オスカー(2)
昼休みが終わり午後の授業の準備をしている時にその会話が聞こえてきた。
今日は久しぶりにシアの歌を聴けたので、私はあの素晴らしい歌声の余韻に浸りながら準備をしていた。
「おい、二年生のクラスで騒ぎが起こっているんだって?」
「ああ、二年のAクラスで何か揉めてるみたいだぞ」
「誰かのドレスが切り裂かれたって言ってたぞ」
「エグいことするなあ」
二年のAクラスはシアのクラスだ。アリステアもいる。嫌な予感がした私は二年のAクラスに向かうことにした。同じクラスの生徒会役員ストランド、ギルフォードと共に向かう。
二年Aクラスの前はものすごい人だかりだ。
「何の騒ぎだ」私が声をかけると人混みがさっと割れた。
ストランドに妹のパメラ嬢が声をかけてきた。やけに嬉しそうだ。
「お兄様!アリステア様のドレスをレティシア様が切り裂いたのですって!」
は?バカも休み休み言え!そんなことシアがするわけないだろう。
シアの顔が見えた。泣きそうな顔をしている。抱きしめて慰めてあげたかったが、シアの隣でシアの肩を抱いている男が目に入った。
ライアン・アルデュールまたお前か!眉間に皺が寄る。
怒りを表に出さないよう努めて冷静な声を出した。
「ベルナール・ジュヴィル説明してくれ」
ベルナールの説明とシアやライアンの弁明を聞く。
アリステアは小さくかぶりを振ってすがるような眼で私を見ていた。
私は先生にこの事件を調査する権利を願い出た。
第一王子の婚約者にかけられた嫌疑だ。小さい事件だからといって有耶無耶にはできない。
この時間は二年生は自習にしてもらい、一人ずつ呼び出して話を聞いた。
その結果、私はある確信を得た。
自習時間の終わりごろ、私は二年Aクラスに入っていった。
教室の外は鈴なりの人だかりだ。Aクラスの生徒たちも外で見物しているギャラリーも私の発言を待っている。
「ベルナール・ジュヴィル。君がこのドレスを発見したんだったな」
私の言葉を受けベルナールが立ち上がった。
「はい。僕とそこにいるマービン、レイモンの三名で発見しました。
殿下には申し訳ないのですが、犯人の見当がついた僕は教室に帰ってくる生徒一人一人に———」
「いや、そのことは今はいい。それより君たちはずいぶん早く教室に戻ってきたんだな」
私はベルナールの言葉を遮り、ベルナールの指したマービンに聞いた。
「あの、ベルナールが次の授業で事前に調べたいことがあるから早めに教室に戻ろうと言ったので」
椅子をガタガタ言わせながら立ち上がりマービンが小さい声で答えた。
「ベルナール、調べたい事とは何だったんだ?」
「殿下、そ、そんなことはどうだっていいじゃないですか。この騒ぎで忘れてしまいました」
「そうか、まあそれはいいとしよう。
ところで、この時間、私は皆を一人ずつ呼び出して話を聞いた。そして目撃者を得ることができた」
そう言って私は手招きをした。入ってきたのはCクラスの令嬢だ。
「君は昼休み、このクラスに入る人を見かけたそうだな。誰だったのかもう一度言ってくれ」
顔を赤らめながら彼女ははっきり言った。
「はい、オスカー殿下。私は同じCクラスのイオニス・ダルタング様がAクラスに入るのを見ましたわ」
「誰か、Cクラスのイオニス・ダルタングを呼んできてくれ」
「ちょ、ちょっと待ってください、殿下」
ベルナールが焦って声を上げる。私は構わず続けた。
「ベルナール、君は昼休み中庭の噴水のところで友人たちと話をしていたそうだな。四人で。
君は小道を歩いていくレティシアを見かけたんだろう。そしてレティシアが戻ってこないのを確認して一人の友人に耳打ちした。かどうかはわからないが君たちの内一人が校舎に戻っていくのは目撃されている」
「僕たちが噴水のところにいたからなんだっていうんです!友人が校舎の中に戻っていったのが何か関係ありますか!?」
「関係あるか無いかはイオニス・ダルタングに話を聞いてからにしよう」
ベルナール・ジュヴィルは顔面蒼白だった。
程なくしてイオニス・ダルタングがやってきた。
「イオニス・ダルタング、君は今日の昼休み、このAクラスに入って何をしていたのか教えてくれないか」
イオニスは真っ蒼になって震えている。
「あの、その……」
「今、第一王子である私の婚約者に嫌疑がかけられている。そのことを踏まえ正直に話してくれ」
イオニスは膝をついた。涙声で話す。
「ぼ、僕は……ア、アリステア嬢のドレスをハサミでき、切りました……」
「どうしてそんなことをしたんだ?」
「イオニス!!」ベルナールから鋭い声が飛んだが彼は無視した。
「べ、ベルナールから頼まれたからです……ベルナールは言ってました。『大丈夫、ちょっとした悪ふざけだ。Aクラスだけの問題だからCクラスのお前が疑われることはない』って。
僕の家はジュヴィル侯爵家の傘下だから断れなくて……」
Aクラスの生徒も教室の外のギャラリーも皆唖然としていた。
一番騒ぎ立てていたベルナールが犯人だったのだ。
「ベルナール・ジュヴィル、イオニス・ダルタング。一緒に来なさい」
ベルナールは先生の声にハッと顔を上げた。
「待ってくれ、待ってください!僕は……僕はこんな大事にするつもりなんてなかったんだ。ただ、アリステアの周りで色々なことがあって……不安になったアリステアが僕を頼ってくれたらと……そして僕が問題を解決したら尊敬してくれるんじゃないかと……」
「そんなことのためにレティに濡れ衣を着せたのか?」
怒りを抑えたようなライアン・アルデュールの声が聞こえた。
「だ、だからそんなに大事にするつもりじゃなくて……レティシア嬢が謝ってくれたら、『ちょっとした出来心だろうから許してあげてくれ。僕が代わりのドレスをプレゼントするよ』って……」
私はあきれて声も出なかった。そんな理由で私のシアを傷つけるなんて……
「今までのアリステア嬢への嫌がらせは皆ベルナールの仕業だったのか」
どこからか聞こえた声にベルナールは反論した。
「それは違う!僕は——―」
いきなり一人の令嬢が立ち上がって叫んだ。
「違くないわ!ジュヴィル様は私にアリステア様の私物を隠してくれって頼んだじゃない!」
それを聞いたアリステアはベルナールに近づくと思い切り平手打ちをした。
バッチ―――ン!小気味いい音が響く。
アリステアは怒りのあまり涙ぐんでいた。自分のせいでシアにつらい思いをさせてしまったと悔しい思いでいっぱいだろう。フルフルと震えている。
ベルナール・ジュヴィルとイオニス・ダルタングは先生に連れられ教室を出て行った。
イオニス・ダルタングは大したことにはならないだろう。ドレスを切り裂くなど悪質だが、アリステアに謝罪してドレスを弁償するぐらいか。
しかしベルナール・ジュヴィルはそうはいかない。この私の、第一王子の婚約者に冤罪をかけようとしたのだ。
この数日後、ベルナール・ジュヴィルはこの学園を卒業した。




