アリステア(6)
『誰にも見つからないように3階の一番右端のサロンに来てほしい』
オスカー殿下から呼び出しを受け、私はサロンを訪れた。
ノックをして部屋に入るとそこにはオスカー殿下と一年生のレオナール・キュイック様がいらした。
珍しい組み合わせだ。レオナール様は候爵家の次男で栗色のふわふわした髪の毛とくりくりした瞳を持つ愛らしい容姿の方だ。いつもニコニコしているが何を考えているのかよくわからない人という印象だ。
挨拶をしてソファーに腰を下ろす。
サロン専属のメイドが紅茶を入れて退出するとオスカー殿下が口を開いた。
「ああ、不思議そうな顔をしているな。レオナールとは昔からのつきあいでな。ちょっと変わっているが信用できる奴だ」
「オスカー様、変わってるはひどいですよ~」
私はびっくりした。オスカー殿下とレオナール様がこんなに親しそうに話すのを聞いたことがなかったからだ。
「レオナール、アリステアが襲われた件、どうなっている?」
「うーん、もうちょっと時間かかるかなあ。どっかのお屋敷のメイドらしいってとこまではわかったんですけど~、今絞り込んでいるとこです~。ま、予想はついてますけど~」
「わかった。引き続き頼む」
「それと~、前にレティシア嬢が一人で街に出て足を怪我して帰ってきた事あったでしょ~」
「よく知ってたな」
「その時~街で二人組の男につけられたんですよね~?」
「ああ、逃げたときに足をひねったと言っていた。決して一人では出歩かないように釘を刺したが」
「その二人組の男も怪しいんですよね~」
「何!?」
「この街に駐在している騎士が目撃しているから調べさせてます~」
これまでの会話で私はレオナール様の印象が全く変わってしまった。
口調こそ今までのゆるふわな話し方と変わらないが……
「アリステアちゃん、びっくりしちゃったね~。オスカー様、僕の素性、話しちゃっていいんでしょ~」
「アリステアは信用している。一年近く彼女を見てきたからな。
アリステア、レオナールの家は代々王家直属の調査部のような仕事をしているんだ。
まあこいつはまだ見習いなんだが」
「そういうわけでオスカー様とはあんまり親しくないふりしてるんだ~。僕はオスカー様の護衛も兼ねてるから生徒会には所属してるけどね~。アリステアちゃんも今までと同じ態度でいてね~」
「は、はい」……護衛?
「ああ、こいつは可愛い顔に似合わずかなりの使い手なんだ」
もう意外過ぎて何もいえません。
「こういうことをさ~オスカー様はレティシア嬢に話さないんだよね~」
「シアには心配かけたくないからな。問題が全部解決したら話すよ」
「カッコつけだよね~」
「うるさい!ところで今日アリステアにも来てもらったのはシアのことなんだ」
「レティシア様の?」
「ああ、二人とも聞いてくれ。私はレティシアに結婚を申し込む!」
———はい??
オスカー殿下ってレティシア様の婚約者だったよね?違ったかしら?
「オスカー様?今更申し込まなくても……」
「いや違うんだ。私はすぐ結婚したいんだ」
「「???」」
「通常では来年レティシアの卒業を待ってそれから結婚準備ということになる。それを1年前倒しにしたいんだ」
「でもレティシア様はまだ学生ですよ」
「だからシアには卒業試験を受けて卒業してもらいたいと考えている」
学園は最低1年在籍すれば卒業試験を受けて卒業することができる。レティシア様なら卒業試験も楽々クリアだろう。だからと言って……
「反対です!レティシア様が卒業しちゃったら学園でレティシア様を見られなくなっちゃうじゃないですか!」
私は抗議の声を上げたが、次の言葉であっさり方向転換した。
「アリステア、君には次期生徒会長になってもらいたい。一年頑張れば王太子妃になったシアの側近に推挙するが……どうだ?」
「私、アリステア・サルトンは何でもオスカー殿下に協力します!」
「でもオスカー様~?一年待てばレティシア嬢と結婚できるのに急ぐ必要あるんですか~?」
レオナール様の疑問にオスカー殿下が答えた。
「今までシアの周囲で不審なことが起こっている。もちろん早期解決を目指しているが、私はもうすぐ卒業してしまう。卒業したらシアの近くで守ることもできないだろう。
……それに……シアの近くにいるあの男……」
「ライアン・アルデュール様ですか?」
「あの男がずっとシアの近くにいるんだぞ!私のいない一年間ずっと」
———それが本音ですね。
「オスカー様が~レティシア嬢と離れたくない気持ちはよ~くわかりましたよ~。
じゃあ、僕たちに宣言するよりレティシア嬢にとっとと話してきてくださいよ~」
レオナール様の言うことももっともだ。私も頷いた。
「それなんだが……シアの学生生活の一年を私が奪ってしまうわけだろう。
だから代わりにはならないかもしれないが、思い出に残るようなプロポーズをしたくて……
シアが感激するような、惚れ直すような……」
「つまり~、オスカー様はライアン・アルデュールにレティシア嬢を奪われそうで焦っていると。それで~何とか振り向かせて囲ってしまいたいと~」
レオナール様、身もふたもないです。
「そんなことはない!シアは私を好いているはずだ。ただ、婚約は王家から侯爵家へ打診されたものだったから……私がシアに直接確かめたわけではないし……」
オスカー殿下がポンコツに見えてきた。
「でも~婚約期間が長かったんですから愛の言葉のやりとりぐらいしてたでしょ~」
「い、いや……言ったことはない……」
「「ないんですか!?」」
「シ、シアはクールな男が好きなんだ。だから……その……
でも!私はシアの前でいつも完璧なクール男子でいられるよう努力した!だからシアは私のことが好きなはずだ!」
ますますポンコツに見えてきた。
大体レティシア様がクール男子が好きっていうのも怪しい。なんでそう思い込んでるのかはわからないけど。
「とにかく!私はシアに思い出に残るようなプロポーズをしたいんだ。
アリステア、女性の観点からいい知恵があったら教えてくれ!」
つまり、それで私を呼び出したというわけですね。
私はしばらく考え込んで閃いた!
「殿下、卒業パーティーです!」
「卒業パーティーがどうしたんだ?もちろんシアをエスコートするつもりでいるが」
「その卒業パーティーでレティシア様にプロポーズするんですよ。
内緒で指輪とか花束とか用意して、全生徒が注目する中でいきなりひざまずいてプロポーズするんです。
そして皆の祝福を受けながらファーストダンスを踊るんです!」
「!!名案だ!!」
「もちろん事前にレティシア様に、プロポーズに相応しいドレスを贈って下さいね」
「もちろんだ!ああ、父上にも侯爵にも話を通しておかなくてはならないな。忙しくなりそうだ」
ノリノリで話す私とオスカー殿下をあきれたような顔をしてレオナール様が見ていた。
そしてすべての準備が整った卒業パーティー一週間前、あの事件が起こった。




