ギルドマスターとして不正を処分していく、どれだけ強引な方法を使っても
「じゃあ、処分ね」
集まった関係者一同に向けて沙汰を下す。
それを聞いて、居合わせた全員が驚く。
しかし、そのうち多くは困惑して憤っていく。
そして、一部は喜び感動していく。
「おかしいだろ!」
そう言ってるのは訴えられた方だ。
迷宮に挑む探索者で、問題を起こした者達だ。
それなりの実力があり、有望株と言われてる。
関係者として呼ばれたギルド職員も困惑している。
なぜ、どうしてと呟いている。
その一方で、訴えた側が喜んでるのが対照的だ。
不当な扱いを受けたとしてギルドに問題を提示してきた。
それを受けて聞き取り・尋問・確認をしてるのがこの場だ。
探索者協会、ギルドとも呼ばれる互助会の建物の一室。
そこで話を聞き終えたギルドマスターが沙汰を下した。
普通、聞き取りだけなら双方から事情を聞いて終わりになる。
その後は証拠や証言を集め、状況を考察して審議を判定する。
通常、早くても数日ほどの時間が必要になる。
なのだが、この日は話を聞き終えた直後に結論が出た。
理由は簡単で嘘感知の魔術によって発言の真偽がすぐに分かる事。
これにより発言の信憑性をすぐに調べる事ができる。
おかげで真相がほぼ全てが分かった。
訴えは正当なものであるとはっきりした。
「応援を頼んでおきながら、その報酬を支払わない。
ギルド預かりの蓄えがあるにも関わらずな」
「あれは…………」
「黙れ」
何か言おうとする訴えられた側をギルドマスターは黙らせる。
「約束していた報酬を支払ってないのは確かだ。
その分をこちらの訴えた者達にしっかりに支払え。
未払いだった期間の分の補償も含めてな。
あと、ギルドは今回の件における懲罰金を請求。
預かりからしっかり差し引いておく」
妥当で正当な意見だ。
訴えられた者達は納得してないが、反発する事は無い。
言いたいことはあるが、ギルドマスターから放たれる威圧に抑えつけられている。
「職員の方もだな」
「………… !」
応援の依頼を取り持った職員にも罪がある。
「懲罰金を請求。
支払えないなら強制労働所行き。
その上でギルド追放だ」
これまた適切な沙汰である。
職員は正当な契約を取り持った。
応援依頼の事も、その内容も、誰が出したかも知っている。
にも関わらず、契約不履行、いわゆる踏み倒しをしてるのを黙認していた。
依頼を出した者達の言い分をそのまま取り上げて。
依頼を出した側の言い分は、応援依頼を出したが、相手は仕事をまともにしなかった。
よって、報酬は支払わないというものだ。
本当なら事実確認をしていかねばならない。
真偽を確認せねばならない。
だが、それを怠った。
その理由も判明している。
依頼を出した者達、すなわち訴えられた者達が有力な探索者だからだ。
成果をあげてる探索者は贔屓されていく。
多少の悪さはお目こぼしされる。
そうでないと、迷宮にいる怪物の処分が遅れるからだ。
どうしても成果をあげてる者を優遇しがちになる。
しかし、ギルドマスターはそういった事を決して許さない。
どれだけ成果を上げていようとも、問題を起こす者には厳正な処分を下す。
でなければ、問題がどこまでも拡大するからだ。
それは様々な場所に大きな損害をもたらす。
結果として探索者全体の、さらには社会全体の生産性を下げる。
そうならない為にも、問題を起こす者に厳正な処分をしていく。
能力のある者達を排除する事になってもだ。
短期的には損失になっても、長期的には大きな利益になるからだ。
これについては事あるごとに繰り返してきた。
問題を絶対に許すなと。
しかし、なかなか浸透しない。
問題を起こして処分される者を何人も出し、それらを職員は見てきたはずなのに。
理由は単純なものだ。
納得しない職員がそれなりにいるからだ。
彼らは性格や人間性に問題があっても成果をあげてる者を優先しようとする。
それが迷宮攻略をすすめ、ひいては人類のためになると信じている。
それによってより大きな問題がおこると、そんな考えが間違いだと気付くこともない。
自分達が探索者を、ひいては迷宮攻略を取り仕切ってるという驕りがそこにある。
じつに独善的な態度である。
そうして己の浅い考えによる我が儘を押し通そうとする。
それが正義だと勘違いしている。
更に、探索者への個人的な贔屓というのもある。
今回の場合、担当した女職員が訴えられてる者達を贔屓していた。
訴えられてる探索者が新進気鋭の若手で、それなりに格好いいからだろう。
完全に感情や気持ちを優先してしまってる。
そんな輩をギルドマスターは放置しない。
徹底的に処分をしていく。
「なお、逆恨みの凶行におよばないよう、制御魔印を施す。
ギルドや訴えた者達への凶行は全て制限する」
この決定に訴えられた者達が蒼白になる。
魔印とは、魔術を永続的にかけるための印だ。
刻まれた者には魔術の効果が死ぬまで発生する。
刻まれた者の魔力を用いていくので、効果が消えることは無い。
たいていは能力強化などを永続的に使うために用いられる。
しかし、こうした罰を加える為に用いられる事もある。
この場合、刻まれた者の思考や行動を制限するように用いられる。
マイナス修正を永遠に施されるようなものだ。
望んでこんなものを求める者はいない。
また、この世界においては罪人を表す意味もある。
思考や行動を制限する魔印は、普通に生活してたら刻まれる事は無い。
犯罪者などが今後余計な事をしないようにと施されるのがせいぜいだ。
そんなものを持ってる者はまともな者から敬遠される。
社会復帰などできない。
ギルドマスターはそうするつもりで魔印を刻むと言っている。
問題を起こす者達を野放しには出来ないからだ。
「ふざけんな!」
叫び声があがる。
訴えられた探索者は裁定に文句があるようだった。
当然だろう、今後まともな生活が出来なくなるのだから。
だが、ギルドマスターは取り合わない。
「処分は即日執行とする」
するべき事を進めていく。
そんなギルドマスターに探索者はとびかかっていった。
憤りのままに動いて。
あわよくば、この場から逃げだそうとしていた。
そうしなければ今後まともに生きていけなくなるのだ、他に道は無い。
しかし、相手が悪い。
このギルドマスターは組織を切り盛りする能力があるだけではない。
言ってもきかない乱暴者だらけの探索者を腕力で黙らせるから主人をしているのだ。
襲いかかってきた探索者を叩きのめすことくらい造作も無い。
「バカが」
呟くと同時に動く。
即座に魔術を発動し、訴えられた者達を拘束する。
体を麻痺させて動きを止めていく。
腕に自信があった探索者達も、こうなると何も出来ない。
ついでに問題を起こした職員も麻痺させた。
今後の作業をやりやすくするためだ。
「つれていけ」
控えていた者達にそう言って、処分をさせる。
運び出されていく訴えられた者達は、ギルドマスターが下した沙汰に従った処理がされていく。
今後、まともな人生は送れないだろう。
当然の結果だ。
悪さをしたのだから。
こうして今回の問題は解決した。
悪さをした連中は消えて、まともに活動してる者が残る。
実際、訴えてきた者達は見所のある者達だ。
そんな者達が、今回の件で潰されずに済んで良かった。
ギルドとしても、将来が楽しみな者が残った事で大きな利益になる。
「しかし、悪さをする連中は減らないもんだな」
一人になったギルドマスターはため息を吐く。
この町のギルドを預かるようになってから何年かが経つ。
その間に悪さをする連中、問題の常習犯をことごとく潰してきた。
ギルドの職員も含めてだ。
さらには、これらと繋がっていた犯罪組織の連中も。
そんな犯罪組織とつながってる貴族も。
思った以上に面倒な事が絡んでいた。
それらを超人的な能力で全て解消していった。
おかげで以前よりは問題が減っている。
それでも今回のような事が起こる。
「前世と同じかよ」
記憶の中にある以前の人生。
地球の日本と変わらない問題がこの世界にある。
ギルドマスターは日本からこの世界に転生してきた。
ファンタジーな世界であるが、生活にファンタジー要素はない。
魔術のような超常的なものがあってもだ。
食って、働いて、寝るという生活そのものは前世と変わらない。
人間同士のいざこざも当たり前のように起こる。
利害関係の絡む悪事も存在する。
そんなものに振り回される事も多い。
それらを転生して得た超人的な力でねじ伏せている。
身体能力も魔術を操る能力も、一般的な人間をはるかに超える水準で持っている。
なぜこんなものがあるのか分からないが、使えるものはなんでも使っていく。
無意味な遠慮なぞしない。
してたら何も出来ない。
そんな力を使って迷宮攻略をして。
その功績で探索者のギルドマスターになった。
しかし、なかなか問題は消えない。
悪さをする人間というのはどうしても出てくる。
それらを根絶やしにしてるのだが、それだけでは上手くいかない。
「根気よくやるしかないんだろうけど」
なかなか思うような結果が出てこなくて嘆きたくなる。
それでも、手を緩めるわけにはいかない。
以前に比べれば問題は減ってるのだ。
成果はあがってる。
今日も問題を解決した。
今後も同じように解決していく。
終わることなく今後も何かが起こるにしてもだ。
「平和が一番だけど」
望む状態にはなかなか届かない。
それでも近づいてると信じて今日も励んでいく。
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