レティシア(10)
「納得できませんわ!!」とパメラ様は言った。
「レティシア様は殿下に相応しくありません!!」とも。
「オスカー殿下、レティシア嬢はそこにいるアリステアを拉致し、旧校舎に監禁、害そうとした。
その現場を発見したのは我々ではありませんか!殿下もその目でご覧になりましたよね?
わずか一週間前のことです。よもやお忘れではありませんよね」
こう言ったのはストランド様だ。
そのお二方は騎士に連れられてホールに入ってきた人たちを見て顔を青くしている。
オスカー様が口を開いた。
「二人とも、後日王宮に呼ぼうと思っていたのだが、この場で解決してしまった方がいいだろう。
皆の前で解決すればつまらない噂が広がることもないだろうしな。
何より君たちが望んだことだ」
オスカー様は騎士に合図をした。騎士に連れられ一人の男の人が前に出てきた。
「彼が、一週間前に起こった事件の犯人だ」
皆が騒めいた。
「一週間前、ここにいるアリステアとレティシアが旧校舎の倉庫に監禁された。
ほんの短い時間ではあるが、二人を薬で眠らせて倉庫に閉じ込め私たちに発見させた。
誰に頼まれてそんな面倒くさいことをしたのか教えてくれ」
オスカー様が問いかけると、その男の人は観念したように口を開いた。
「ストランド・バルシェック様です」
「違う!!私はそんな事頼んでいない!
殿下!これは私を嵌めるための陰謀です!レティシア・クレイトンが企んだに違いない!」
オスカー様はストランド様の言葉を無視して続けられた。
「君にはどんな見返りがあったんだ?」
「……私は国立の薬学研究所に就職できなくて……そんな時、ストランド様が、バルシェック家がスポンサーの研究所に入れてくれると言ったんです。やってもらうことは簡単なことだ。それだけで研究所が費用を出して隣国の技術も学びに行かせてあげられると。貧乏男爵家の次男の私には夢のような話だったんです」
学園の生徒たちは皆、混乱しているようだった。
今までオスカー様はアリステア様と恋人同士だと思っていた。それで私が嫉妬して事件を起こしたと思っている方がほとんどだったのだ。それが、思いもよらないストランド様が黒幕という話に理解が追い付かないようだった。
私は私が犯人ではないことはもちろんわかっていたが、実はオスカー様が私を好きでいてくださって(それもかなり好き?)本当の犯人を突き止めてくださったことに驚いていた。
「出鱈目だ!殿下、その男はきっとレティシア嬢に買収されているのです。私はそんな男見たこともない」
往生際悪くストランド様が言い募ったが、先ほどの待遇を約束する旨の確約書を出され黙るしかなかった。
確約書にははっきりとストランド様の署名がしてあったのだから。
オスカー様は尚も続けられた。
「学園祭で、アリステアが切り付けられた事件だが」
今度は女の人が騎士に連れられて前に出された。メイド服を着ている。
「パメラ嬢、君の屋敷のメイドだろう。それも君付きの。彼女がアリステアを傷つけたと告白したよ」
え?あの時パメラ様は私がアリステア様を傷つけたと騒ぎ立てた。すべて仕組まれていたの?
パメラ様の取り巻きの令嬢たちがさっとパメラ様から離れた。
「ち、違うわ!この女が犯人よ!あなたたちも見たでしょう!」
パメラ様は私を指さして叫ぶが誰も信じていないようだった。
「パメラ様は私たちを利用なさったんですね」
令嬢の一人が意を決したように言ったが、パメラ様は鼻で笑った。
「何をおっしゃってるの?さんざん私と一緒にそこの女をあなたたちもバカにしてたじゃない。
氷のように冷たい女。お面のように無表情な女。オスカー殿下には相応しくないって。
あなたたちが言ったのよ。パメラ様の方がよっぽどお似合いだ。家格も容姿もパメラ様がオスカー殿下に相応しいって」
「私たちはパメラ様に騙されたのですわ!」
パメラ様と取り巻きのご令嬢たちは罵り合いを始めた。
終止符を打つようにオスカー様が声を上げた。
「今あげた件以外にも確かめたいことがある。ストランドとパメラ嬢は騎士たちと一緒に王宮に向かうように。王宮で改めて取り調べがある。
ヒューゴ、よろしく頼む」
オスカー様の言葉にいらいらと周囲を見回していたストランド様が頭を上げた。
射殺すような視線をヒューゴ兄様に向ける。
「貴様!ヒューゴ・カーティア!貴様が何で殿下のお傍にいる!伯爵の次男風情のお前が!
殿下の側近に相応しいのはこの私だ!お前は目障りなんだ!」
「ストランド、私の側近に相応しいのは出自ではない。その能力と人間性だ。
私はお前の能力も買っていた。真摯に仕事をし、下位の者たちに慕われていれば側近として私を支えてほしかったんだ。
……それからヒューゴの名前が間違っている。先日クレイトン侯爵家との養子縁組がまとまって彼はヒューゴ・クレイトンになった。皆も承知しておいてくれ」
ストランド様はオスカー様の言葉を聞くとがっくりと項垂れパメラ様と共に騎士に従って会場を後にした。
ヒューゴ兄様が(義理だけど)私のお兄様になった!
私の疑いもオスカー様が晴らしてくださった。
何より、オスカー様が私のことを好きでいてくださった!!
今まで悩んでいたことは全部気のせいだったのだ!
私は嬉しくて嬉しくて歌いだしたい気分だった。
オスカー様はそんな私を見ていたずらっぽく微笑んだ。
「シア、お願いがある。今日の記念にシアの歌を聴かせてくれ」
え?知って……?
オスカー様の言葉に歓声を上げたのはアリステア様とファニーとアンネ?
私も物凄く吃驚したが、彼女たちもお互い顔を見合わせている。
ほかの人達はオスカー様の言葉に戸惑っている。
「はしたない」とか「侯爵家の令嬢が」と眉を顰める人も少なくない。
その人たちを完全に無視してオスカー様は私を促した。
私は覚悟を決めた。何を言われようとオスカー様が聞きたいと言ってくれた。
それに何より私が歌いたい! この喜びを歌にのせてみんなに聞いてもらいたい!
卒業パーティーの会場である学園の一番大きなホールに涼やかな歌声が響き渡った。
その歌声はどこまでも伸びてゆき、時に春の小鳥のさえずりのように、時に夏の激しい夕立のように、時に優しく、時に激しく人々を魅了した。
眉を顰めていた人たちもいつしか引き込まれ、うっとりと耳を傾けていた。
そして一心不乱に歌うレティシアはいつしか微笑みを浮かべていた。
歌うことが楽しくて楽しくて仕方ないというような幸せに満ち溢れたその表情にも聴衆は魅了された。
歌い終わったホールには静寂が訪れた。
一人が拍手を始めると我先にと皆拍手をし、やがてその拍手はアンコールの渦に変わっていった。
飛び上がって喜んでいるアリステア様が見える。
ファニーとアンネが満面の笑顔で手を振ってくれている。
その横のライはどこかさみしそうにも見えるが、目が合うと「よかったな」というように口が動いた。
オスカー様が私の肩を抱いた。見つめあって微笑みあう。
オスカー様の微笑みに背中を押され、調子に乗った私はそのあと三曲も歌ってしまったのだった。
—————(おしまい)————
———後日談
「シア、パーティーの時は嬉しくてニヤケてしまったけど、私はクールな男なんだ。これからもクールでいるから……嫌いにならないでくれ」
「??私はオスカー様の微笑みが見れて嬉しかったです」
「??シアはクールな男が好きなんだよな?」
「いえ?特には?強いて言うならオスカー様の笑顔が好きです。
きゃっ言っちゃった!」
「それは嬉しいが……シア、覚えているか?十歳のころ王宮に遊びに来た時、本を持っていただろう。その本に出てくるクールな男が好きだと……」
「?本は好きですが」
「本?」
「はい、お気に入りの本なら何冊かありますけど」
「———ちなみにシアはどんな本が好きなんだ?」
「氷の騎士と囚われの姫」 それはクール男子の本だな。
「バラの庭園でお茶を」 それはベタベタ甘々な恋愛小説だ。
「パラディーン帝国の興亡」 それは難解な歴史書だ。
「族長の食卓」 それは……遠い異国の料理のレシピ本だ。
オスカー・アロイス・ダンヴィードは必死にクール男子を装っていた今までの苦労がすべて無駄だったことを知り、これからは最愛の婚約者(もうすぐ妻)と密にコミュニケーションを取っていこうと決意した。
最後までお読みくださってありがとうございます。
番外編もそのうち投稿したいと思っていますがひとまず完結です。
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