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シーズン1 第1話 雷魚吠える

 夜明け前の海が、静かにうねっていた。

 メルセシア南東沿岸、セヴェラン港。港町としては小さいが、雷を宿す海魚“雷魚”の漁獲地として知られ、日々交易商や冒険者たちが足を運ぶ場所だ。


 波止場に一人、背を向けて海を見ている男がいる。

 外套のフードは半分落ち、顔には包帯。腰には黒檀の杖が装備され、野営具と食器が詰まったアウトドアバッグを肩にかけていた。


 カタリ。

 かつてこの世界に召喚され、一度死に、そして二度目の生を歩く、リビングデッドの旅人。放浪者であり、料理人でもある。今回は、この港町の食材と“異変”を味わうために、ふらりとやってきた。


「……ああ、こいつはいい匂いだ」


 夜明け前の空気に混じる、磯の香りと焚火の煙。

 魚を焼く音がかすかに聞こえた。

 船着き場の片隅、若い漁師が大鍋を煮ている。


「アンタも食ってくか? 今日のは、昨日獲った雷魚のアラ汁だ」


 カタリは一言もなく、バッグからクッカーを出し、少し離れた場所で焚火を始めた。


「……まあ、そんな気はしてたさ。変わり者の匂いってのは、鍋の匂いよりも強いらしい」


 漁師が苦笑する頃、港がざわついた。


「灯台が……また赤く光ったぞ!」

「“ゼルノの瞳”が……また……!」


 港の沖に建つ古代の灯台、ゼルノの瞳。

 過去に封印された“何か”を鎮める結界施設。雷魚と共に語られる伝説の場だ。


「うーん、静かな朝飯が欲しかったんだけどな……」


 カタリは小さく呟くと、火から手を離し、腰の黒檀杖に手を添える。黒い木材は、まるで応じるようにわずかに軋んだ。


***


【灯台の異変 ― 調査依頼】

 町のギルド支部で状況を確認したカタリは、酒瓶片手に地図を見つめていた。


「『雷魚の発光量が増している』『夜中に灯台がうなる』……聞こえはいいが、要は“何かが起きてる”だけだな」


 港の漁協代表、髭の編み込みが印象的なトルグ・アンカーソンが顔をしかめる。


「封印が切れかけてる。灯台の中、誰も入れねぇ。元素に干渉できるヤツじゃなきゃ、どうにもならん」


「それで、オレというわけか。雷属性を持つゾンビ現るってやつだ」


 トルグは呆れたように酒を一口。

「……あんた、何者なんだよ」


「旅人。料理人。過去に魔王とやり合ったこともある。褒めてくれ」


「……まあいい、報酬は、雷魚5本。調理済みでもいいな?」


「かまわん、そっちの方がありがたい」


***


【灯台探索 ― 元素の謎解き】

 夜。小舟を漕ぎ、灯台へ上陸するカタリ。

 崩れかけた回廊。壁の模様に雷元素の痕跡。天井からぶら下がる導雷金属線が、中央の水晶球へ繋がっていた。


「雷を循環させて封印を保ってた……が、断線か」


 カタリは「鷹の目(ホークアイ)」を発動する。

 彼が持つ猛禽類モチーフのスキルのひとつで、遠方の構造や魔力の流れを把握する力だ。


「……見えた。ここと、あそこが断線してるな」


 切れた回路へ電撃を纏わせたカードを投げ、回路を仮補修。


 その瞬間――床が崩れ、下層へ落下した。


「何て酷いことをするんだ!」


***


【対決:雷魚王“グロウ・サンダリン”】

 そこにいたのは、巨大な雷魚。目から青白い光を放ち、口内には雷が満ちている。

 封印が緩んだことで、深海から引き寄せられてきた古種だ。


「……でかい。うまそう。だが、調理は後にしよう」


 黒檀の杖をスティックモードからスピア状に変形。

 突進するグロウ・サンダリンの触手を強烈な突き攻撃「ビーク」で薙ぎ払い、光の鷹が放たれる「鷹狩り(ホーキング)」で口内からエネルギーコアを引き抜き奪い取る。


「お前のエンジン、ちょっと借りるぞ」


 コアを雷の回路に組み込み、灯台の水晶が再び輝いた。

 雷魚王は電流に包まれ、意識を失うように海底へ沈んでいった。


***


【エピローグ:塩雷魚のグリル】

 翌朝、カタリは波止場で火を起こし、静かに調理を始めた。

 雷魚の切り身にセヴェラン産のレモンミント、岩塩をまぶし、表面を軽く炙った後、電気を流して内部からもじっくり火を通す。


 雷魚の皮が軽く泡立ち、脂が浮き、香りが立つ。


「……悪くない。雷の余韻が舌に残る。これに白ワインがあれば完璧だが……まあ、水でいい」


 後ろから小さな声。

「ねぇ、それ……ひとくち、いい?」


 昨日の漁師の弟らしい少年が、覗き込んでいた。


「一本だけだぞ。おかわりは、海に獲りに行け」


 そう言って、カタリは串ごと魚を渡す。

 少年は大げさに頷いて、頬張る。


「……うめぇ……!」


「それは良かった。じゃあ、オレは次の魚を探すとするか。どこか、山の方に“飛竜”でも落ちてないか」


 カタリは黒檀の杖を拾い上げ、肩に担いだ。

 波の音は、今日も穏やかだった。

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