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レティシア(4)


 生徒会に初めて女性が入った事は数日中に学園中に広まり、興味津々に注目する者、私でも生徒会に入れるのではないかと淡い期待を抱く者、アリステア様に嫉妬の眼を向ける者など様々だった。


 私は動揺を隠せないでいた。

 オスカー様は、私が生徒会のお仕事を手伝いたいと言った時にはお断りされた。

 そして最近はずっとアリステア様とご一緒されている。

 もちろん授業中などは別だが、放課後の生徒会活動はずっと一緒で、どこへ行くにもアリステア様がオスカー様の傍に控えている。

 昼食も、週に一度の私との会食の日以外は生徒会室で役員の皆様と取られるので、アリステア様と一緒だ。



 私の元気が無いことをファニス様やアンネローゼ様、ライアン様まで心配してくださってお茶や、食事、街に買い物に出かけようと誘ってくださる。


「レティ様、街に出来た新しいカフェが評判らしいですわ」アンネローゼ様が話しかけてきた。


「チョコレートの滝というのがあって、お菓子やらフルーツをその滝にくぐらせて食べるのですって!」


 甘い物に眼がないファニス様はうっとりした顔をしている。


「じゃあ、今日みんなでそのカフェに行ってみないか?」


「あら、ライアン様も行かれますの?」


「俺だけ仲間はずれにしないでくれよ。俺、結構甘い物好きなんだ」


 アンネローゼ様の問いかけにおどけた調子でライアン様が返して、放課後話題のカフェに行ってみる事になった。




 可愛らしい外観のカフェは女性客でいっぱいだった。少し待って席に案内される。


 席が決まると銘々が皿を持ってチョコレートの滝の前に行く。滝の前にはスポンジケーキやフルーツなどが串に刺して籠に置かれ、好きな物を選んでチョコレートの滝をくぐらせ席に持ち帰って食べるのだ。


 飲み物を注文し、早速チョコレートの滝の前に行く。

 珍しい趣向に私も楽しくなり、皆でわいわいと選んでいる時、入り口の方からガヤガヤと男性の声がした。

 女性客が多いこのカフェでその声はとても目立った。


「へー、面白い趣向だな!」


「ああ、これはいいんじゃないか?学園祭のパーティーで出店してもらえれば女性たちが喜ぶんじゃないか?」


「アリステアもいいところに目をつけたな」


「私市井育ちですから街のお店とか詳しいんです」



 振り返ると生徒会の面々がカフェに入ってくるところだった。


「オスカー様……」


 私が呟くとオスカー様も私に気付いたようだった。


「レティシア」


 近づいてくるのに動揺して一歩後ろに下がるとフルーツの籠にぶつかった。


「おっと、大丈夫?」


 支えてくれたのはライアン様だ。お礼を言っていると、オスカー様が眉間に皺を寄せつかつかと来たと思うと私の腕を掴んでしっかりと立たせた。


「アリステア、先に席に行ってくれ」


 ()()()()()……女性を呼び捨てになさるのは初めてだ。

 目の前が真っ暗になった私はそのあと何を話したのかもわからず、ただ相槌を打っていた。



 席に戻ると皆が気まずそうにしている。


「なあ、俺達も愛称で呼び合わないか?」


 唐突にライアン様が言った。


「「「愛称?」」」


「ああ。ほら、生徒会は殿下以外は皆名前呼びだろ。俺達だって友達だよな」


「いいかもしれません!」


「ファニス様?」


「だって、〝ファニス様〟って呼び方ちょっと固いじゃないですか。〝ファニー〟とか呼んでくれたらもっと親しくなれると思いません?もちろん〝様〟は無しで」


「じゃあ私も〝アンネ〟でお願いするわ」


「俺のことは〝ライ〟でも〝ライアン〟でもいいよ」


「男の人を呼び捨てにするの、恥ずかしいわ」


「何言ってんの。友達だろ。そのうち慣れるよ」


 アンネの言葉をライは軽く受け流し、皆で私のほうを向くので私も少し恥ずかしいけど勇気を出して言った。


「私もレティでよろしくお願いします」


 だってこれは私の為だから。

 呼び捨てなんて珍しくないよ。友達同士でもするんだから気にするな。っていうみんなのメッセージだから。


「よろしくな、レティ」


 ライがそう呼んだ時、オスカー様のテーブルの方でガタガタッと音がした。何かあったのかしら?





 

 第二回テスト間近のある日の放課後、私はファニーとアンネと三人で廊下を歩いていた。

 図書館に行って三人で勉強しようと約束していたのである。ライも行きたいと言ったが選択の授業の課題があるらしく、終わったら行くと言っていた。


 空き教室から言い争うような声が聞こえて私たちは足を止めた。


「ですから!受け取れませんと言っているじゃないですか!」


「そんなこと言わないでくれ、アリステア。僕の気持ちなんだ!」


 その言葉を聞いてファニーがガラッと教室の扉を開けた。


 教室に居た二人がこちらを見た。


「ファニス……」


 ファニーの婚約者のマービン様とアリステア様だ。


「失礼します」アリステア様は教室を出て行った。出て行くときになぜか私に訴えるようなまなざしを向けて。


「私達も先に行ってるわね」アンネが声をかけ、私と二人で教室を後にした。




 図書館で勉強をしていると、しばらくしてファニーがやってきた。

 真っ赤な目をしているが、表情はどこかすがすがしく感じられた。


「婚約解消してきちゃった」


「「ファニー……」」私たちは言葉が出ない。


「いいの。彼とは領地が隣同士で幼馴染みたいなもので……

 どっちも貧乏子爵家ですからね。二人で王宮に就職できるように頑張ろうねなんて言ってたんだけど」


「ホントにいいの?マービン様は……一時の気の迷いじゃないの?」


「そうよ。アリステア様に相手にされてなかったし、マービン様も目が覚めたんじゃないの?」


 私の言葉にアンネも同意を示すが、ファニーは吹っ切れたようだった。


「そうだとしても私がもう無理なの。マービンも馬鹿よね。相手にされる訳ないのに……

 だいたいアリステア様はオスカー殿……っとごめん」


「ねえ、パーッと甘い物でも食べに行かない?」


 アンネの明るい声にファニーも無理して明るい声を出す。


「いいわね!私今日はうーんと食べよう!」


 そうして私たちは遅れてきたライも無理矢理つき合わせてケーキバイキングへ行った。



 第二回テストは私とアリステア様が同点一位だった。


 


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