ささくれという抵抗感(ていこうかん)
彼女の首に指を這わせる時、いつも指先には抵抗感を覚えた。ささくれのような感覚で、物理的に指が傷ついた訳ではないけれど、それで私はいつも彼女の首から指を離す。
お陰で私は、殺人者になることもなく、彼女を傷つけることもなく済むのだった。そもそも指先は首に這わせるだけで、力を込めて絞めたことなど一度もない。
「ん、満足したわ。ありがとう」
仰向けに寝て目を閉じ、無防備に喉を晒していた彼女が、目を開けて私に言った。「どういたしまして」と私は笑う。彼女は私の指が好きだそうで。特にこうして、上から圧し掛かられて、絞殺されるような体勢になるのが最も好きなのだそうだ。
「少しくらい、力を入れてくれてもいいのに」
「無理よ、怖いもの。指の先に抵抗感があるの。自動ブレーキみたいなものかな、それが事故を防いでくれるって訳よ」
「ふぅん、指先って敏感だからねぇ。貴女の良心が、指に宿っているのかもね」
そう言われると、何だか嬉しい。彼女が私の良心を、指を通して褒めて、愛してくれているように思えた。
「次は私の番ね。うつ伏せになって」
彼女の言葉に大人しく従う。ベッドで背面を晒すと、いつも落ち着かない気分にさせられる。その上から彼女が身体を重ねてきた。
「ちょっと顎を上げて。そうそう。じゃ、腕を回すからね」
そう言って、彼女の裸の腕が、私の首に回される。彼女が私の指を好きなのと同様に、私は彼女の腕が大好きだった。彫刻のように美しくて、その腕で裸絞めの体勢に極められると、それだけで私の意識は遠のきそうになる。
「まだ力は入れてないからね。今の内に感触を楽しんで」
彼女はここから力を込めていくのが好きだそうだ。腕は指先と違って、ささくれなどはない。きっと抵抗感もなく、その気になれば、彼女は私を終わらせられるのだろう。
「じゃ、いくわ。殺しちゃったらゴメンね」
彼女の胸が背中に押し付けられて、腕が引かれる。温かい感覚。とても私は幸せだ。