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白薔薇の君に捧ぐ  作者: 冬野ゆな
上巻:彼女の追憶
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2章:出会い

 彼女と出会ったのは、ヴァルハサール魔法学院だった。


 改めて説明は必要無いと思うが、少しだけ触れておこう。

 ヴァルハサールは貴族たちが通う名門魔法学院だ。

 平民用の分校も持ち、通う場所は違えど、魔力を持つ者たちが等しく、そして正しくその力を扱えるように訓練される場所だ。ただ平民の中でも、貴族御用達の高級商人など、比較的余裕のある者たちは本院へ通う。平民用の分校は、あくまで市井の民のためのものだ。


 その特性上、本院はまだ社交界へ進出する前の子供たちの社交の場でもある。私達はここで、多くの人脈を作る。そして、社交界での最低限の礼儀作法を、身をもって学ぶことになるのだ。一部の不届き者などは、未来の嫁探しなどと吹聴しているが。

 だが、王族の方々もまたヴァルハサールへ通う特質上、彼らにとっては切実なのかもしれない。多くの女性、あるいは男性を見極め、自分に見合う血筋と魔力の持ち主を探す。


 特にその年は、第一王子ヴァージル様が入学するとあって、みな浮き足だっていた。

 もしかしたらヴァージル様とお近づきになれるかもしれない、というわずかな期待がありありと見てとれた。わからないでもない。とはいえ学生の本分は勉強にある。王家のほうも勉学や作法もきちんと見ているはずだ。最初からそんな風では里が知れるというものだ。もっと静かにできないものかと思った。

 私にも多くの視線は向けられているのに気付いていた。

 不躾な視線には、私は応じないようにしていた。私にも友を選ぶ権利がある。


 そのときだった。

 ひときわ、妙な視線に気付いた。


 まるで敵視するような視線だった。

 彼女の視線は不思議だった。

 他の人々が、私に向ける視線はほとんど同じだ。どうにか近寄れないか、手ぐすね引いて隙は無いかと窺う視線だ。自分より爵位が上の人間に取り入れば、自分を高められると信じている。だからこれまで、私を見る目のほとんどは――例えるならば裏のある好意のようなものだった。

 しかし彼女ときたら、私のことをライバルか何かのように見ていたのだ。


 私はそのとき、はじめて、他の誰かに視線を向けた。

 その視線に彼女が気付いたかどうかはわからない。なにしろ、ヴァージル様を見つけてそっちに目が奪われていたのだから。さっきとはほとんど別人のような顔に、肩透かしを食らった。

 さきほども触れたが、私はこれまで公爵家の女として、恥ずかしくないようつとめてきた。みなの手本となり、羨望と尊敬を集めねばならない立場でもある。

 それなのに、遙か下の人間から敵意ともとれるような目線は初めてだった。


 彼女は確実に、私のことを知っている。しかもそれは名前や顔ではなく、深いところまで探られるような目線だった。それは後に判明する事実を知れば納得はすれど、そのときの私には興味とわずかながらの――そう、子供っぽい敵対心のようなものを抱いてしまった。


「あたしはあんたのことはぜんぜん知らないのに、あんたはあたしのなにを知ってるっていうの」


 そんな風に思ってしまった。いまから思えば、そのときの私は本当に子供だった。


 ――面白い。


 すっかりヴァージル様の虜になった他の多くの何かになってしまったが、さきほどの視線は本物だ。それなら、その挑戦を受けてやろうじゃないの。いったい誰だかわからないが、私に挑戦する身の程知らずがどんなものか、この目でとくと確かめてやる。

 まさか入学初日で、こんなに面白いことがあるとは思わなかった。


 講堂での挨拶が終わり、私たちは一年生用の教室に入った。

 一年生は共通の座学も多いから、この間に顔を覚えておくのがいいらしい。簡単な説明が終わったあと、これから魔力傾向の調査をすると説明された。傾向調査は簡単だ。まず学院の花である薔薇を模したバッジが配られる。その薔薇の中央には専用の小さな魔力石を埋め込んである。それが魔力と反応し、火なら赤、水なら青と、対応するわかりやすい色に染まる。あくまで傾向に過ぎないが、意外に正確ではないかと思う。何しろ私がバッジを受け取ると、燃え上がるような見事な赤に変わったのだから。周囲から、おお、と歓声が聞こえた。一年生のうちは色が薄い者も多い。だがわかりきっていたことだ。私の魔力は火と相性が良い。

 このバッジが学生の証であり、同時に見ただけで相手の得意分野がわかる。どこまで研鑽を積んでいるかもわかるのだ。ダンジョン探査においても、相性を補う相手を誘ったりすることができる。


 彼女の番が来た。


「ふむ、これは……。風だと思うけれど、もしかすると風の下位クラスかもしれないな」


 そんな言葉が聞こえてきた。

 自分の席に戻っていく彼女の胸元をちらりとだけ見ると、薄い緑のような、黄色いような色をしていた。確かに微妙な色だ。彼女は元からその色を識っていたような目をしていた。この色は今後どのように成長するのだろう。

 もう一度記述しておくが、下位と名前がついているだけで、下位クラスは「特化型」だ。実質的には特化型の方が刃を研げる。

 私はますます彼女に興味が湧いた。

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