レティシア(9)
私は出来るだけ優雅に、あなたの瞳に美しく残るようにカーテシーをした。
「すべてあなたのお望みのままに。私はあなたの言葉を全て受け入れます」
オスカー様は一瞬呆けたように顔を上げ、次の瞬間、とろけるような笑みを浮かべた。
私が婚約期間中見たこともない笑みを。欲しくてたまらなかった微笑みを。
「シア!!ありがとう!」
オスカー様はつかつかと私に近づくと抱き上げた。
「きゃあ!?」
抱き上げたままその場でくるくると回る。
オ、オスカー様、抱き上げる相手が違います!
私は焦ってアリステア様を探す。
アリステア様はオスカー様の近くで眼を爛々と輝かせながら私たちを見ていた。
やっとオスカー様は私を下ろしアリステア様を見た。
「アリステア、君のおかげだ」
「オスカー殿下、おめでとうございます」
二人はハイタッチをしている。
私を含め卒業パーティーの会場にいた者は全員、意味が分からずポカンとしている。
誰かが恐る恐るオスカー様に問いかけた。
「あの~殿下、殿下は婚約破棄をしたのでは?」
「は!?何を言っている?私が婚約破棄などするわけないだろう」
「え?でも、殿下は先ほど……」
「私は婚約期間を終わりにしてくれ。と言ったのだ」
「ですから、婚約破棄———」
皆、オスカー様の仰る意味が分からず困惑している。
「婚約期間が終われば次に来るのは結婚だろう!!」
わかりづらっ!会場の全員がそう思っただろう。
え?え?ちょっと待って?オスカー様は私と結婚したいと言ったの?
今までと正反対の展開に頭が追い付かない。
オスカー様は急に不安そうに私を見た。
「シア?シアも婚約破棄だと思っていたのか?私の気持ちを疑ってなどいないよな?」
そう聞かれて「はい、疑ってました」などと言えるわけがない。
「い、いえ……私はオスカー様をお慕いしておりますから」
何とかその言葉をひねり出す。これは嘘じゃない。ずっと心の中にある真実だ。
「そうか!やっぱり私たちは相思相愛だな!」
オスカー様は満面の笑みで仰るが、今までその微笑みをどこに隠していたのでしょう。
オスカー様は私に向かって微笑むと肩を抱き寄せ私の頬にキ、キ、キスをした。
オスカー様に愛されている実感が急に湧いてきて私は顔が赤く染まっていくのを抑えることができない。
「シア、かわいい。
さあ、ファーストダンスを踊ろう」
オスカー様が私をエスコートしようと手を差し伸べたとき、抗議の声が上がった。
「納得できませんわ!!」
抗議の声を上げたのはパメラ様。扇を持つ手もぶるぶると震えている。
カツンと足音がしてパメラ様の横に立ったのはストランド・バルシェック様。パメラ様のお兄様だ。
「オスカー殿下、レティシア嬢はそこにいるアリステアを拉致し、旧校舎に監禁、害そうとした。
その現場を発見したのは我々ではありませんか!殿下もその目でご覧になりましたよね?
わずか一週間前のことです。よもやお忘れではありませんよね」
「そうですわ!!レティシア様は殿下に相応しくありません!!」
「忘れてなどおらぬ。いや、今は嬉しさのあまり忘れていたな」
そう言ってオスカー様は苦笑した。
「そうだな。この問題を先に片付けなくてはいけないな。この問題だけでなく今まであったすべてのことを」
オスカー様は合図をするように右手を挙げた。
会場に入ってきたのは騎士に連れられた数人の男女。
そしてその後ろから姿を見せたのは———
「ヒューゴ兄様!」
会場に入ってきたのは隣国に留学していたヒューゴ兄様だった。




