

 そこを目指し、カタリは強風を切って進み出した。


***


【風の集落と少女鍛冶師】


 峠を越える途中、足を滑らせたカタリは斜面を転がり落ちかけ、間一髪で飛んできたロープにすがった。


「おい、見えてるぞー! そこのミイラ男! 首、だいじょぶかー!?」


 見上げると、金槌を背負った細身の少女が叫んでいた。

 彼女はサヤ・ラトル。風窟の麓にある浮き集落“イリダ”の鍛冶師見習い。

 元気が有り余っており、金属と会話するのが趣味という、なかなか危険な人物である。


「大丈夫では、ない!」


 カタリは正直者だった。助けられてこの態度、こちらもなかなかの危険人物である。


「お前、登山か? それとも食材探しか?」


「後者寄りの、前者かな。飛竜の肉、手に入るか?」


「アレ、まだ生きてるぞ。数十年、誰も倒せなかった風の主だ。むしろ最近、活動が活発化しててな」


「やっぱり暴風の原因は……“あれ”か」


「なんで知ってる?」


「たまたま。料理と謎解きが趣味でね」


「へぇ……じゃあ、料理勝負しようぜ」


「突然すぎないか?」


「うちはそういう家系なんだよ。親が料理番でさ。勝負癖がある」


「なるほど、血筋か」


「勝ったら、風窟の入口まで案内してやる。悪くない取引だろ?」


 どうやら、集落では“料理での力比べ”が、正式な取引方法らしい。

気づけば、広場に集まる住民たち。火山岩でできた調理台が設置され、山岳の料理対決が始まっていた。


***


【料理対決:トルネード・スープ】


 課題は「高地で身体が温まる一品」。


 カタリは持ち込んだスパイスと、現地食材“山ヒトデ茸”、“風羊の脂”、“氷根菜”を使用する。


 調理法:


 * 風羊の脂で茸をじっくり炒め、香ばしさを最大限に引き出す。

 * 氷根菜をすりおろし、山風で泡立てて自然の“空気の層”を含ませる。

 * ブロスに雷をひとさじ加え、風味に電撃の刺激をプラス。

 * スープ全体を風の力で攪拌し、渦を巻くような食感=トルネード感に仕上げる。


 飲めば、口の中に風が巻き起こるような独特の食感。鼻に抜ける芳香と、舌を刺す熱、雷のピリ辛が後を引く。


「体の芯まで、風吹いてきたみたいだ……!」

「こりゃ、今夜は眠れねぇな!」


 住民の反応は上々だった。

 サヤは肩をすくめ、口を拭う。


「……完敗だ。あたしの芋と塩だけのスープ、負けた」


「塩は素材を生かす。だが、今日は素材が君を生かしきれなかったな」


「……………(どういうことだ?)」


「……………(どういうことだ?)」


***


【風窟への潜入】


 夜。サヤの案内で、カタリは風窟へと向かう。


 風の唸りが吹き抜ける洞内。岩肌には、飛竜の爪痕。

 砕けた碑文には、風属性の封印の名残。そして、雷のコアを嵌め込もうとした痕跡が残っていた。


「これは……偶然じゃないな。雷と風……順番を“組み替えてる”? 誰かが封印の構造自体を変えようとしている……?」


 そのとき、奥から巨大な影が現れる。


 翼の裂けた飛竜。その背に、人影。


「なに……?」


 一瞥だけくれたその人物は、竜に命じるようにして洞を飛び立った。


「人為的に暴れさせてた……か」


 足跡には、雷の魔法痕――焦げ跡が残っていた。


***


【エピローグ:山を下りて】


 翌朝、サヤがカタリに包みを手渡す。


「例のスープ、改良してみた。干し茸とスパイス入り。旅先で使ってよ」


「借りる。料理は、戦いだからな!」


「……………(どういうことだ?)」


「……………(どういうことだ?)」


 風を背に、カタリは尾根を降りていく。

 雷と風を繋ぐ謎。その解答は、まだ少し先にある。

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