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アリステア(2)


 その男の人は校舎裏に面した窓際に椅子をぴったりくっつけて座り、窓にもたれて眼を瞑り、歌声に聞き惚れていた。

 唇は幸せそうに弧を描き、うっとりとした表情を浮かべている。


 一曲終わった後、余韻を楽しみ、その男の人はゆっくり眼を開けた。

 私に気付き吃驚した表情を浮かべる。


「あの――」


 私が話しかけようとすると、男の人はシーと言うように唇に指を当てた。


 二曲目が始まった。


 私も椅子を持ってきて男の人から少し離れて座る。

 そして二人で眼を瞑って歌声に聞き惚れた。


 三曲目が終わった後、どんな人がこんな素晴らしい歌を歌っているのだろうと、そーっと窓から校舎裏を見下ろした。

 そこにいたのは……


 ああ、この感動をどう伝えたらいいのだろう……この世の全ての神に感謝を!!!


 歌っていたのは私の女神、レティシア様だったのだから。



 それから数度、この場所で男の人と遭遇した。

 彼は名乗らず、私も名乗らなかった。ただ二人でレティシア様の歌を堪能するだけだ。

 彼の表情を見ているとレティシア様のことがとても好きなんだということが伝わってくる。

 でも私は心の中で思っていた。

〝レティシア様好きは私も負けていないわ。レティシア様好き歴は私の方が長いはずよ〟




 

 第一回定期テストの結果が貼りだされた。ジュヴィル様達に連れられホールに見に行く。


 わ、私の名前がレティシア様の隣に!!


 感激に震え、この紙、レティシア様と私のところだけ切り取って貰えないかしら~なんて考えていると、ジュヴィル様に突然手を引かれた。

 ジュヴィル様はホールの入り口に立っている男の人のほうに私を連れて行く。

 あ、レティシア様が男の人の近くに立っている。久々の接近だわ!眼に焼き付けないと!


「オスカー殿下!」ジュヴィル様が呼んだ。


 私は驚いて男の人を見る。更に驚いた。あの旧校舎で一緒にレティシア様の歌を聞いていた男の人だった。

 彼も驚いたような顔で私を見ていた。


「オスカー殿下、私は生徒会の役員にこのアリステア・サルトン嬢を推薦したいのですが」


 




 ジュヴィル様の提案は生徒会室で相談される事になり、私とジュヴィル様はオスカー殿下と生徒会室に向かう事となった。



 生徒会室に入ると、三人の男の人が居た。

 皆でソファーに座る。執事のような人が紅茶を入れてくれた。生徒会室には専属執事がいるらしい。


「先ほど、ベルナールよりこの女性を生徒会役員に推薦すると提案を受けたのだが」


 オスカー殿下が切り出すと皆、驚いたような表情を浮かべた。


「確かに、ヒューゴ前会長をはじめ先輩たちが卒業して以来生徒会は人材不足に苦労しておりましたが、生徒会役員は凡庸な人間には務まりません。ましてや女性など」

 

 と言ったのは殿下と同じ三年生のストランド・バルシェック公爵令息。副会長を務められているらしい。


「そうですね。女性が生徒会役員だった事など今まで無かったのではないですか?」


 と、同じく三年生のギルフォード・ラッセル伯爵令息。


「ですが、アリステア・サルトン嬢は人柄もよく真面目で、編入して初めてのテストなのにもかかわらずレティシア・クレイトン嬢と二点差の二位だったのです」


「ほお、クレイトン嬢と二点差か」ストランド・バルシェックは興味を持ったようだった。


「私は、女性が生徒会役員になってもよいと思うが。

 たしか、規約にも男性でなくてはならないとは書いていなかったな」


「そ、そうです!」


 オスカー殿下の肯定的な言葉にジュヴィル様が食いついた。


 他の皆も会長である殿下がOKなら、と了承した。


「ではサルトン嬢、これからよろしく頼む」


 とオスカー殿下が手を差し出した時点で、私は口を開いた。


「あの~発言してもよろしいのでしょうか?」


 今まで黙っていたのは発言してもいいのかわからなかったからだ。

 学園内は一応平等を謳っている。学生のうちは身分関係なく発言してよい事になっているが、王族に対しても適用されるのかわからなかったのだ。


「もちろん。学園内は平等だ。いつ発言してくれても構わない」


 殿下がそう言うなら大丈夫だろう。


「私、生徒会に入るんですか?さっき初めて聞いたんですけど。私の意志って関係ないのでしょうか?」


「え?君が希望したんじゃないの?」ラッセル様の言葉にジュヴィル様が慌てる。


「いや、あの、その、生徒会に入れるとなったら当然喜ぶものと……」


「ちょっとサルトン嬢と二人で話したい」


 殿下が私を部屋の隅に連れて行った。


「私が君を生徒会に入れたいのは、君に将来レティシアの側近になってもらいたいからだ」


 な、な、なんですとぉぉぉ。


「やります!生徒会!」


「早いな。私が君に期待するのは侍女とは違う側近なんだ。私は第一王子で王太子になる可能性が高い。その妃ともなれば政治的判断を下さなければならない場面も多々あるだろう。その時レティシアを支える人材になって欲しいんだ」


「も、もちろん、誠心誠意お支えします!」


 前のめり気味に答える。


「ではこの一年間、私の補助をして精一杯学んでくれ」



 私は皆様の前に戻り、声高らかに宣言した。


「不肖アリステア・サルトン、精一杯学んで少しでも皆様の助力になるよう頑張ります!

 皆様、よろしくお願いします!」






 

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