アリステア(5)
学園祭を控え、生徒会の面々は多忙な日々を送っていた。
その日も私はオスカー殿下と二人、ホールでの演奏会の演目の打ち合わせに出向き、打ち合わせを終えて渡り廊下を歩いていた。
ふと外を見ると旧校舎の横の小道を歩くレティシア様が目に入った。
殿下に教え、二人で旧校舎を目指す。
人に見られないよう注意をしながら旧校舎に入り、図書室奥、いつもの場所でレティシア様を待った。
「アリステア、毎日忙しいのによく頑張っているな」
「殿下の方がお忙しいんじゃないですか?」
「ああ。シアの歌声を聴いて癒されればまた頑張れるだろう」
一応人に見つからないように小声で話す。
「そうですね。私もレティシア様大好きですけど、殿下も相当ですよね」
「あ、当たり前だろう」
オスカー殿下は照れたような笑みを浮かべた。
「シアはな、表情が変わらないとか冷たいとか言われているが、とても感情豊かなんだ。ほかの者にはなぜわからないのだろう。それに人のことを悪く言わないんだ。少し抜けているところも可愛い」
オスカー殿下はものすごく幸せそうな笑みを浮かべた。
その微笑みをレティシア様に見せてあげればいいのに。
「うーん、私はレティシア様大好きですけど、殿下のことは認めてあげます。殿下だったらレティシア様を幸せにしてくれるでしょうから」
「お前、偉そうだぞ。シアは元から私のものだ」
「はいはい。それにしてもレティシア様遅いですね」
その後、少し待ったがレティシア様は現れず、私たちはがっかりしながら旧校舎を後にした。
忙しく諸々の用事を済ませ、寮に向かったのは今日も夕闇が迫る時間帯だった。
帰りが遅くなると殿下は必ず私を寮まで送って下さる。二人で寮まで歩いていると、ファニス様と行き会った。レティシア様のお友達だ。
様子が少しおかしかったので殿下が訊ねると、レティシア様が一人で街に出かけてまだ帰ってきていないのだという。心配なので、ライアン様に様子を見てきて欲しいと頼んできたところだという。
その話を聞いて、殿下はすぐ足を街の方向へ向けた。
私も心配でついていく。
街へ続く道を早足で歩いていくとすぐにレティシア様たちを見つけたが、なんと!レティシア様がライアン様にお姫様抱っこされている。
レティシア様が足を怪我されたらしい。
私はレティシア様の怪我が心配だったが、隣のオスカー殿下から漂う冷気が凄い。
ライアン様がレティシア様をお姫様抱っこしているのが気に入らないのはわかるが、私としては怪我したレティシア様を一人で歩かせるなんてもっての外だ。ライアン様を褒めたいぐらいである。
オスカー殿下の不機嫌オーラは凄まじく、お姫様抱っこがライアン様からオスカー殿下に代わっても恐ろしくてオスカー殿下の顔は見れなかった。
学園祭当日がやってきた。
今日を乗り越えれば生徒会も暇になる。三年生は卒業に向け事実上の引退だ。
当日も生徒会役員は忙しい。
「武術大会の対戦相手に変更があるそうです」 「ホールの椅子が足りないので追加をしてください」 「教室の展示物が……」 「中庭でもめ事が……」
様々な用事で引っ張り出される。
偶々ほかの方々が出払って生徒会室に一人になった時、ノックが聞こえた。
「あの、実験棟で不審な物音がするんですけど」
見覚えのない生徒だ。
実験棟は今日は使われていない建物だ。出入りは特に規制されていないが、何かあっても困るので、私は実験棟に向かった。生徒会室に来た生徒はいつの間にかいなくなってしまった。
まあいいや、私は実験棟の教室を点検していった。建物には入れるが、各教室は今日は施錠されているはずである。鍵が開けられていないかを点検していると、ふと後ろに気配を感じた。
ザクッ 咄嗟に感じたのは痛みよりも熱さだった。
私を切りつけた犯人はすぐ身をひるがえして東側の出口に向かって走っていった。
プラチナブロンドの髪を翻して。
「きゃあ!」
悲鳴が聞こえた方を見るとパメラ様たちが私をみて悲鳴を上げていた。腕を見るとざっくり切られて血が滴っている。
すぐに騎士が数名駆け付け、私の腕を見ると布を当てて縛ってくれた。
早く医師に見せましょうと促されて歩き出そうとしたとき、腕を掴まれて連れてこられたのはレティシア様だった。
なぜレティシア様が?と思ったが、治療が先だといわれ、医務室で医師の手当てを受けた後、学園長のもとへ向かった。
入室すると学園長、レティシア様、パメラ様たちに加えオスカー殿下もいらっしゃった。
「アリステア、腕の怪我は大丈夫か?」
「はい。血は沢山出ましたけどそれほど深い傷ではないので。痕も残らないそうです」
オスカー殿下はホッと息をつくと真剣な顔をして私を見た。
「それで……君を傷つけたのはレティシアか?」
私は少し考えて答えた。
「いえ、レティシア様ではありません」
私の返事にパメラ様が抗議の声を上げた。
「そんな!あなたも見たでしょう。犯人はプラチナブロンドの女生徒だったわ。この学園でプラチナブロンドの女性はレティシア様だけですわ!」
「アリステアは犯人の顔を見たのか?」
「いえ、後ろから切られましたし、異変を感じて振り返った時にはもう逃げていくところでした」
「でしたら!——」
「香りが……」
「香り?」オスカー殿下が不思議そうな声を上げる。
「はい。レティシア様はいつも同じ香水をつけてらっしゃいますよね」
オスカー殿下が前に『私があげた香水だ。オリジナルの香りだ』と自慢していた。
「ええ」レティシア様は戸惑いながらも答えた。
「今日もつけてらっしゃいますね。私、人より鼻が良くてこの距離でもわかるんです。(レティシア様限定だけど)
切られたとき、犯人はもっと近くにいましたよね?でもその香りはしませんでした」
パメラ様たちが動揺して「そんな……香りなんて……」「勘違いではないの?」なんて呟いているときにまたノックの音がした。
入室してきたのは今日学園の警備を任されている騎士たちの隊長さんだった。
「殿下、お探しのものを見つけました。使用人たちが使っている門のすぐ近くの木立の中に隠してありました」
隊長さんが持ってきた包みを広げると、中から出てきたのは———
プラチナブロンドのかつらと女生徒の制服だった。




