オスカー(4)
卒業まであと一週間。
その日私は久しぶりに学園に登校していた。
生徒会の最後の引継ぎと会長指名のためである。
今日は生徒会の役員は全員登校している。
私はとても機嫌が良かった。
一週間後の卒業式、そして次の日の卒業パーティーへの準備は万端だ。
なんといってもメインは卒業パーティーでのレティシアへのプロポーズだ。
ドレスやアクセサリーは事前に侯爵邸に贈った。
ちょっと私の色を前面に押し出しすぎたかもしれないが、記念のドレスだ。許されるだろう。
父である国王陛下、レティシアの父親の侯爵にも了解を取り付けた。
国王陛下の了解はすぐ得られたが、侯爵の方は難航した。
かわいい娘を少しでも長く手元に置きたいとかなり渋られたが連日説得し、やっと了解を得た。
卒業パーティーの次の日から結婚へ向けての準備が始まる。
母上は手ぐすね引いて待っている。
ヒューゴの養子縁組の手続きも前倒しで行われる。
レティシアとの婚約が決まった時に、侯爵家の一人娘が嫁いでしまうためヒューゴが将来侯爵家に養子として入ることも決定していた。
そのためヒューゴの帰国も若干早められることになった。
花束と指輪も手配済みだ。後は当日取りに行くだけである。
生徒会室に皆が集まってきた。
皆が集まっている中でアリステアだけが姿を見せない。
また何かあったのだろうか。学園祭の事件が頭をよぎる。
「学園祭の時のように何かあったのかもしれない。探しに行きましょう」
ストランドの言葉を受け、皆で探しに出た。
手分けして聞き込みをするとアリステアが旧校舎の方へ歩いていくのを見たものがいた。
レティシアを見かけて歌を聴きに行ったのだろうか?会議の時間も忘れて?
アリステアらしくないなと思いながら、皆で旧校舎に向かった。
もしレティシアの歌声が聞こえてしまったら不味いかな?と思ったが、止めるすべはない。
「念のために倉庫の鍵を借りてきましょう」ストランドが鍵を借りて戻ってきた。
皆で旧校舎に足を踏み入れる。
あたりを調べたり、二階を見てきましょうかと話し合っているときにストランドが「倉庫の中で物音がする」と言い出した。
鍵を開け、ドアをバンッと開くとともに誰かの声が聞こえた。
「ここで何をしている!」
同時にストランドが大きな声を上げたが、聞き覚えのある声に急ぎ倉庫に足を踏み入れる。
「レティシア!」
私の声と同時にギルフォードも声を上げた。
「殿下!アリステアが倒れています」
「レティシア嬢!アリステアを害そうなどと愚かなことを」
ストランドがレティシアの腕を掴む。
ストランドがいろいろ言っているが、私がレティシアを疑うわけがない。
が、レティシアの次の言葉でカッと頭に血が上った。
「誰かに呼び出されて薬を嗅がされたのです!
オスカー様!信じてください!」
レティシアに誰かが薬を嗅がせた!レティシアの身に危険が及んだのだ。
必ず犯人を捕まえる!いやその前にレティシアの身の安全の確保が先だ。
私はストランドからレティシアを奪い返すと有無を言わさず侯爵邸に送り届けた。
侯爵に事件のことを説明し、早急に事件を解決するのでしばらくレティシアを侯爵邸に留めておくよう依頼した。
侯爵家から引き返し、馬車から降り歩き始めた時だった。
「オスカー殿下、ただいま戻ってまいりました」
「ヒューゴ!!」
隣国から戻ったヒューゴはまず初めに私のところに顔を出してくれた。
「レティは?」との言葉に、私は事件のことをかいつまんで説明した。
「ふう……ん、私は帰国したことをもう少し伏せておきますよ。内緒で殿下の部屋に滞在していいですか?後でレオナールを呼んでください。三人で相談しましょう」
私はヒューゴを連れて寮に向かい、寮の職員にヒューゴが私の部屋にしばらく滞在すること、これは極秘事項であると告げた。
学園内に足を踏み入れると皆が騒然としていた。
旧校舎の事件は瞬く間に広がり、その内容は『私の婚約者であるレティシアが私と恋仲にある(どう見たらそう見えるんだ?)アリステアに嫉妬し、旧校舎の倉庫に監禁、害そうとした。レティシアは私の手によって捕らえられ、侯爵邸において謹慎中である』というものだった。
私は全生徒に『事件は調査中である。憶測で犯人を特定したり、不確定な噂をすることを禁ずる』と通達を出したが、どの程度守られるかはわからない。犯人サイドが故意に広めているのは明らかだ。
レティシアの名誉が傷つけられるのは不愉快だが、犯人サイドを油断させるため、目をつぶることにした。
生徒会役員を集めて話を聞く。
私がレティシアを連れて行ったあと、ストランドの指示のもと生徒会役員たちは情報収集に努めた。
アリステアが、男子生徒と旧校舎へ向かったこと。
レティシアが一人で旧校舎に向かったこと。
倉庫の鍵は事務室に保管されていたこと。ただし、事務室への生徒の出入りは自由で倉庫の鍵は滅多に使われないので誰も注意を払っていなかったこと。
ナイフはライアン・アルデュールの物で三日ほど前に紛失したと言っていたこと。
皆で話をしていると、アリステアが目覚めたと連絡が入った。
「アリステア、体に異常はないか?」
「オスカー殿下、どうしてここに?いえ、私はどうしてここに?私、一体……?」
「君は薬を嗅がされて眠っていたんだ」
「あ!」アリステアは思い当たったようで、体を起こそうとした。
「いや、寝たままでいい。まだ薬の影響があるかもしれない。
寝たままでいいので何があったか教えてくれるか?」
アリステアの話によると———
そろそろ生徒会室に向かおうかという時に男子生徒に話しかけられた。
旧校舎の倉庫に保管してある物を取り出したいのだが、生徒会役員が立ち会わないと持ち出せないので立ち会ってくれ。というものだった。
彼女はそんな話を聞いたことがないので、ほかの者を呼んできましょうか?と言ったが、ただ立ち会うだけでいいからと言われ、会議まであまり時間もなかったので、後にしてくれと言ったが、急いでいる、すぐ済むからと押し切られ、急ぎ旧校舎まで行った。
倉庫に入り、その男に「あ、あそこにあるものを取ってくれ」と言われ身を乗り出した時、鼻と口を布のようなもので塞がれた。
気が付くと医務室のベッドに寝ていた。
「その話しかけてきた男の特徴は?」
「髪の毛の色は黒で、後ろは襟足ぐらいの長さ。前髪はかなり長くて顔がよく見えませんでした。おまけに分厚い眼鏡をかけていたので人相はわかりません。
背丈は中肉中背で……特徴ありません。あ!」
アリステアは何か思いついたようだったが、話すことをためらったようだった。
私は目配せをしてから、皆を促して医務室の外へ出た。
「アリステアもあまり長い時間話すと疲れるだろう。ゆっくり休んでくれ。
レオナール、もう少し彼女についてあげていてくれ。
さあ、皆は引き上げよう」
そしてレオナールに夜私の部屋にこっそり来るよう耳打ちして生徒会室に引き上げた。
生徒会室で調べた情報について、誰がどこに行ってどんな情報を仕入れてきたのかを確認してその日は解散することにした。




