オスカー(5)
その晩、レオナールが私の部屋にやってきた。
「ヒューゴ先輩じゃないですか~帰国されてたんですかぁ~?」
「ええ、帰国してまっすぐここに来たんですが何やらいろいろな事が起こっているみたいですね」
「そうなんですよ~。まあ怪しい人物はいるんですけどね~、証拠がなくて~」
「今日の事件に関してはアリステアを誘い出した人物を特定できればいいんだが」
「それなんですけど~、アリステアちゃんが気になること言ってたんですよ~」
私が話を向けるとレオナールが有力情報を話した。
「薬品の臭い?」
「嗅がされた薬の臭いではなくて?」
「その男が話しかけてきた時から感じたそうですよ~。アリステアちゃん鼻がいいって前言ってたじゃないですか~。薬品関係を専門に勉強してる人かな~って思ったんですって~」
「それはあり得ますね」ヒューゴが言った。
「ヒューゴ、私たち三人しかいないんだ。いつもの口調でいいぞ」
私がそういうとヒューゴの雰囲気がぐっと砕けた。
「じゃあ、失礼して。オスカー、お前たちが倉庫に踏み込んだ時レティは意識があったんだよな」
ヒューゴは両親以外で唯一私を呼び捨てにする人物だ。私もそれを許している。内輪の時限定だが。
「ああ、ちゃんと立っていたし話もしていた」
「もう一人のアリステア?って女の子はしばらく意識が戻らなかった」
「そうか。薬の量を調節したんだ」
「そんなことができるってことは薬品に詳しいってことだ」
ここでレオナールが疑問を投げかけた。
「でもそんなにうまくいきますか~?」
「そうだな。そんなにタイミングよく目覚めさせるのは無理だろう」
ヒューゴも賛成したが、私はある確信があった。
「レオナール、私たちが倉庫に行った時、すぐ踏み込んだ訳ではないよな」
「ん~、周囲を探したり二階を調べに行こうかって話してましたね~」
「ああ、そうしたら急にストランドが倉庫の中で物音がするって言ったんだ」
「タイミングを計ってたってことですか~?」
「わかったぞ。つまり犯人は倉庫の中にいたんだな」
ヒューゴも理解したようだった。
「ああ、その時は気が付かなかったが今はそう考えている。
薬の量を調整して二人を眠らせた犯人は倉庫の中に隠れる。薄暗くてあれだけ物が多いんだ。隠れ場所には困らないだろう。レティシアが気が付き、やがて私たちがやってくる。犯人は何らかの方法で外のストランドに合図をして絶妙のタイミングで踏み込ませたんだ」
「じゃあ僕たちが踏み込んだ時、犯人は倉庫のなかにいたんですか~?もしみんなで調べたらばれちゃいますよ~?」
「だが、私たちはレティシアとアリステアの二人しか目に入ってなかった。ほかの人物が隠れているなんて思いもよらなかった。
多分ストランドは私をあの場から遠ざけようとしただろう。アリステアを一刻も早く医者に見せた方がいいとか言って。
まあ、それを言い出す前に私がレティシアを連れてあの場所を離れてしまったわけだが……」
「ストランドは現場の指揮権がほしかったんだな」
「ああ、ヒューゴ、そうだと思う」
「どういうことですか~?」
私はレオナールに説明をした。
「ストランドに指揮権があれば聞き込みに行ってくれとか○○を調べてきてくれと言って皆を倉庫から遠ざけられるだろう。誰もいなくなってからゆっくり犯人を逃がせばいい」
「なるほど~!じゃあ僕はその時間に絞って聞き込みをしてみますね~」
レオナールはそう言った後、私に念を押した。
「オスカー殿下~、黒幕はストランド先輩ってことでいいんですよね~?」
「多分そうだろう。状況証拠しかないが」
「ストランドか。あいつは俺が在学中もいろいろ仕掛けてきたからな」
突然のヒューゴの話に私はびっくりした。
ストランドはヒューゴにも醜聞や失策になるような罠を何度も仕掛けていたらしい。
ヒューゴはそれをすべて回避したということだ。
「あいつはオスカー、お前の一番の側近になりたいんだ。そしてゆくゆくは宰相の地位だな。
それとあいつの妹は王子妃、いや王太子妃か。
あの兄妹にとって俺とレティシアは目の上のたんこぶなんだ」
愚かなことだ。ヒューゴがいなくてもストランドを選ぶことはないしレティシアがいなくてもパメラ嬢を選ぶことはない。
選ぶことはないが、ヒューゴもレティシアも私にとってかけがえのない存在だ。
「まずはその男が誰なのかを調べよう。薬品に詳しい生徒を重点的に調べてみよう」
「僕はさっき言った目撃者がいるかどうか調べますね~。それとアリステアちゃんの腕を切った人物なんですけど~」
「どこかのメイドとか言ってたな」
「十中八九バルシェック家のメイドですね~。目星はついてるんですけど公爵家のお屋敷から出てこないんで~身柄の確保ができないんです~」
「罠を張っておびき出すか。俺も協力するよ」
「人手が足りないな。オスカー、ギルフォードは信用できると思うが、どうだ?
それと、アリステアという子は?」
「どちらも大丈夫だ」
「じゃあ次からはその二人も交えて相談しよう」
そして五日目、私たちはようやくその男の名前を突き止めた。
マルティン・オランダ― 男爵家の次男だ。
三年生で薬学の研究所への就職を希望していた。国立の研究所はダメだったが、バルシェック家がスポンサーの研究施設に就職が決まったらしい。
だが、彼の行方がつかめなかった。学園には来ていない。寮にもいない。怪しまれぬよう友人のふりをして問い合わせたが、男爵家へも帰っていなかった。
今までの様々な事件を裏で糸を引いていたのはストランドとパメラ嬢だと思われる。
一つ一つは些細な事件で、先日の倉庫の事件にしても狙われたのが第一王子である私の婚約者でなければ大した罪にはならないことだろう。
しかし私はもういい加減終止符を打ちたかった。
証拠はいろいろ集まってきてはいたが、若干弱い。やはりマルティン・オランダーの身柄を抑えたい。
実際にレティシアに薬を嗅がせた彼は、身の安全や今後の保障のための確約書のようなものを持っているはずである。
それを押さえたかった。




