オスカー(3)
アリステアを襲った犯人は外部の人間だろうと予想された。
今日は学園祭で多くの人間が訪れている。女生徒に扮していてもわからないだろう。
念のため、隠した包みを取りに来るものがいないかと見張らせたが、誰も現れなかった。
犯行は外部の人間だろうし狙われたのはアリステアだが、プラチナブロンドのかつらでも分かる通りレティシアを犯人に仕立て上げようとしたのは明白だ。
引き続き調査することを騎士隊長に指示した。
レティシアを犯人だと言い張ったパメラ嬢たちもかつらが見つかった途端、「勘違いでしたわ」とか「悪意があったわけではないんですのよ」と言い張って有耶無耶になってしまった。
不機嫌な気持ちはパーティーのレティシアを見た途端に吹き飛んだ。
私の贈った薄いブルーのドレスに身を包んだレティシアは凛として美しかった。
昼間の影響か最初は硬い表情を見せていたレティシアだったが、友人たちといるうちに表情が解れてきたようだった。
レティシアのために用意したチョコレートの滝も楽しんでくれたようだ。
相変わらずあの男がそばにいるのは気に食わなかったが。
あの男がレティシアに串に刺したフルーツを取ってやり二人で談笑しているのを見たときは、各賞の発表など放り出して駆け付けようかと思った。
私は生徒会の仕事でエスコートできなかったが、やっと一段落してレティシアのもとへ向かうと、ドレスのお礼を言ってくれた。レティシアが喜ぶなら何着でも贈りたいところだ。
「シア、踊らないか?」
手を差し出すと、わずかに頬を赤らめて手を取ってくれた。
私と踊るたびに少しずつ色を変えて幾重にも重ねたスカートがふわっと広がり、女神が舞っているようだった。
ふいにシアが楽しそうに微笑んだ。その微笑みは私の心臓を鷲掴みにした。
私はいつにも増して眉間に力を入れ、クールを装わなければならなかった。
学園祭が終わると生徒会の仕事も一段落だ。
三年生の私たちは卒業に向けた準備に入る。それぞれ進路が決まる時期でもある。
私は卒業後に立太子することが決まった。私の兄弟は三歳下に第二王子、その二歳下に第一王女がいる。特に反対もなく、兄弟仲もよかったのですんなりと決まった。
ヒューゴももうすぐ隣国から帰ってくる。
次期生徒会会長はアリステアに任せたい。女性の生徒会長など風当たりが強いだろうが、立派に勤め上げればレティシアの側近に取り立てやすくなる。ぜひ頑張ってもらいたい。
第三回定期テストが終わった。
私はもちろん一位だがレティシアが順位を落とした。まさかの四位だ。
やはり学園祭の事件がショックだったのだろうか。
学園祭の事件は緘口令を敷いたにもかかわらず、噂になっていた。それもレティシアがアリステアを傷つけたなどというバカげた噂だ。
もちろん私もアリステアも何度も否定しているのだが、犯人が見つかっていないのでなかなか噂が消えない。そのこともレティシアを傷つけているのだろう。
レティシアとの会食は学園祭が終わった週から復活した。
二人で会食をするときは大体サロンの一室を利用する。ほかの者に邪魔されたくないからだ。
サロンというのは学園の生徒が数名集まってお茶会などをするときに利用できる部屋のことだ。
学園にはそういう部屋が数室あって、申し込みで利用できることになっている。
テストの順位発表後の会食の時、レティシアはものすごく落ち込んだ顔をしていた。
「申し訳ありませんオスカー様、順位を落としてしまいました……」
「シア、私に謝る必要などない。何も一位を取る必要はないのだ。
それより体調が優れぬのではないか?無理をせずゆっくり休むことだ」
「ありがとうございます……」
私はうまく慰められたのだろうか?シアの笑顔を引き出すにはどうしたらいいのだろう。
数日後の昼休み、レティシアが一人で庭園を歩いていくのを見かけた。
旧校舎脇の小道を歩いていくのならわかるが、方向が全く違う。不思議に思って後を追うと、庭園の奥にあるガゼボを目指しているようだった。
そしてガゼボで待つ人物を見た途端、頭にカッと血が上った。
あの男だ!ライアン・アルデュール。
「ライ!どうしたの?こんなところに呼び出して」
レティシアがあの男に声をかけたのが聞こえた。
私はあの男が何か答えるより早く声をかけた。
「シア、こんなところでどうしたんだ?」
「オスカー様!オスカー様こそどうしてここに?」
「シアを見かけたので追ってきたんだ。君はライアン・アルデュールだな。シアに何の用だ?」
ライアンは、私がレティシアに声をかけた瞬間は残念そうな顔をしたが、すぐ表情を立て直し、にっこり微笑んだ。
「レティを元気づけようと思っただけですよ。友達としてね」
私には挑戦的な目を向けてくるがレティシアにはにっこり微笑む。
「レティは心無い噂で元気がありませんでしたからね。
レティ、このあたりの花は今が見ごろだろう?このガゼボから見る景色は格別なんだ。ここへ来て見てごらん」
レティシアは少し小高い場所にあるガゼボまで階段を上りライアンの隣に立ってあたりを見回した。
「わあ!綺麗!ライ、ありがとう」
私は少し離れたところから二人の様子を見ていた。
あの男は私が引き出したかったシアの笑顔を簡単に引き出す。
ライアンは確実にレティシアのことが好きだろう。それは前々から感じていたことだ。
レティシアはどうなのだろう?と考えて、それは無駄なことだと気が付いた。
私はレティシアを手放す気などない。それはレティシアが誰を好きでもだ。
だからもし、レティシアがライアンを好きでも全力で私の方を向かせるよう頑張るだけだ。
「あの、オスカー様、ここへ来て一緒に見ませんか?」
「ありがとうシア。残念だけど用事を思い出したので私はもう戻るよ」私はある決意をした。
レティシアは少し淋しそうに微笑んで「そうですか」とだけ言った。
「シア、王子妃教育は終わったと言ってたな?」これを確かめておかなくては。
「はい。先週すべての王子妃教育を終えたと王妃様の侍女長に伺いました」
「わかった。シアも早めに戻るように」
私はそう言って歩き出そうとした。
「恋人に会いに行かれるんですか?」
いきなりライアンが声をかけてきた。恋人?意味が分からない。私の恋人はシアだけだ。
「何を言っているかわからないな」
そういって今度こそ歩き出した。
私の決心についてアリステアから意見をもらおう。
決心を変えるつもりはないが、女性ならではのアドバイスはあるかもしれない。
はやる心を抑えつけた。




