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【短編】現代ドラマ短編シリーズ

ツンドクなアタシが通う本屋さん

作者: 烏川 ハル

   

 ()(どく)という言葉がある。本を買ったはいいけれど読まずに放置している場合を示すという。

 読み切れないほど大量に、ついつい本を買ってしまう。それほど本が大好き。そんな人々が行うのが()(どく)なのだろう、一般的には。

 (アタシ)の部屋にも、全くページを開いていない本が積まれており、それでも(アタシ)は毎週2、3回、本屋に足を運んでいる。(はた)から見れば、(アタシ)も「それほど本が大好き」と見えるのだろうか。

 実際、行きつけの本屋さんで店員のお兄さんから、

「いつもありがとうございます。本がお好きなのですね」

 と声をかけられたことがある。

 常連客として顔を覚えられたからこそ「いつもありがとうございます」なのだろうし、購入する本の種類が多岐に渡っているために「本全般が好き」と判断されたのだろう。後者はともかく、前者は(アタシ)も嬉しくて、つい正直に「こちらこそ、いつもありがとうございます」と返してしまった。


 (アタシ)が通う本屋さんは、駅とは反対方向。会社帰りに自分のアパートの前まで来てもスルーして、さらに歩き、住宅街を抜けた辺りにあるお店だ。他にも色々なお店がポツポツと点在している地域なので、一応は地元の商店街という感じだった。

 そんな本屋さんの入り口で「3月末に閉店します」という張り紙を見つけたのは、今から1ヶ月ほど前のこと。見た瞬間、(アタシ)の内心は大パニック。ここが閉店したら、一体どこへ行けばいいのやら……。

 それ以来、(アタシ)は悶々とした日々を送ってきたが、黙って手をこまねいているうちに、ドンドン閉店の期日は迫ってくる。

 このままではいけない! 意を決した(アタシ)は、とうとう今日、本を購入する際のレジで、勇気を振り絞って尋ねてみた。

 相手は、あの「本がお好きなのですね」と言ってくれたお兄さん。スーッと整った顔立ちで、黒縁メガネが似合っている店員さんだ。


「あの……。この本屋さん、もうすぐ店じまいなんですよね?」

「はい、残念ながら……。でも三つ先の駅まで行けば、同じ系列の書店がありますので、今後はそちらをご贔屓にしてください」

 と少し系列店の宣伝をしてから、(アタシ)の表情を見て付け加えた。

「いや、お客様としては、もっと近くの方がいいですよね。そこまで行かずとも、ここから歩いていける範囲にも別の書店はありますので……」

 お兄さんは親切だ。わざわざ簡単な地図を広げて、この近辺の書店を紹介しようとする。系列店ではない書店を教えるのはお店の利益に反するだろうに、それよりお客様優先なのだろう。

 そもそも地図を用意していたこと自体、他の客からも既に「ここが閉店したら、どこへ行けばいいの?」みたいな質問をされる機会があったからかもしれない。

 しかし(アタシ)は、そんな客とは違う。だからお兄さんの言葉を遮って、勢いよく捲し立てるのだった。

「いいえ、三つ先の駅でも行きます。あなたがそのお店に異動になるのであれば! あるいは、もっと遠くのお店に異動ですか? だったら教えてください!」

「……は?」

 ポカンとするお兄さん。

「あっ、もしくは正社員じゃなくてアルバイト? ここが閉店したら、本屋以外でバイトですか? それならそれで、今度はそちらへ通いますから!」

「……」

 黒縁メガネのお兄さんは、絶句してしまうが……。

 だって仕方ないではないか。(アタシ)がこの本屋へ(かよ)っていたのは、本そのものではなく、店員のお兄さんが目当てだったのだから!




(「ツンドクなアタシが通う本屋さん」完)

   

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